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「ポケモン化石博物館」開催記念 10年前のポケモンのデザインについての論考 再掲

大変ですよ皆さん!!!

全国数か所の博物館と株式会社ポケモンががっちり協力し合って、古生物をモチーフにしたポケモンを通じて古生物を知るという巡回展が開催されるというのです!!

巡回先のひとつ・国立科学博物館のサイトにはまた違った画像があるのでそちらも載せますね。

すでに発表されている内容に私のTwitterのタイムラインは大変沸き立っております。古生物の非常に確からしい知見を盛り込んだ見事なイラストと躍動的なポケモン達との対比、アマルルガ(先にリンクした記事のほう)とガチゴラス(後にリンクした記事のほう)の説得力ある骨格想像図、そしてポケモンとそのモチーフとなった生き物が堂々と同じ画像に載っているという稀有な事態、ポケモンと古生物どちらのファンも心躍らずにいられないものです。

特に、モチーフとポケモンが対比されている構図が、私の心をがっしり掴んでいます。私はポケモンのデザインとモチーフとなった生き物の関係にとても関心があり、そのきっかけになったのもほかならぬ化石ポケモンであり、そして、ティラノサウルスをモチーフにしたガチゴラスが登場する前に、ティラノサウルスのポケモンは登場するか、するとしたらどのようなものか、楽しく考えを巡らせたときのことなのです。

noteにもひとつガラル地方(最新作)の古生物ポケモンについて語った記事を載せていますね。

10年くらい前にも、ポケモンのデザインとモチーフの関係を考えることでティラノサウルスのポケモンの可能性を探った記事をブログに書いたのです。そしてそれがポケモンについての論考を集めた合同同人誌「ポケ論!」を編集していたわたなべ氏(当時のペンネーム)の目に留まり、氏のチェックを受けて合同誌の第2弾である「ポケ論2」に寄稿させていただきました。

そのときの結論をティラノサウルスのポケモンに関してだけ先に抜き出すと、「サメに対するサメハダーくらい大幅にデフォルメ・アレンジして、人工的なモチーフも織り込んだものになるだろう」というものでした。

さてポケットモンスターX・Yが発売してみましたらば(というか事前に新ポケモンが発表されたときですが)、本当にティラノサウルスをモチーフにしたガチゴラスは確かに王様という人工的モチーフを大胆に織り込んではいるものの、全体のスタイルはティラノサウルスの特徴を余さず再現し、それでいて独自のキャラクターとして確立されたデザインをしていました。

ガチゴラスを含むX・Yの化石ポケモンをデザインしたのは、それ以外にもデンヂムシ系列やガラルの化石ポケモンなどいくつかのポケモンのデザインや、ポケモンカード、ポケモングッズなどのイラストを手掛けているありがひとし先生です。

今回のポケモンと古生物を対比するという巡回展も、ありが先生による素晴らしいデザインのガチゴラスとアマルルガあってのものなのではないでしょうか。ありが先生ありがとうございます!この間ロックマンギガミックス(知らないかたのために説明すると先生の作品)読み返してジーンときました!!

……そうすると結局大外しだったかつての私の予想では今回の巡回展はなしえなかったのかもしれないのですね。何しろサメ展にサメハダー出すみたいなことなので。

ただそこにいたる道筋であるポケモンのデザインとモチーフの関係については、ポケモンについて考えるときにある程度通じるものだと自信を持っております。今回の巡回展が「ポケモンのデザインとモチーフの関係」そのものである以上、すでに手に入れることができないであろう「ポケ論2」に寄稿した論考を再掲する意義はあるものと思い、ここに載せたいと思います。

ティラノサウルス型ポケモンは記載されるか -生き物ファンから見たポケモンデザイン

1 ティラノサウルスと冒険したい!

 化石ポケモン。それは、筆者にとって今ほど古生物に興味が強いわけではなかったポケモン第一世代発売当時でも、最も強い印象を与えるポケモンたちであった。
 深い山道で、博物館のバックヤードで、主人公の手に託された「カセキ」が絶海の孤島にひっそりとたたずむ研究所で蘇り、その瞬間アイテムから仲間に変わる。これほどポケモンの世界の時空間に広がりを感じさせた存在がほかにあるだろうか。何千万年もの太古にもポケモンたちが暮らしていたのだ。
 何年もポケモンから離れて再び興味を持ち始めたときも、特に気になったのは「今までどんな化石ポケモンが登場したのか」ということだった。筆者以外のポケモンファンの皆様にも化石ポケモンは特別なようで、しょっちゅう覗きにいくサイトの掲示板にも「こんな化石ポケモンが出たら」という書き込みが見られる。
 特に期待されるのが、表題にもあるとおり最も有名な古生物のポケモンであることは全く自然なことだろう。
 ティラノサウルス型ポケモンは出ないのか?
 傲慢なほどに勇壮な暴君竜の姿をまとったお供を連れて冒険や対戦ができたら。
 陸上動物史上最強の顎で『かみくだく』。重い地層をはね退けるような『ストーンエッジ』。暴君の『げきりん』や強大な『竜の尾(ドラゴンテール)』。小さな手に『オボンのみ』を持たせてみたら意外と可愛いかもしれない。アロサウルス派の筆者でも胸が躍る。
 しかし、ポケモンに再帰した筆者がラムパルドとトリデプスを初めて見たとき、そのような期待の実現は一筋縄ではいかないと思わせるような印象を強く覚えた。パキケファロサウルスはほぼそのままの姿で登場したのに、より有名なトリケラトプスはまったくそうではない。となると、さらに有名なティラノサウルスも素直に出てくることはないのではないか。
 ポケモンは生き物らしいデザインのキャラクターである。各自のライフサイクルや生態系を持つ生き物であることも、ゲーム中で丁寧に描かれてきた。
 では、個々のポケモンは実際の生き物に対してどのようにユニークなのだろうか?
 どのポケモンも一様に元の生き物に忠実にデザインされているだろうか?あるいは、どんな生き物でも一定のデフォルメを加えるだけでポケモンとして成り立つものだろうか?筆者がラムパルドとトリデプスから得た印象は、そうではないことを物語っている。
 そこで本稿では、ポケモンのデザインとモデルとなった生き物の姿を比較し、実際の生き物に対してどのように距離を取ればポケモンのデザインが成り立つかを検証し、最終的にはあり得べきティラノサウルス型ポケモンの姿を予測することを目指したいと思う。
 なお、検証の対象が筆者がデザインを読み解きやすく、またティラノサウルス型ポケモンの手がかりになりそうだと思ったポケモンに偏りがちなこと、検証の内容にも偏りがあることをあらかじめご容赦いただきたい。
 つまり全ポケモンを徹底的に検証したとはいえないので、あまり本稿の内容を一般化して信用すると「グライガーとは一体……うごごご!」というようなことになってしまうかもしれない。肩の力を抜いて話半分にお読みくださることをおすすめする。

