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しそちょう島自然史博物館第4回特別展「恐竜か恐竜でないか、それが問題だ」展示解説

はじめに

夏です。恐竜の夏です。なぜだかそういうことになっているのです。

しそちょう島自然史博物館で特別展を開催するようになってから初めての夏、これは恐竜展を開催せずにはいられません。それではしそちょう島で開催するべき恐竜展とはどのようなものでしょうか。

館長はここのところ、博物館や恐竜展での恐竜の展示について思うことがありました。「これらの展示は、図鑑などを読み込んで過ごしてある程度恐竜のことを理解している人でなければしっかり読み解けないのでは?」

「あつまれどうぶつの森」の世界は、ギリー・ブローグスからセンジュナマコまで何でもかんでもあつ森という一つの皿に載せてしまいます。あつ森の中のどの要素に惹かれて始めたかたも、全く関係なかったはずの要素に触れざるを得ないのです。恐竜に触れてこなかったかたが初めて恐竜に触れる場となる可能性は恐竜展や博物館以上です。あつ森で恐竜展を開くなら、是非とも「初心者中の初心者向け」にしたいものです。

館長はまた、あるところでこのような話題に触れました。「首長竜を恐竜でないと説明するのなら、恐竜でないとすることでどんなよいことがあるのかも伝えたいものだ」

少し恐竜に触れれば、絶滅した大きな動物の中であるものが恐竜でありまたあるものは恐竜ではないということは常識になってしまいます。しかし恐竜に触れていないかたがたの間では「恐竜」とはもっと漠然とした意味の言葉になってしまっているようです。

地球上の生物の歴史は数十億年、複雑で大きな生物の歴史だけでも6億年は続いてきました。この間、非常に様々な生き物が入れ替わり立ち替わり、現れては滅んでまた他のものが現れることを繰り返してきました。この長く複雑な歴史を整理し理解するには、これら古生物を分類しなくてはなりません。言葉としての象徴性にもかかわらず、「恐竜」もとい「恐竜類」とはそうした古生物の分類のひとつにすぎないのです。

「恐竜」と「それ以外」を分けることでどのように理解が進むのでしょうか。今回の特別展ではその実例をいくつかご覧に入れますので、古生物の広大な世界を進む指針を手に入れ、分類学の果たす大きな役割に触れていただければと思います。

(※しそちょう島自然史博物館はあくまで「あつまれ どうぶつの森」を私がプレイする上での設定上の博物館です。この記事は個人が趣味の範囲で解説しているものです。あくまで生き物の世界の入口としてお楽しみいただき、詳細に関してはより確実な情報源に当たられることをお勧めいたします。)

アクセス

下記の夢番地にて公開中です。時間帯は昼12時台となっています。

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広場の南側に探索用の道具をご用意いたしておりますのでご利用ください。

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本展の会場は島のあちらこちらに散らばっています。看板による掲示がある場所に特別展の展示があります。

常設展示につきましてはおおむね下記の記事のとおりですが、各所が更新されています。

なお、現在手違いにより夢訪問で館長に話しかけた際に前回の特別展のアナウンスが表示されてしまいます。申し訳ございませんがご了承くださいますようお願いいたします。

その1 恐竜か怪獣か、それが問題だ

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配置:広場北西

まずはごく基礎の基礎からです。

一見似たように見えるかもしれないものが、片方は仁王立ちし、片方は前のめりになって踏み出していますね。

手前が怪獣であり奥がティラノサウルスであることは当然お分かりでしょう。しかし、ただぼんやりと、恐竜が怪獣、怪獣が恐竜と呼ばれてしまうことも往々にしてあります。ここで一度両者の違いをはっきりさせておきましょう。

怪獣はあくまで架空の存在であり、映画文化で取り扱われるものです。いっぽう、恐竜は実在した動物であり、古生物学で取り扱われるものです。メディアや資料の雰囲気が異なるのが見てとれますね。

また、あえて怪獣と恐竜を並べることで恐竜類全体の特徴がはっきりします。怪獣はその隣に置かれた望遠鏡と同じく、左右に踏みしめた両脚と後ろに下ろした尾の3点でどっしりと体を安定させ、背筋を立てて立っています。

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この豊橋市自然史博物館に展示されているティラノサウルスの骨格をよく見てみましょう。体の途中にある扇形の骨が骨盤(腸骨)で、その下から伸びているのが脚です。天秤になぞらえると、体が天秤の水平に支えられた両腕、後ろ脚が天秤の支柱に当たります。

恐竜の重心は骨盤にあり、後ろ脚によって体重を支え、体を水平に保っているのです。これは後に出てくる、ティラノサウルスとはかなり体型の異なる4足歩行の恐竜にも基本的に通じる恐竜類全体の特徴です。

