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アキシマエンシスですよ

最近あつ森の記事がほとんどで見学レポがなかったのと施設の名前がそれっぽくないので、一見なんだか分からないタイトルになっておりますが元々「(場所の名前)ですよ」というタイトルで見学レポを書いていたんですよ。

アキシマエンシスというのは東京都昭島市にある図書館がメインの文化教育施設なんですが、この変わった施設名は昭島市内で化石が発見されたアキシマクジラというクジラの学名「エスクリクティウス・アキシマエンシスEschrichtius akishimaensis」にちなんでいます。

この施設は大半図書館ですが郷土資料もたくさん展示されていて、そのうち半分は文化関係、もう半分がアキシマクジラと同じく市内で産出した化石なのです。つまりアキシマエンシスは郷土博物館でもあるわけです。

図書館でありながら博物館でもあるというと、

だいぶ前のこの記事で書いた「図書館に行くかのように動水博を見学する」というのと不思議にかみ合っていますね。

しかもここのところ「動水博を見学するためになじみのない駅で降りて町を歩く」ということや、地方の自然史と文化史両方が展示されている博物館に飢えていたので、多摩県内での移動に収まる(新宿を通らずに済むの意)なら……と行ってみたわけです。私が住んでいるのも多摩川流域ではありますし、大まかに言って自分の暮らしている地域のことを知る機会でもあるのです。

下調べすると昭島市民の皆さんにもアキシマクジラは非常に親しまれているようです。いわき市におけるフタバスズキリュウや歌津地域におけるウタツサウルスのように古生物が地域に親しまれている様子にもとても興味があり、たびたび古生物飼育小説のネタにもしているので、昭島駅を降りたところから気を付けて見てみたところ、

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早速ロータリーにこんな案内板や、

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こんなモニュメントが。

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公民館にも実物大13.5mの復元イラストがかかり、

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もちろんマンホールも。

大幅にデフォルメされた「いわゆるクジラの絵」とリアル指向なものが入り混じっていますが、アキシマクジラ自身は現生のコククジラにとても近縁で(上記の学名の前半にある属名もコククジラと同じです)、よほどクジラを見慣れている人でないとコククジラと見分けられない姿だったはずです。

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町中に施設の看板が出てくると「博物館のある町に来た」っていう気がします。

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アキシマクジラに学名が付いたのはほんの数年前ですが、この施設がオープンしたのもほんの数ヶ月前です。

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入るとすぐにアキシマクジラの全身復元骨格が出迎えてくれます。ほぼ全身が発掘されている上ごく近縁な種が現生しているので、かなり正確な復元と思われます。

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ヒゲクジラ類はたいてい楕円形の下顎をしているんですが、アキシマクジラの下顎はかなり直線的です。これは同属のコククジラと同じく、海底の砂を顎の側面でさらって砂の中の小さな生き物を食べるのに適しているようです。

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参考に、アングルがだいぶ違うものの海響館のシロナガスクジラを。一旦外側に広がってゆるくカーブしているのが分かるでしょうか。こちらは正面から大量の水を吸い込むので顎の幅が広がっていた方が都合が良いようです。

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顎を動かす筋肉が付着する突起もあまり発達していないようです。水の抵抗を顎の内側で受け止めることがないからでしょう。

これは館内に収蔵されている鯨類の骨学に関する本を開いたところ、コククジラはこうだと指摘されていたので気付くことができました。この本を収蔵していたのはさすがです!

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クジラの骨格ということでいえば色々な博物館で見られるのですが、コククジラ属を色々なアングルでということでいえばアキシマエンシスは貴重だと思います。それはなるべく多くの種類を見るというだけでなく、それぞれのクジラごとの適応がきちんと読み取れるからです。

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さて骨格はただモニュメント的に飾られているのではなくきちんと解説も充実しております。

アキシマクジラは200万年弱ほど前、関東平野がだいぶ海に沈んでいて昭島が浅瀬だった頃に生息していたクジラで、1961年に多摩川の八高線鉄橋のところでとある親子によって発見されたとのことです。

しかし本格的に研究が進むようになったのは化石海生脊椎動物の専門家である長谷川善和名誉館長率いる群馬県立自然史博物館に移送された2012年頃からでした(群馬にも海で堆積した地層があり、群馬県博には海生生物の化石がたくさん展示されているのです)。

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一方、その間にも昭島市にアキシマクジラの存在は浸透し親しまれていったのでした。

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復元骨格の作成に関する展示もあります。というか、こういう人々とアキシマクジラとの関わりの展示がメインだったりします。

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クジラがいる海にはクジラだけが生息しているわけではないので、かなり大きなサメの歯や……、

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様々な小さな生き物や、陸の植物の化石も発見されています。化石化しやすい貝が多いですが、アキシマクジラはもう少し柔らかい生き物を食べていたと思われます。

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ミドリシャミセンガイ!?後に多摩川になる地域にそんなものが!?

……えー、何なのかというと二枚貝のようで二枚貝でない腕足動物という生き物で、その中でも今では激減してなかなか見られない種です。多摩川でねえ~~~。

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これは哺乳類の部分骨のコーナーです。背景は古環境復元のイラストですね。湿潤な陸地もあったようです。

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アキシマクジラの下顎の真っ直ぐ具合が実物でも確かめられます。

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サンバーやシフゾウ(シカマシフゾウ)といった今は大陸の全然別の地域に暮らしているシカが当時は昭島にもいたようです。

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アケボノゾウは現生のゾウとかなり似ているものの歯の形などが異なるゾウ類で、やや小柄な種類です。

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児童書のコーナーに展示されているアケボノゾウの幼体の頭骨です……児童書とこれを一緒に並べる見事なセンス!

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郷土資料室は文化史がメインで、自然史はこの復元模型と映像展示、それからアキシマクジラが地元の人にどう受け止められているかを生々しく記した作文(重要)のみです。

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同じ川の違う町の歴史に触れるのは不思議な感じがしますねえ~。文化史展示も現在の祭の様子までつながっている見事な展示だったんですけれどさすがに詳しくは触れません。

この他にも細かい展示や工夫が様々に施されていましたが、特に目を引いたのは市民ギャラリーにあったアキシマクジラを主人公とした切り絵の絵本でした。英語圏出身で市内在住の小学生が作ったものだったようです。

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昭島の町の空に浮かぶアキシマクジラを眺めてお別れです。

地層や当時の生態系に関してそこまで綿密な解説はないので自然史系の展示としてはややあっさりしていますが、展示されている標本そのものが地域に密着している分雄弁ですし、化石に対する地域の人々の親しみ具合が見られるというのが非常にありがたいです。

比較的近くの町でこれが見られたということで、今後かなり意識していくことになりそうです。

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