2 シンオウ御三家のモチーフ、また生き物の扱い

 ポケモンの二次創作を行うことではなくポケモンについて直接論じることを目指した同人誌「ポケ論!」収録の「ポケモンらしいデザインってどんなのだろう」の中で、著者のわたなべ氏は「タイプが容易に推測できること」「生態が容易に推測できること」をポケモンらしさとして挙げた。本稿でもこれに則って、ポケモンのデザインが生態とタイプを暗示することを読み取りつつ、個々のポケモンのモチーフをデザインから読み解いていこうと思う。
 それでは具体例として、ダイヤモンド・パール・プラチナで最初にもらえる、いわゆる「シンオウ御三家」の最終形態三体のモチーフを解体してみよう。
 まずは一番分かりやすいゴウカザルから。
 ポケモン界隈で単に猿といえばほぼゴウカザルを指すくらいで、全身のモチーフはサルである。そしてさらに詳しく見ていくと、サルの中でもハヌマンラングールという種類のサルに限定できる。長い四肢や尾、白い毛皮から覗いた指、顔付きなどハヌマンラングールによく一致している。ゴウカザルはハヌマンラングールのポケモンであると言っても良いくらいだが、普通にポケモンに接するときはそこまで限定して見ることはないだろう。
 さらに孫悟空の要素が加わっている。ハヌマンラングールも同じアジアの伝説上のサルであるハヌマーンと関係が深いと言われ、孫悟空とよく調和している(孫悟空自体はキンシコウという種類であるとされるが)。
 タイプ的なモチーフは上記二つのモチーフに織り込まれている。孫悟空に由来する紅白の柄や筋斗雲の意匠はほのおタイプ、ハヌマンラングール含め両方に由来する身軽で体術を使いこなしそうな体型はかくとうタイプに対応している。また火炎そのものも付け加えてある。
 こうして、ハヌマンラングールや孫悟空を由来に持ち、炎をまとって跳ね回るポケモン、ゴウカザルのデザインが成り立っている。
 次に、エンペルトについて見てみよう。
 これも分かりやすく、ペンギンがモデルである。名前から基本はコウテイペンギンであると思われるが、細かい要素に目をやると、イワトビペンギンの冠羽、フンボルトペンギンの腹の斑点という他のペンギンの要素を持っている。反面、コウテイペンギンの首筋や胸元にあるオレンジの模様は持たない。
 また、実物のペンギンは長いクチバシのある流線型の顔付きだが、エンペルトはそうではない。デデデ大王やドンペンといった、黄色く短いクチバシのある、人間のような平たい顔にデフォルメされた、よくあるペンギンのキャラクターの顔をしている。ある一種類のペンギンに固定するのではなく、映像や施設で馴染み深い種類のペンギンを混ぜ合わせつつ、一般に広まった親しみやすいペンギン像に合わせている。
 さらにコウテイペンギンだけに皇帝や貴族のイメージを持っている。冠羽は冠に、腹の模様は首の布(クラバット)のフリルにまとめられている。またデフォルメされたペンギンの滑稽さは高貴な印象に上書きされて消え、旅の最初から連れてきた相棒に相応しい頼もしそうな風格を持つ。
 ペンギンはみずタイプの、皇帝の威厳や冠、刃のようなフリッパーははがねタイプのモチーフでもある。ペンギンなのにこおりタイプではないことをよく指摘されるが、ペンギン十九種(説により異なる)のうち南極大陸にいるのはコウテイペンギンを含む四種類だけで、フンボルトペンギンのようにむしろ温暖な地域に生息するものもいることを考えると納得できる。ここでも完全にコウテイペンギンに合わせることを避けている。
 三匹の最後は、ドダイトスである。
 生き物としてのモチーフはリクガメと広葉樹だが、細かい種類を定めることはできない。漠然としたカメ一般の姿である。さらに、脇腹の様子やこめかみのトゲはむしろアンキロサウルスのような鎧竜を思わせる。鎧竜の面影は、頭部と背中の装甲が連結した一段階前のハヤシガメでより顕著である。甲羅を背負った陸上爬虫類全般のイメージだろうか。
 しかし、カメと木を結び付けることは、生き物を参考にしただけではできない。「霊亀」の方が強力にデザインを牽引しているようだ。霊亀は古代中国神話に登場する巨大なカメで、仙人の住む蓬莱山のまさに土台とされている。樹木のくさタイプに加えてじめんタイプを持つことも、甲羅が大地を象徴していることで察せられる。
 ドダイトスの場合は、大自然を思わせる姿に反して伝説という人間の文化に根ざしているようだ。
 以上、シンオウ御三家のデザインについて考察してきた。どれも複数のモチーフがはっきり読み取れるが、巧妙に絡み合っている。そして、生き物をモチーフにすることにも、実在する生き物に対してどれだけ忠実にデザインするかには幅があることが分かる。その違いがどのように生み出されるか把握するために、今度はモチーフの近いポケモン同士を比較してみよう。