他にも、怪獣と比べてティラノサウルスのほうがずっとシンプルな姿をしていることなど、見比べると色々な違いが見付かるのではないかと思います。

その2 恐竜か海生爬虫類か、それが問題だ

恐竜の後ろ脚にまつわるもう一つの重要な特徴を通じて、恐竜と他の「恐竜と思われがちな古生物」の違いと、その特徴が恐竜の歴史に与えた影響を見てみましょう。

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海辺にはフタバサウルスオフタルモサウルス、恐竜時代の海の主役たちが集まっています。しかし傍らの看板は「Not Dino」、そして謎の顔出しパネルまで。奥のほうにスピノサウルスが孤立していますね。

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スピノサウルスは海ではなく川に入ろうとしています。恐竜の中では特に泳ぎに適応した種類だったことが明らかになりつつありますが、それでも先程の2種ほど上手くは泳げず、もっぱら川辺で過ごしたと考えられています。そして手前には、オオフナガモジェンツーペンギン(※)という海で泳ぐことに適応した鳥類の姿があります。「This is Dino」という看板はこれら海鳥のこともまとめて指しているようです。

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先程はティラノサウルスの骨格を横から観察しましたが、今度はスピノサウルスの骨格を真上から見てみましょう。スピノサウルスの後ろ脚は全くがに股になることなく体に沿っています。スピノサウルスの前に立てられた顔出しパネルは、スピノサウルスの後ろ脚が体の下に真っ直ぐ降りていることを示していたのです。

スピノサウルスが泳ぐとき、後ろ脚は犬かきのような動きをするか、さもなければ邪魔にならないように畳んでおくしかありません。それはスピノサウルスの遠い親戚であるカモやペンギンも同様です。鳥と恐竜についてはまた後程詳しくお話しします。

後ろ脚が体の下に真っ直ぐ降りているというのも、恐竜類の後ろ脚の重要な特徴です。というより、恐竜類とそれ以外の爬虫類を分類するとき、股関節の構造がそのようになっているかどうかによって分かれるのです。

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フタバサウルスとオフタルモサウルスも真上から見てみましょう。これらは後ろ脚も前脚も真横に張り出しています。先程の顔出しパネルのとおりです。スピノサウルスと比べてかなり泳ぎやすそうに見えますね。

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これはいわき石炭化石館ほるるという博物館で展示されているフタバサウルスの骨格の胴体部分です。右が前で左が後ろなのですが、肩の骨も骨盤も腹側にぺったりと貼り付いた板のようになっているのが分かるでしょうか。鰭状の四肢で水を切るにはよいのですが、先程の恐竜の骨盤と違って、陸で体重を支えるには全く向いていません。

恐竜類は後肢の向きが体を支えやすいようになっていたためか陸上で大繁栄しましたが、スピノサウルスのように泳ぐものはなかなか現れず、よく泳ぐものは鳥類の中に多く現れました。いっぽう、フタバサウルスのような首長竜やオフタルモサウルスのような魚竜類は、恐竜類が現れ始めた頃にはとっくに海で繁栄していました。

こうして、恐竜類とそれ以外をきちんと分類し、各々の特徴を把握することで、その歴史を読み解くことができるようになるのです。

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ところで、恐竜のいた時代には様々な爬虫類が海に進出しましたが、その中でウミガメだけは現在まで生き残りました。アーケロンの甲羅は柔らかい皮で覆われていましたが、現在のオサガメという種類のウミガメも同様です。

(※)ジェンツーペンギンのマイデザインはこはく島のきゅう様によるものです。素晴らしいマイデザインに感謝いたします。

その3 恐竜か哺乳類か、それが問題だ

スピノサウルスのように泳ぐ恐竜は珍しい存在でしたが、今度はもっと広くみられた恐竜の特徴を哺乳類と比較してみましょう。植物を食べる恐竜は恐竜の時代のごく初期を除くほとんどを通じて存在しましたが、その恐竜自身の特徴や周りの植物に合わせて色々な適応をしていました。

恐竜が絶滅する前とした後では異なった植物が繁栄していたのですが、それもある程度踏まえつつ、似たような戦略で植物を食べることに適応した恐竜と哺乳類を比較してみましょう。

まずは巨大なもの同士です。

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ディプロドクスが針葉樹に長い首を伸ばしています。これだけ首が長く体が大きければ、少しくらい高い木の葉も食べられるでしょう。ディプロドクスの時代にはこれとは少し違った針葉樹が繁栄していました。しかし頭の横にカッティングボード、腹部の横にはコーヒーミルが添えられていますね。

