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古生物飼育連作短編小説Lv100 第六十九話をサイトに掲載しました

相変わらずなるべく出かけてはいけないということでほとんど取材に出かけられていないのですが、今回は前回より短く2ヶ月で書き上げることができました。今回もよろしくお願いいたします。

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カクヨム

以下はネタバレ込みの解説です。

前回「動物園にいる動物の祖先」って言っちゃいましたが、これまでに動物園で飼育されているものとして出てきた竜脚類と比べて「系統上は基盤的」ではあるものの「祖先」ではないですね。このあたりの関係はややこしいですが、ざっくり言うと今いるキツネザルがサルやヒトの「祖先に近い」だけで「祖先そのもの」ではないとか、親の実家があった地域に今住んでる人達は自分にとってご先祖さまとはいえないとか、そんな感じです。

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今回のルーフェンゴサウルスや上の写真のプラテオサウルスは前まで「古竜脚類」と呼ばれていて、そう呼んだほうがこの体型の種類全体をまとめて呼べて便利だし馴染みがあるという気もしちゃいます。古が付かない竜脚類、おなじみの首が長くて四足歩行の植物食恐竜の祖先に当たるグループの祖先であるとか実はそうではないとか言われてきたのですが、今はそもそも竜脚形類のなかで竜脚類でないものをひとまとめにすることができないということになっています。

そういうふわっとした立ち位置のせいなのか、基盤的な竜脚形類のなかでいかにも「古竜脚類」っぽいものの展示は国内では限られているのです。ヘッダーのは福井県立恐竜博物館のルーフェンゴサウルスですが、少し上の写真は名古屋港水族館で福井県立恐竜博物館が特別展を行ったときのプラテオサウルスです。ちょっと特殊な特別展でないといい写真がなかったという。

それでも独特な魅力のある恐竜ですし、一応詳しい資料もいくつかあるので登場させることにしたわけです。

でプラテオサウルスは「いわゆる古竜脚類」の代表格みたいな存在で詳しく分かっているので候補ではあったんですが、全長が4.8mから10mまでと個体差が激しく、どうもこれは栄養状態などを如実に反映しているようです。動物園で充分な餌を与えていると簡単にキャパオーバーになりそうだな……ということで、より小さいのが確実で(といってもルーフェンゴサウルス・マグヌスとされる骨格は9mほどあるんですけれど)資料が多いルーフェンゴサウルスを選出しました。ここ数回の舞台にしているひらまきパークの化石哺乳類は中国のものとも関係があるので、中国と共同研究しているという設定はありましたし。

調べてみると近縁のマッソスポンディルスもかなり色々なことが分かっていて、前まで言われていたのと違ってほぼ常に二足歩行だとか、巣や卵の化石が見付かっていて子育てしていたらしいこととか、卵の中の胚の形態だとか、かなり重要な情報が得られました。

といってもそういうのは状態のいい化石が見付かっているかどうか次第で、本当に苦労したのは歯の形態が雑食寄りなのか純粋な植物食っぽいのかであるとか、当時の生息地に生えていた植物の種類であるとか、実際何を食べていたのかにつながる情報だったのですが。結局頭骨と歯が思ったより現生のグリーンイグアナにそっくりだといったところから進めていきました。

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かなり以前に福井県立恐竜博物館で行われた中国の恐竜に関する特別展のときに、ルーフェンゴサウルスを中心に「いわゆる古竜脚類」と竜脚類の特徴についてかなりマニアックに突き詰めた展示をやっていたんですね。おかげで細かい特徴についてはみっちり見直せました。

お話を考えるのが以前より難しく感じるようになってしまったんですけれど、飼育方法の細部を一つひとつ詰めていけばお話のほうにもそれが反映されていってうまくあらすじが出来上がっていくといういつもの方法をきちんと思い出すことができました。

グリーンイグアナがヒントになるということでイグアナの飼育に関する本を求めて図書館に行ったところ、普通の飼育指南書から参考にできる情報はその場で読み取れてしまい、飼育下の爬虫類がかかる病気のハンドブック(よくそんなのあったな)を借りてじっくり読むことにしたんですが、それで爬虫類の体調不良の原因が多岐にわたることに関心が出て、前回の小森研究員を獣医の面を中心として再登場させたわけです。そうなると純粋に恐竜を飼育する苦労を主軸として話が出来ていきます。

細かい要素は色々織り込みつつ、実は最初から構想にあったのは画家だったりします。最初はこの画家が絵の個展を園内の施設で開くっていうあらすじだったんですけれど、まあなんでしょう、最近の情勢の中で人をイベントに集めるっていうのがもやっとするようになってしまい。ただ「骨博」で一度書いて以来、動水博に絵を描きに来る人っていうのをまたやりたかったのと、竜科学会に出た影響で「いわゆる古竜脚類」をドラゴンに見立てるのはやりたかったんですね。それと、ちょっと想定外な常連さんが出来るのも第九集収録分のテーマであるコミュニティ形成につながるので。

そういえばイベントの有無の都合で真夏に新しいお話を作ることがあまりなかったので、今回珍しくじっとりと蒸し暑いお話になっております。

次回は第九集収録分最後のお話ですが、いくつか候補があるもののあんまり定まっていません。できれば1ヶ月で書き上げたいんですけれど……!

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