3 似ているモチーフ、似てないポケモン

 心機一転を目指した「ブラック・ホワイト」では、前作までに登場したポケモンと同じモチーフを持つポケモンがいくつか登場している。それでいてデザインが前作までとかぶっているわけではない。モチーフとデザインの関係に関する恰好の題材であろう。
 というわけで、ウマの仲間をモチーフとするギャロップとゼブライカから。
 ギャロップは、まず実物のサラブレッドに忠実な体型として、そこにユニコーンの角を付け、炎のたてがみや、白馬であるという印象を崩さないくらい薄いオレンジの体色でほのおタイプを表している。ウマと火を結び付けたのは五行思想に基づくものだろうか(干支の午は火に対応する)。
 かたやゼブライカは、シマウマの縞の幅などをアレンジし、体型や目つきもギャロップと比べるとややデフォルメしてある。炎のギャロップに対してこちらのたてがみや模様は電撃をイメージさせる。シマウマは独特な縞模様の印象が強く、白黒のバランスを変えないと実物に似すぎてしまうだろう。シマウマにしか見えないのはキャラクターとしては印象が弱すぎることになる。
 また、電気のイメージにより尖ったデザインとすることで、シマウマの温厚なイメージとは異なるが、本物のウマのように優しそうなギャロップとの差別化が図られているようだ。
 ギャロップとゼブライカはシリーズを重ねることでポケモンがキャラクターとして確立するにつれて実際の動物から離れていったようにも見える。しかし、これとは逆に後から現れたもののほうが実物に近い例もある。そのうちダグトリオとドリュウズについて見てみよう。
 どちらもモグラのポケモンだが、ダグトリオは高度にデフォルメされ、もぐらたたきの台から出てきそうな姿をしている。モグラをモチーフとしたうえで、さらにもぐらたたきも参考にしているのだろうか。ディグダから進化することで急に群れを成すのも、もぐらたたきの難易度が上がって一度にたくさん出てくるようになったという意味だろう。
 もぐらたたきを取り入れて地面から突き出した姿になることで地面との強い結び付きが表現されているため、典型的なじめんタイプのポケモンになっている。これならアースが取れていてでんき技が効かないのも納得だろう。しかもそれは「ディグダの穴」のそばにあるクチバシティのジムですぐに確かめられる。
 ディグダおよびダグトリオは、まさにポケモン第一作目でじめんというタイプを説明するために現れたようなポケモンである。
 第五世代ともなればそんな説明は不要ということだろう、ドリュウズは地面から全身を抜き出しており、鼻先や前肢などはもっと実物に近い姿をしている。またドリルを付け加えることで力強さとはがねタイプを獲得した。
 純粋なじめんタイプポケモンとしての性質はダグトリオに任せて、改めて「モグラという動物」をポケモン化したのだろう。はがねタイプによりじめん技が弱点になるのを容認しているのも、純粋なじめんタイプポケモンでなくてもよくなったことを感じさせる。
 このようにまったく違ったデザインだが、どちらもモグラのポケモンであることはすぐ分かる。モグラともぐらたたきがともに広く知られているうえでの描き分けなのだろうか。ポケモンというキャラクターがシリーズとして確立したことによる影響がここにもはっきり現れているが、ギャロップとゼブライカの場合とは違って元の動物に近付く結果となった。
 この二組では世代による影響が見られたが、世代以外の要因によると思われる違いも見てみよう。水鳥をモチーフとしたペリッパーとスワンナである。
 ペリッパーはペリカンのポケモンだとすぐ分かるが、実はペリカンにはほとんど似ていない。実物のペリカンは細長いクチバシと首を持ち、クチバシの下側を成す袋は非常に柔軟で伸縮性が高い。これに対して、ペリッパーは首がなく、下クチバシは固いバケツ状になって胸元を覆い、腹部へと続く。これは日通のペリカン便のマークのような、高度にアレンジされた、皆がペリカンに対して抱いているイメージに近い姿である。このような図像が実物よりずっとよく知られているからこそ、ペリッパーは実物ではなくそちらに似せられたのだろう。おそらく、実物に似せると一見何の鳥かよく分からない上、何か分かった後は実物のペリカンそのものにしか見えなくなってしまうかもしれない。
 そういった以前からある図像に、飛行艇の要素を加えてある。ペリッパーの上に突き出した流線型の頭や船型の胴体は飛行艇、特に第二次大戦前の飛行艇(例えばドルニエDo-X)によく似ている。飛行艇もペリカンと同じく、みず・ひこうタイプを表すものである。
 ハクチョウのポケモン、スワンナはどうだろうか。こちらはクチバシの根元の模様(コブハクチョウ)や後肢の色・形・付き方など細部が驚くほど実物どおりである。なぜペリッパーのように大幅にデフォルメされていないのだろうか。
 ハクチョウのデフォルメされた姿といえば、水から上に出た範囲のシルエットである。ガラス細工などで親しまれてはいるが、水から上の輪郭だけでは顔も翼も足もなく、生き物の実際の姿をないがしろにしている。ポケモンをポケモンの世界の中の生き物として描く以上、もっと生き物らしさが必要である。そのためスワンナはそれほどデフォルメできなかったのだろう。
 そこに「白鳥の湖」の衣装を加えることで変化を付け、ハクチョウから離れすぎないようにしたうえでただのハクチョウではなくしている。進化前のコアルヒーを合わせると「みにくいアヒルの子」も取り込まれているようだ。
 ペリッパーのように、大幅にデフォルメされた姿が一般に広く知られている生き物の場合には、そちらを優先すれば一目でどんなポケモンか分かるうえに元の生き物そのものにしか見えなくなることも避けられる。それだけでは生き物らしさが足りない場合、スワンナのようにもっと忠実にデザインする必要が生じる。この両者の違いからはそのようなことが読み取れる。
 モチーフ同士が「収斂進化」しているサメハダーとカイオーガの例も見ておきたい。この二種、特にサメハダーは、動物の運動メカニズムに興味のある筆者が非常に衝撃を受けたデザインである。
 強靭な筋肉の太い束となった尾や三日月型の洗練された尾鰭は、系統に関係なく多くの遊泳動物が水の抵抗に打ち勝つ推進力の源としている。その尾と尾鰭を、よりによってサメとシャチをモチーフにするポケモンがどうして失ってしまったのだろうか。
 先に言った「収斂進化」とは、まったく異なる祖先を持つ生き物同士が同じような生活に適応して同じような姿に進化することである。これを説明するとき、サメ、シャチ等の鯨類、マグロ、魚竜は収斂進化の例として必ずといっていいほど引き合いに出される。言い換えれば、流線型の体に三日月型の尾鰭を持つ遊泳動物の洗練された姿は、それだけ見る者にインパクトを与えるということだ。
 遊泳する動物をモデルにする以上流線型なのは仕方がないとして、そのまま尾と尾鰭を付けたデザインでは「収斂進化した生き物同士のよく似たシルエット」の列に加わり埋没してしまう。そこで思い切って尾鰭を取り入れず、元の生き物に対して独自性のあるデザインにしなければならない。
 ただしそのまま推進力の源を失っては、スタイルから想像されるであろう遊泳生活が成り立たなくなる。サメハダーとカイオーガは、モデルだけでなくデザイン上の問題まで収斂してしまったようだ。
 サメハダーの場合はモチーフに魚雷を追加し、噴流で推進するようになった。これは魚雷やダーツのような姿から直接察せられるが、図鑑説明を読むとより分かりやすい。「長い距離を泳げない」というのが、ホオジロザメやヨシキリザメのような泳ぎ続けるサメではなくネムリブカのような普段は休んでいるサメを思わせる。
 カイオーガはもう少し生き物らしい解決策を取った。実物のシャチよりずっと大きな胸鰭とすることで、羽ばたくように泳ぐ姿を連想させている。この鰭の構成はウミガメなどほかの遊泳動物に似ているが、もしかしたら「超古代ポケモン」という設定だけに、「首の短い首長竜」として知られるプリオサウルス類を組み込んでいるのかもしれない。
 デザイン上の問題は似ていたが、解決策は別々にすることでそれぞれ独自のデザインを持ったポケモンになった。では、例えばサメやシャチに同様に収斂したマグロをポケモンのモチーフにするとしたら、どんな推進手段がいいだろうか。すぐに思いつくのはスクリューだが、メタリックな姿には合っているものの一部分だけ回転するのはあまり生き物らしく、ひいてはポケモンらしくないかもしれない。
 以上、モチーフの姿のインパクトが強い場合、思い切ったアレンジを行いつつ生態が連想できる余地を保つ工夫が必要とされることがこの二種から読み取れた。
 サメハダー以外の魚類のポケモンも興味深いデザインで、魚類のポケモンだけで話すこともできてしまいそうだ。その中から、ポケモンの生き物に対するアレンジの特徴がよく出ているミズゴロウとアズマオウ等について見てみよう。
 読者の皆様は魚類と言ってミズゴロウを出してくることに違和感を覚えたかもしれない。ミズゴロウ系列はタイプの同じウパー系列とともに、両生類であるサンショウウオのポケモンだと思われることが多い。
 しかし、ミズゴロウのデザインをよく見てみると、頬や口、鰭や手の形などがトビハゼやムツゴロウによく似ている。名前や図鑑説明からもムツゴロウをモチーフにしていることが察せられるが、後半身の形態はムツゴロウと大きく異なって後肢を持ち、哺乳類のような姿になっている。
 主人公の相棒たる御三家のポケモンであるだけに、主人公と共に行動し心を通わせる姿が想像しやすいように人に近い姿、つまり四肢で立つ形態としたのであろう。モチーフを連想させることは犠牲になっているが、浅い水辺で暮らすポケモンであることは容易に察せられる。現実のムツゴロウの再現ではなくミズゴロウというポケモンの確立を優先させていることが分かる。
 御三家でなくともこのように顔や足のない生き物にそれらを付けたり、二足歩行にしたりして哺乳類や人間に近付け、親しみやすくしている例は多い。くさタイプのポケモンなどでは特に顕著である。
 かといって魚のポケモンであると一目で分かる形を保っているアズマオウやコイキング、バスラオなども親しみやすくないわけではない。ここに挙げた三つは元の魚と比べると丸っこい姿になっている。元々金魚自体も丸っこいがアズマオウは特に丸っこく、体が球状になっている。
 先に挙げたサメハダーやカイオーガも尾をなくすことで丸っこくして親しみやすくしていると言えるが、元がそこまで極端な姿でない場合アレンジも極端でなくていいようだ。ただこれら魚らしいポケモンは、御三家であるミズゴロウのように最初から主人公にぴったり寄り添う相棒としてはデザインされていないと思われる。