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いっぽうマンモスが食べようとしているのは麦の束です。マンモスの中でもシベリアのケナガマンモスはイネ科の草を主食としていたことが分かっています。地表の草を摘み取る鼻が見えませんね。ゾウの鼻は筋肉の束で、骨は通っていないのです。ここにもカッティングボードとコーヒーミルがありますが、今度はコーヒーミルは頭の横に置かれています。

ディプロドクスとマンモス、どちらも長い部分の先で植物を摘み取って食べる大きな動物です。長くてよく動く部分があれば大きな体をあまり動かさずに多くの植物を集めることができます。

しかし口に入れた植物をすり潰す場所は異なっているのです。

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これは福井県立恐竜博物館の20110年の特別展で展示された、幼いディプロドクスと、ディプロドクスの近縁種であるアパトサウルスの頭骨です。櫛の歯のような細長い歯が口先にだけ生えていて、いわゆる奥歯らしい奥歯はありません。

これらのような首の長い恐竜「竜脚類」の歯には、植物を摘み取る機能しかないのです。植物を長い間力を込めて噛むことがないので、その分頭骨を簡単で軽い造りにすることができ、長い首の負担にならずに済んだようです。

しかし植物を消化するには固い細胞壁を壊して中身を出させ……、要するによくすり潰さなくてはなりません。竜脚類の場合、その役目は胃の一部、ニワトリの肉でいう「砂肝」のような器官で行っていたと考えられています。

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こちらは豊橋市自然史博物館のケナガマンモスの頭骨です。口の中に大きな歯が見えるかと思います。

マンモスは現在のゾウの祖先というよりはゾウの一種、ゾウ科のメンバーです。ゾウ科のゾウは石臼のような巨大な奥歯と、さらにそれが生涯に何回も生え代わるシステムを獲得しました。このため、イネ科の草をよく噛んですり潰しても、その中に含まれる鉱物で歯がすり減っていくことに対抗できるのです。イネ科の草はゾウ科のゾウと同じくらいの時期に繁栄し始めました。

ディプロドクスがやや高い位置から植物を集めたいっぽう、地表近くの植物を摘み取るものもいました。

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ステゴサウルスはかなり頭の位置が低い植物食恐竜です。口の先はクチバシになっていて、これでシダ植物や、ベネチテス類という植物(ちょうど緑のカーニバルのランプとちょっと似た姿をしていました)などを摘み取って食べていたようです。

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これは国立科学博物館のステゴサウルスの頭部です。クチバシはそこまで強力なものではありません。ディプロドクスと違って口の奥のほうまで歯があり、また歯自体もものを切るのには適しているのですがあまり丈夫ではなく、植物を粗く噛んで飲み込み、やはり胃の働きですり潰したと考えられます。

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メガセロプスウマに近縁な哺乳類です。恐竜が絶滅した後ですが、イネ科の草が繁栄するよりは前の時代に現れました。つまり地表近くの植物はイネ科よりは柔らかいものばかりだったのです。

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これは国立科学博物館にブロントプスとして展示されているメガセロプスの口先です。前歯があまりしっかりしていないことから、簡単に摘み取れるものを食べていたのかもしれません。奥歯は大きいですがゾウやウマほど頑丈ではありません。ステゴサウルス同様柔らかい植物を摘み取って、一応奥歯で噛んで食べたと思われます。

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ここまであまりものをよく噛まない恐竜ばかりでしたが、恐竜の時代の後のほうにはものをよく噛むことに適応した恐竜も現れました。それがトリケラトプスなどの角竜類と、イグアノドンパラサウロロフスなどの鳥脚類です。なにやらヤシの切り株が見えますが、もしかしたらトリケラトプスが食べてしまったのかもしれません。

これらはクチバシと奥歯を持つ祖先から別々に現れつつ、丈夫な顎や、デンタルバッテリーという特徴を別々に獲得しました。

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これは群馬県立自然史博物館で展示されているトリケラトプスの下顎です。一見小さな歯しかないように見えますが、先程のメガセロプスの歯が大きくても歯根が見えていたのに対し、こちらはしっかりと固定されています。しかも、顎の中には予備の歯がびっしりと収まっていて、使っている歯がすり減っても生え代わるようになっているのです。このシステムをデンタルバッテリーといいます。

どちらかというと角竜のほうが切り刻むことに向いていて、鳥脚類のほうがすり潰すことに向いているように見えるのですが、どちらも他の恐竜には食べられない固いものも食べられたようで、恐竜の時代の終わり近く、植物の種類が増える時期に大きく種類と個体数を増やしました。

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メガロケロスのようなシカ科やウシ科、つまり反芻動物も、独特の消化能力で繁栄したと言われています。反芻動物と言ってしまったとおりその能力とは反芻です。つまり食物を口内と胃内で往復させて、複数の部屋に分かれた胃の中での処理と咀嚼を繰り返すことで、イネ科のような咀嚼が難しい植物をうまく利用するのです。

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これは国立科学博物館に展示されている木曽馬と、メガロケロスの近縁種ヤベオオツノジカの頭部です。反芻動物であり木の葉もよく食べるシカは反芻動物ではなくイネ科をよく食べるウマと比べれば歯・顎ともに小さくてよいのですが、それでも植物をすり潰すことには高度に適応しています。

以上、恐竜と哺乳類はそれぞれ植物を食べることに適応し、その手段に似たところと違ったところがあることをご覧いただきました。

その4 恐竜か翼竜か、それが問題だ…恐竜か鳥か、それは問題か?