4 ポケモンのモチーフ三要素

 ここまで見てきて、モチーフの傾向や生き物に対するアレンジ度を決める要因が見い出せたように思うので以下にまとめる。
 まず、ポケモンのデザインが生態とタイプを暗示することを読み取ってきたが、生態を暗示するモチーフは生き物らしいモチーフと人工的なモチーフに分けられる。したがって、ポケモンのモチーフは以下の三つの要素を持つようだ。

・自然的モチーフ
・人工的モチーフ
・タイプ的モチーフ

 自然的、人工的モチーフは生態や性質の暗示につながっている。タイプはそのままポケモンのタイプを意味する。これらの組み合わせによってポケモンのデザインはどんな性質を持ったどんなタイプのポケモンか分かりやすいようになっている。
 例えば最初に示したゴウカザルでは、自然的モチーフはハヌマンラングール、人工的モチーフは孫悟空、タイプ的モチーフは火炎そのものや紅白の配色や筋斗雲の意匠、身軽そうな体型である。
 もちろん、すべてのポケモンがこの三つのモチーフを必ず一定の割合以上持っているということでも、ポケモンのモチーフは必ずこの三つのうちどれか一つだけしか持たないという意味でもない。
 例えば、多くの人型ポケモンやゴーストポケモンなどは自然のモチーフを欠くし、逆に複数の生き物を組み合わせたようなポケモンも多い。ドラゴンをモデルにした場合、ドラゴン一つで三つの性質すべてを受け持っている。自然的モチーフと人工的モチーフの両方を持つ場合、人工的モチーフは自然的モチーフから得られた姿に変化を与えたり性質の追加説明を行ったりする。
 また、生き物に対するアレンジの度合いは以下のような要因で決まるらしい。
・どれだけ身近な、見慣れたモチーフか
・元の姿の印象が強すぎないかどうか
・主人公と仲良くなれそうな親しみやすい姿に変える必要はあるか
 これらに従って元の生き物に忠実な姿にするか、元の生き物に対して独自なデザインにするか決める必要があるようだ。このとき人工的モチーフを役立てることも多い。また、
・実物の姿とデフォルメされた姿のどちらが認知されているか。また、デフォルメされた姿そのままで生き物らしく見えるか
 これにより、実物よりそのデフォルメの方を取り入れて分かりやすいものとするか、もっと生き物らしさを優先した姿にするかを決める。さらに、
・前に登場したポケモンとの差別化を図る必要があるか
ということを考慮してアレンジの方針や度合いを調節する必要もある。
 デザインを考えるうえでポケモンの進化との関係も見逃せないが、議論が煩雑になるためここで詳しく述べることは避けたい。
 こうしてモチーフの要素や生き物に対するポケモンのアレンジ度を決める要因が理解できてきたところで、いよいよ本稿の中心である化石ポケモンのデザインについて見ていこう。さらに、化石ポケモン以外で古生物のデザインを取り入れているポケモン、特に怪獣型のポケモンも対象にしておきたい。

5 ポケモン古生物図鑑

 図鑑番号順どおりにいくと最初はオムナイトとオムスター、カブトとカブトプスである。
 オムナイトとオムスターは、殻部分を見ればアンモナイトの姿にかなり忠実となっている。オムスターのような棘を持つアンモナイトもいるし(メヌイテスなど。殻の中央に一列だけというのは珍しいが)、進化することで殻口に縁取りが付くところなど成長しきったアンモナイトの特徴を忠実に再現している。ただし軟体部分(アンモナイトの場合オウムガイやイカから推定されている)は実物と逆の向きになっている。立ったとき顔がよく見える方が親しみやすいからだろうか。灰褐色の甲羅によっていわタイプだと分かりやすく、また、自分が持っていた「かいのカセキ」から蘇らせた実感が湧く。
 カブトはカブトガニのみをモチーフとしているようだが、カブトプスになると三葉虫の体節や、ウミサソリの捕獲脚から連想されたのであろう鎌が追加される(最も鎌に近い捕獲脚を持つのはウミサソリの中でもメガログラプトゥスなど)。古生代の色々な節足動物から要素を集めたうえで人間に近い姿になる。これも褐色の甲羅がタイプや出自を連想させる。
 第一世代だけ化石ポケモンが三系列あるが、プテラは前二つと比べると異質である。名前や知名度のため、よくプテラノドンがモデルだと言われるが、同じ翼竜でも歯があって尾が長いランフォリンクスがモデルになっているようだ。印象の強すぎるモチーフを最初から避けたのだろうか。実物(翼竜は陸上脊椎動物史上最も華奢な生き物の一つである)と比べると胴体や顎が大きく、足腰なども骨太で、ワイバーンやガーゴイルを取り入れているのが分かる。
 プテラの体に硬そうな部分は角や歯くらいしかなく、体色以外いわタイプらしくはない。プテラのみ「~のカセキ」ではなくジュラシックパークを彷彿とさせる「ひみつのコハク」から再生するせいもあるだろう。第一世代の化石ポケモンとしても特別な位置にあるだけに、ドラゴンのイメージを取り入れて単体として見ても強そうな感じになっている。
 第二世代に新しい化石ポケモンは登場せず、次は第三世代のリリーラとユレイドル、アノプスとアーマルドである。
 リリーラとユレイドルは胴体、触手、茎に分かれた形状がほぼ実物のウミユリのままだが、単純化してある。また目や、根元に足のような突起を付け、進化すると胴体と触手の位置が逆になるようにして表情や変化を出している。第三世代にもなると「化石ポケモン=いわタイプ」と了承されていると見たのか、いわタイプを積極的に連想させる部分は何もない。
 アノプスはほぼアノマロカリスや近縁種のラガニアそのままの姿で、細部に甲殻類(アノマロカリスとは直接関係がない)などの要素をほんの少し取り入れている。進化してアーマルドになると、ウミサソリや怪獣を取り入れまったく独自の姿になってしまう。カブトプスと同じような変化だが、より自由なデザインになっている。装甲はあるもののむしタイプ的な殻で、こちらもあまりいわタイプらしくはない。
 第四世代の化石ポケモンは、二系列とも植物食恐竜の姿をしている。ズガイドスとラムパルドはどちらも、尾が短いことや胴体に加えられた装飾、怪獣的なポーズ以外、非常に忠実にパキケファロサウルスの形態に沿っている。頭のドームだけでなくクチバシや角、小さな手、スマートではない胴体など、どれも実際のパキケファロサウルスの特徴そのままである。
 古生物ファン以外にとってパキケファロサウルスは「こんなのもいたね」という程度の知名度のため、大きなアレンジを加えず元に忠実にデザインすることで分かりやすくすることを狙ったのではないだろうか。再びいわタイプらしい体色になっている。硬いドームが特に岩のような形になったりしていないのは、普通の頭をした恐竜に岩をくっつけたような姿になってしまうことを避けたためか。
 対するタテトプス、トリデプスは、あまり実物の角竜に忠実ではなく、角竜の中で最も有名なトリケラトプスがモデルだと断定することも避けたくなるほどである(「ダイヤモンド・パール」発売時に見つかっていた種類の中ではカスモサウルスやペンタケラトプスのほうが近いが、おそらく狙ってはいない)。角竜の特徴のうち角ではなくフリルを重視して、盾や城壁と混ぜ合わせ、顔面をそれらにすっかり埋め込んでいる。角を重視していない(つのドリルすら覚えない)のは攻撃的なラムパルドとの対比や、すでにたくさんいる角のあるポケモンとの差別化のためだろうか。
 トリケラトプスはパキケファロサウルスと違ってティラノサウルスと双璧を成すほど有名なため、実物に忠実にすることでトリケラトプスそのものに見えてしまうのは避けなければならなかったのだろう。化石ポケモンだからという以前に、固い城壁としていわ・はがねタイプらしい姿をしている。
 第五世代でも引き続き中生代の脊椎動物がモデルとなっている。プロトーガは白亜紀のウミガメ・アーケロン、および近縁種のプロトステガに非常に忠実な姿で、アバゴーラに進化すると陸に立てる後肢や複雑な装甲など変化が付く。これもカブトプスやアーマルド同様のパターンである。いわタイプらしい濃い灰色の甲羅を持つ。
 アーケンやアーケオスは、歯や尾羽の生え方、指と羽の位置関係、羽の色(ブラック・ホワイト発売以降に知られるようになった)といった些事以外ほとんど始祖鳥そのものといってもいいデザインをしている。始祖鳥をサイト名に頂く筆者を歓喜させたポケモンである。ミクロラプトルなど小型のドロマエオサウルス類にも似ているが、後肢の風切羽なども含めて始祖鳥とミクロラプトルには共通点が多いため始祖鳥であるということにそれほど影響はない。頭の鱗が爬虫類と鳥の中間であることを想起させる。