さて、実は哺乳類のほうにはそれぞれに近縁な現生種の姿を添えていましたが、植物のみを食べる恐竜は全て絶滅してしまい、現在その近縁種は生き残っていません。サイと角竜はいくら似ていても関係ないわけです。

しかし恐竜類には生き残りがいるということが近年盛んに言われています。最後のセクションはその生き残り、鳥類と恐竜との関係についてです。

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プテラノドンが翼を広げ、デイノニクスが飛び跳ねています。一見、自在に空を飛べるプテラノドンのほうがよっぽど鳥に近そうに見えるでしょう。しかしプテラノドンの前には、帆船の模型と共に例の「Not Dino」の看板が立てられています。

プテラノドンの翼をよく見てみると、前の縁全体に骨が通っていて、翼の輪郭が針金で示されています。

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これは館長が10年以上前に食玩のプテラノドンを改造したもので、半身を骨格として、透明な材質を利用して翼の形を残しています。プテラノドンの翼は羽毛ではなく皮の膜でできた、鳥の翼とは全く異なるものなのです。この構造の翼を持った爬虫類を「翼竜」といいます。

翼竜が恐竜ではないことは、その1とその2をご覧になった皆様なら後ろ脚を見てお分かりいただけるかと思います。翼竜は恐竜とは別に現れ、恐竜の時代を通してたくさんの種類を登場させていたのです。

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恐竜と鳥の共通点は骨格にもたくさんあり、その1とその2で示した後ろ脚の構造もそのひとつです。しかしなんといっても分かりやすいのは、どちらも羽毛を持っていることでしょう。

始祖鳥は恐竜という言葉ができたばかりの160年前に発表された、人類が初めて見付けた羽毛恐竜です。ただ始祖鳥が恐竜であるということがはっきりするにはそれから100年かそれ以上、その他の小さな恐竜がいくつも見付かるまでかかりました。

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これは国立科学博物館で2019年に行われた恐竜展で展示された、ミクロラプトルという小型羽毛恐竜です。鳥の翼を形作るのと同じような羽毛の痕跡が、前脚にも後ろ脚にも残っています。この恐竜の前後に鳥にごく近い恐竜の研究が盛んになりました。そういう意味でも、羽毛は恐竜と鳥類をつなぐ架け橋なのです。

さて、ここまで、恐竜と恐竜でないものをきちんと分けることで理解が進むというお話をしてきました。それでは、恐竜と鳥はきちんと分けることができるのでしょうか。

始祖鳥が鳥類と鳥類ではない恐竜の双方とどのような関係にあるかは意見が分かれています。細かく調べていった結果両者の間の境目がほぼなくなってしまい、便宜上、始祖鳥と同じかそれ以上に鳥の特徴を持っていれば鳥とすることが多いのですが、これだと場合によってはデイノニクスも鳥類に含めることになるのです。

このような進化の様子を研究した結果、「鳥は恐竜の一種であり恐竜そのものである」という言いかたも当たり前になりました。

その2のスピノサウルスのところで、オオフナガモとジェンツーペンギンもまとめて「This is Dino」の看板を立てていましたが、これはスピノサウルスと海鳥達に共通する後ろ脚の特徴、つまり進化の痕跡を取り扱うためでした。

「鳥は恐竜だ」というのは、あくまで進化という境目なく続いていく出来事について扱っているときの言葉です。現在の鳥についてだけ考えようとしているのに、いちいち一緒に恐竜が付いてきてしまうのはいかにも不便です。鳥類の中の分類も扱いづらくなってしまいますし、このような言いかたを常に正しいものとしていては、ヒトは魚類の一種だと言い切る羽目になってしまいます。

分類はあくまでヒトの便利な道具です。公正を期すために正確な分類を目指すことも、目的に沿った分類の基準を選ぶこともどちらも大切です。

デイノニクスや始祖鳥と一緒に並んでいるとき、白文鳥は確かに恐竜であると言えます。しかし家の中で飼われている白文鳥を見るとき、その子が遥かなる恐竜の末裔であることに思いをはせた後、可愛いペットの小鳥を見る目に戻ってもよいのです。


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