 化石ポケモンのモチーフになったアンモナイト、カブトガニ、ウミユリ、アノマロカリス、パキケファロサウルス、アーケロン、始祖鳥は、どれも古生物ファン以外の人には図鑑や教科書で見たことあるという程度の認識だろう。そのため、忠実にデザインしておいて「そういえばこういうのがいた」とモチーフの生き物を思い出させる、理解しやすいデザインとすることが求められたのではないか。
 これに対して、翼竜やトリケラトプス、特に後者は姿がより認知されているので強めにアレンジすることになったのだろう。人工的なモチーフがはっきり見て取れるのもこの二つだけである。
 モチーフの姿が有名かどうかによってアレンジ度が変わる傾向も、化石ポケモンの中で読み取れる。デザイン面での対応はさまざまだが、化石ポケモンであるというだけでいわタイプであることの根拠としている例も見られる。また第一段階でモチーフを連想させて、その後より自由な、やや人間に近く親しみやすい姿に進化するというパターンが多い。しかし恐竜であるラムパルド、トリデプス、アーケオスではそれは抑えて単純な成長を描いている。
 このような化石ポケモンの傾向は、ティラノサウルス型ポケモンについて考察するための大きな手掛かりになるだろう。
 ところで本稿の改訂前のものを拙ブログに掲載した後、幻のポケモン・ゲノセクトの正式な発表と配布が行われた。「こせいだい(古生代)ポケモン」に分類され「3億年前のむしポケモンをプラズマ団が復活させ改造したもの」という設定の上では化石ポケモンの一つといえるが、自然的モチーフは三億年前に当たる石炭紀の節足動物(おそらく昆虫)だということ以上ははっきりしない。筆者は年代や顔付きからゴキブリがモチーフなのではないかと疑っているのだが。人工的モチーフはロボットアニメ的架空兵器や、メガドライブあたりの据え置き型ゲーム機であろう。特殊な設定のために生き物らしさがデザインから読み取りづらいものの、分類名からポケモンの世界での生物史が現実の世界と似通っていることが強くうかがえる。他の化石ポケモンの設定もモチーフに忠実なものが多い。
 アニメ版ポケモンの脚本家である首藤剛志氏も、ポケモン映画第三作目で描こうとしていた幻のシナリオに、なんとティラノサウルスの化石を登場させる予定だったと明かしている(※1)。この構想ではポケモンと人間しか動物のいないポケモンの世界とは何なのかというテーマを扱うために、擬人化された人間寄りの存在であるポケモンとは異なる外側からの視点の足場として、かつて実在していたティラノサウルスの化石をポケモンの世界に投入するつもりだったのだという。首藤氏の言葉を引用すると、「分かりきっている架空の世界に、よく分からない現実の世界の何かをぶち込めば、架空の世界がより現実味を帯びてくる」とのこと。恐竜など古生物は、実在したのは確かだが実態は今一つ不明な、現実と非現実の間を行き来できる存在だと捉えられる。それで最も有名な古生物であるティラノサウルスが現実側からの視点の足場になるよう構想されたのではないか。
 冒頭で述べたように化石ポケモンにポケモン世界の時空間の広がりを感じるのは、首藤氏の構想と対照的である。実在する化石を登場させると世界観に対して大きな問いを投げかけることになるが、実際の古生物に似た化石ポケモンが登場するのなら、むしろポケモンの世界はずっと昔から現実の生物史と似て非なるポケモンの歴史を重ねてきたのだろうかと思わせ、世界観が補強される。化石ポケモンの自然的モチーフがどれもはっきりしているのはそのためだろうし、その効果によってきっと恐竜のようなポケモンもいたのだろうと思わせ、ティラノサウルス型ポケモンの登場を連想させることになる。ただしプテラやトリデプスがモチーフから大幅にアレンジされているのは、完全に現実の中生代そっくりの時代があったわけではないことを表現しているのかもしれない。
 ところで、化石ポケモン以外にも古生物をモチーフとしているポケモンがいる。特に、技『げんしのちから』を習得することで進化したポケモンのうち二種類ははっきりと古生物の姿をしているが、元々最終形態だったポケモンから進化したものなので、進化前の現生動物の影響が見られる。
 マンムーは、マンモスであること自体は見てすぐに分かる。スノーゴーグルを付けて雪山の印象を高めている。しかしマンモスに限らずゾウのシンボルであるはずの長い鼻がなく、イノムーから受け継いだ豚鼻になっている。これにより、進化前とのつながりを強調すると同時にただのマンモスになるのを避けているようだ。どうやって餌を取るのかという気はするが……。
 メガヤンマも石炭紀の巨大なトンボ・メガネウラの印象ほぼそのままで、離れた目、やや平たい腹部、腹端の付属物など忠実である。しかし、頭が小さく肢や触角が長いという、あまりトンボらしくないところは採用していない。採用すると元々何の虫だったか分かりづらくなるためだろうか。丸い頭が進化前のヤンヤンマを暗示している。装飾で荒々しい太古のイメージを付加している。
 化石や『げんしのちから』などの太古のイメージが付けられていないが古生物をモチーフとしているらしきポケモンもいくつか見られる。
 ラプラスはプレシオサウルス、メガニウムやトロピウスは首の長い植物食恐竜「竜脚類」(それぞれカマラサウルスとディプロドクスに特に似る)をモデルにしているようだが、太古のポケモンではなくあくまで現在のポケモンであるとして描かれている。冷たい流氷の海や深いジャングルのような秘境に住んでいるUMAのイメージだろうか。
 あまり古生物のポケモンだとは言われないがよく見ると、というより元ネタかもしれないものを知っていると古生物に関係ありそうに見えるポケモンがいる。ジュカイン、ミュウツー、ミュウである。
 まずジュカインだが、「ワニと龍(青木良輔、平凡社新書)」という書籍(※2)に掲載されている、小型肉食恐竜デイノニクスの復元画に非常によく似たデザインになっている。この書籍では、腕や尾に生えた羽毛をソテツの葉に紛れ込むのに使う樹上生活者としてデイノニクスを復元している。
 もちろん、たった一つの復元画が元ネタであるとは断言できないが、ジュカインはデイノニクスをはじめとする羽毛を生やした身軽なドロマエオサウルス類の姿によく当てはまっており、後肢の爪はないもののジュカインのモデルはドロマエオサウルス類であると言っていいと思われる。進化前のジュプトルの名前にもドロマエオサウルス類の通称である「ラプトル」が含まれている。
 ミュウツーとミュウはもっと苦しくなってしまうのだが、もし恐竜が絶滅せず小型恐竜が知性を得たらという思考実験により描かれた仮想上の生物「恐竜人間(ディノサウロイド)」がモデルではないかと筆者は疑っている。
 そう思わせたのも、ジュカイン同様書籍の挿絵であった。「新恐竜伝説(金子隆一、早川書房)」(※3)という本の恐竜人間に関するセクションには二体の恐竜人間のイラストが掲載されている。特に植物食の恐竜人間はミュウツーとミュウの両方に体形や顔付き、尾がよく似ているのだ。また肉食の恐竜人間は足指など部分的にミュウツーに似ている。これも元ネタであると断定することはできないのだが、著作権上の問題が気になって転載できないのが非常にもどかしい。二十年近く前の本だがもし図書館などで見かけたらチラ見してみてほしい。直接恐竜であるという描写は一切ないが、「南米の密林で見つかった絶滅したはずのポケモン」「全ポケモンの始祖であり高度な知能を持つ」というミュウの設定も恐竜人間に合っている。
 ミュウツーのモデルといえば「MOTHER」のギーグだと言われているが、ゲームフリークのアートディレクターである杉森健氏はTwitter上で「ラフスケッチを作った企画側が何をモデルにしたかは分からないがおそらく関係ない」と発言した(※4)。とはいえ「等身大の人間に近いシンプルな肉体に強大な力を秘めた、ラスボスまたはそれに近いキャラクター」という共通したコンセプトを持っている。こうしたキャラクターは「バーチャファイター」のデュラル、「ドラゴンボール」のフリーザ(特に最終形態)、「HUNTER×HUNTER」のキメラアントの王などさまざまな作品に見られ、サブカルチャー作品における伝統のようでもあるし、恐竜人間とも根底でつながった発想かもしれない。
 古生物をモチーフにしたポケモンの最後に、ティラノサウルスとの比較のため怪獣型ポケモンについて見てみよう。
 初代「ゴジラ」は植物食恐竜イグアノドンの復元画をモデルにしたと言われているが、顔付きには大型肉食恐竜の影響が強く見て取れる。当時の恐竜の復元画といえば、上体を立てて尻尾を引きずったまま歩く、仁王立ちのトカゲのようなものであった。それ以降、ゴモラやレッドキングなど、特撮の巨大怪獣は体を立てた旧復元の肉食恐竜の姿に則ったものが多く登場してきた。
 70年代頃にいわゆる「恐竜ルネッサンス」によって恐竜が活発な生き物であったという認識が広まると、恐竜の復元画は前半身と尾のバランスを取って体全体を水平に保ちながら歩く軽快なものに変わった。しかし、ゴジラ以来の怪獣像は定着しており、新復元の恐竜に基づいた怪獣はエメリッヒ版「Godzilla」など一部しか見られない。
 そして、ニドキングやバンギラスなどはっきりと旧復元の恐竜に似た怪獣(以下、単に「怪獣」)をモチーフとしているものから、ガルーラやワルビアル、前述のアーマルドなど直接のモチーフをほかに持つものまで、多くのポケモンが従来どおりの怪獣の体型を取り入れている。やはりポケモンも怪獣モノであるということなのか。
 怪獣をモチーフにしたポケモンは毎回登場しているが、あくまで怪獣であり、怪獣のモデルとなった大型肉食恐竜の新しい復元に忠実なものはいない。直接であれ間接であれ肉食恐竜をモデルにしていることに変わりないと思われるかもしれないが、怪獣型ポケモンには怪獣にあって恐竜にない特徴が見られたり、恐竜にあって怪獣にない特徴が見られたりする。
 詳しく見ていくと、大きな腕(ニドキングなど)、胴体と真っ直ぐつながる首(バンギラスやボスゴドラなど)、短く幅広い吻部(突き出した口)の付いた背の低い頭、また頭が首に対して直角に腹側を向く角度で付いていること、どっしりとした後肢(ガブリアスやオノノクスなどを除く)、上体を立て尻尾を下ろした姿勢などは恐竜より怪獣のように見える。
 怪獣型ポケモンと恐竜との関係も、前述のアレンジ度を決める要因に沿って考えることができる。
・どれだけ身近な、見慣れたモチーフか(ティラノサウルスはじめ肉食恐竜も有名だが、怪獣も同様に有名である)
・元の姿の印象が強すぎないかどうか(肉食恐竜のフォルムは非常に特徴的で、サメやシャチ同様非常に洗練されている。そのままではキャラクターにしづらい)
・主人公と仲良くなれそうな親しみやすい姿に変える必要はあるか(怪獣は着ぐるみを土台にしているだけに骨格が人間に近く、隣に並んで顔を合わせたり手をつなぐことなども容易にできる)
・実物の姿とデフォルメされた姿のどちらが認知されているか。また、デフォルメされた姿そのままで生き物らしく見えるか(ペリカン同様、恐竜そのものよりはデフォルメされた怪獣の姿のほうがさらに知られており、またそのままでも生き物らしく見える)
・前に登場したポケモンとの差別化を図る必要があるか(怪獣型ポケモンは毎回登場しているが各々の個性が豊かである)
 怪獣型ポケモンの存在は、ティラノサウルス型ポケモンの姿を想定する際にとても強い影響を与えるだろう。
 続いていよいよ、今まで見てきたポケモンのデザインの傾向や古生物の扱われ方に基づいて、ティラノサウルス型ポケモン登場の可能性について論じてみたい。

6 怪獣ではなく恐竜のポケモンであるには

 筆者はここまで、生き物がどのようにポケモンのデザインに取り入れられるかを見てきて、改めてスタッフが生き物や怪獣に対して丁寧に接し、それ以上にキャラクターを楽しんでもらうことを強く目指していることを知った。
 もはやただの生き物ファンである自分にはポケモン開発スタッフのバランス感覚に太刀打ちできる気がしない。しかし、なんとか上記のアレンジ度を決める要因に従って、ティラノサウルスをポケモンのモチーフとして扱うにはどのようにすべきか考えてみたい。
 まずティラノサウルスは有名で、元の姿の印象が非常に強い。これは、同じように有名な恐竜をモデルにしたトリデプスや、元のサメの洗練された印象的な姿から思い切って離れたサメハダーのように、ティラノサウルスをモデルにするなら強いデフォルメが要求されることを意味する。
 次に、大型肉食恐竜はデフォルメされた怪獣としての姿が知られているが、それを使うと既存の怪獣型ポケモンの一つに組み込まれてしまうだろう。はっきりと恐竜型だということにするならば、怪獣のようだがモデルは恐竜だ、というだけでは差別化しづらい。今まで見てきた中で言うと、もぐらたたきのようなダグトリオに対して実物のモグラのようなドリュウズが生まれたように、既存のデフォルメを施された姿からの脱却が必要となる。
 つまり、怪獣の姿から離れて新しいティラノサウルスのデフォルメを打ち出す必要がある、ということである。それも、人間に近い姿をしている怪獣と同等の親しみやすさが必要である。
 入手経路を考えると、『げんしのちから』による進化では進化前の影響が出てしまい、ティラノサウルスらしくなくなるだろう。化石でも『げんしのちから』でもないとすると、ティラノサウルスに似たUMAはいないようなのでUMA風のポケモンとしてはイメージをまとめづらい。
 通常エンカウントで登場するとしたら、バンギラスのような怪獣型ポケモンのうちの一つという扱いになるだろう。ガブリアスやオノノクスなどは後肢や尾が細長くスマートな体型で他の怪獣型ポケモンと比べ恐竜に近いが、その延長線上にさらに踏み込んで、従来の怪獣型ポケモンよりはっきりと恐竜らしさを持った怪獣型ポケモンとなる。
 より恐竜らしさを出すなら、正統派の化石ポケモンとして化石アイテムからの再生により入手するものとするのが有効だろう。この場合、ポケモンの歴史が現実の生き物の歴史と似ていることを表現する役目を担うことになる。トリデプスやプテラのように人工的モチーフを織り込むのもよさそうだ。進化前の姿は単純に子供のようなものだろう。
 怪獣のシルエットから離れて改めてティラノサウルスの特徴を捉え直し、その要素を強調し、人工的モチーフを取り入れてまとめ上げる。そうしてできたものが、あり得べきティラノサウルス型ポケモンの姿であろう。

7 まだ見ぬティラノサウルス型ポケモンの『復元』

 最後に、自分なりに上記のティラノサウルス型ポケモンの条件を実践し、オリジナルのティラノサウルス型ポケモンをデザインすることに挑戦してみたい。先程「開発スタッフの皆様には太刀打ちできない」と言ったばかりであるが、不出来でも具体例を示さないと締まらないのではないかと思い精一杯考えてみた。
 ティラノサウルス型のオリジナルポケモンはいわゆる「改造ポケモン」の中に前例がある。「ポケットモンスター アルタイル・シリウス・ベガ」には、ティラノスというティラノサウルス型ポケモンが登場する。頭部はティラノサウルスの特徴を保たず肉食恐竜一般の形状をしていて、胴体は実物に近いままデフォルメしている。少し上体を起こしているが完全には怪獣のような姿勢を取らず、第五世代でのフライゴンのグラフィックのように、尾を上に巻き上げることでコンパクトなシルエットになっている。しかし筆者はティラノスとは別方向から、前節までの内容を細かく踏まえていくアプローチを試みた。
 ティラノサウルスの外見的特徴といえば、
・強大な顎、杭のような太い牙(最強と呼ばれる根拠の一つ目)
・前を向いた眼窩、顎より幅広い後頭部(見る者に強い印象を与える、恐竜としては独特な表情)
・肉食恐竜としてはがっしりとした胴体や尾(王者の貫録)
・無きに等しい前肢、二本だけの指(チャームポイント)
・長く強靭な後肢(最強と呼ばれる根拠の二つ目)
・幼体には羽毛があったとする説(チャームポイントその二、最新の説を取り入れることでより生き物らしく)
 といったところであろうか。
 これらを生かしつつ、今回は化石ポケモンとして人工的モチーフを取り入れながら大幅なデフォルメを加えるものとした。そこで筆者は、ティラノサウルスに大型プレス機のイメージが重なるのではないかと考えた。強大なプレス台が顎に、それを左右から支えるがっしりと踏ん張った二本の柱が後肢に見立てられる。進化前はペンチといったところか。
 そのようなことを考えて描いたのが下の画像、「ペンチラ」と「タイラニス」である。

画像1

画像2

 思い切って胴体をばっさり省略して顎と後肢をほとんど直接つなぎ、怪獣には見えないがティラノサウルスっぽく、またコミカルにしてみた。『ドラゴンテール』は使えないかもしれない。ティラノサウルス型ポケモンが登場するとしたらいわ・ドラゴンタイプだろうかとよく言われるが、このタイラニスは『かみくだく』を使いこなすいわ・あくタイプにも見える。あくタイプは暴君竜のイメージにも合う。
 もちろんこれは普段こういうことをやらない筆者によるほんの一例であり、鼻で笑ってしまってかまわない。本物の開発スタッフならタイラニスと違ってもっと実物に近くてもポケモンらしいようにデザインし、皆の憧れの対象として作り上げられるかもしれない。どちらにしろ、本当にティラノサウルス型ポケモンが登場するとき、我々ファンは必ず驚かされることになるだろう。ポケモンも恐竜も、人々を驚かせる存在だからである。

引用・参考文献

(※1)「WEBアニメスタイル_COLUMN シナリオえーだば創作術 だれでもできる脚本家」首藤剛志著
「第209回 病院での映画『ポケモン』第3弾」
「第210回 幻の『ポケモン』映画3弾……消えた」
「第211回 幻の第3弾から『結晶塔の帝王』へ」

(※2)「ワニと龍」青木良輔著 2001年5月 平凡社

(※3)「新恐竜伝説」金子隆一著 1993年6月 早川書房

(※4)杉森 建/KEN SUGIMORI @SUPER_32X
「@nido_climax MOTHER2のギーグってあんなんでしたっけ?ミュウツーは企画側からのラフスケッチが最初にありまして、その企画者が何をモデルにしたかは今となっては定かでないです。が、おそらく関係ないと思いますし、少なくとも僕は意識してませんでした。 」
https://twitter.com/SUPER_32X/status/30223896661725185(現在ツイートは確認できない状態です。)



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