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狛江水辺の楽校とかわさき宙と緑の科学館(川崎市青少年科学館)ですよ

6日に。

東京都狛江市の多摩川河川敷と神奈川県川崎市の生田緑地なんですが、直接は関係ないこの2ヶ所に行ってみたのはそもそもこちらが前提になっていまして。

狛江市の多摩川河床、「狛江水辺の楽校」と称されている自然公園のあたりで、なんと世界最古のステラーカイギュウの化石が発見されているのです。古生物飼育小説「Lv100」でも触れましたね。
ステラーカイギュウについてはひとまずこちらで。

しかし世界的な大発見ではあるものの、例えば昭島市のアキシマクジラやいわき市のフタバスズキリュウ、いや日野市のヒノクジラと比べても、狛江市としては注目していないようなのです。狛江市、郷土資料館ないですからね。
じゃあ……自分で調べるか……ということで、狛江市のステラーカイギュウが発掘された上総層群飯室層について展示しているところはないかと探してみると、ちょうど発掘地に対して多摩川の対岸である登戸の生田緑地にある科学館が扱っているということが分かりました。
というわけで、ほぼ小田急線でつながっているこの2ヶ所に行ってみることにしました。

狛江水辺の楽校は学校を連想させる名前が付いていますが団体を通さないと入ることができないということはなく、自然体験会などが執り行われてはいますが基本的には河川敷に設けられた自然公園です。
水辺の楽校の範囲に含まれない木々の少ないところからすでにたくさんの野鳥が水辺を中心に見られ、さらに場内には河川敷ならではの植物が生い茂っています。
そして肝心の化石が見られるポイントですが、今回は大部分水没していたものの露頭そのものはよく見ることができ、水が少ないときに活発に発掘体験が行われているであろうことが見て取れました。また上流から流されてきた石や土手の土との比較も興味深いものです。

かわさき宙と緑の科学館(川崎市青少年科学館)は川崎市・登戸の緑地公園である生田緑地に集まったミュージアムのひとつです。
プラネタリウムと天文学の展示が中核にあり、生田緑地や多摩川の動植物の解説にも大きなスペースを割いていますが、生田緑地および川崎市を形成する大地の地質についてもしっかり展示しています。
展示されている化石は狛江水辺の楽校の露頭と同じく上総層群飯室層のものですが、狛江と登戸という隣同士の町であっても決定的な違いによりかなり違った景色も見られることになります。
生き物に関する展示はちょっと気になるところもありますが、しっかり時間を取って生田緑地を観察する前の予習にはいいかもしれません。


狛江水辺の楽校

和泉多摩川駅から南に歩くと、

すぐに多摩川に出ます。いい天気とも言えない日でしたが、雨に降られたり冷えたりはせずに済みました。
それに、あまり気持ちよく晴れるとそれだけで満足しがちなので、かえってものを観察するにはよかったのかもしれません。

狛江水辺の楽校は右下に見えますが、その部分のさらに左側にあるはずのステラーカイギュウ発掘地点は示されていません。
先に言っておくと、河原の案内板は全て確認しましたがステラーカイギュウに関するものは何もありませんでした。発掘から年月が浅いから……としても20年近く経ってはいるのでそうとも言い切れないような。
少し前に狛江市史を確認してみたときも、ステラーカイギュウについては1行くらい触れていただけだったと思います。うーむ、アキシマクジラと何が違うのか。

進んでみましょう。グラウンドの木は河原らしくヤナギです。

発掘地点のすぐ上流にある取水堰に水が溜まって川幅が増したところにさしかかると、何羽ものオオバンの姿が見えました。

どうやらこの辺りはたくさんの水鳥の住処のようです。

水際まで草が広がり、釣り人が訪れています。このときは邪魔しないようにしていましたが、振り返ってみると何が釣れるのか聞いてみたいところでしたね。そうすれば水面より上だけでなく下のことも少し知れるので。

取水堰には魚道が設けられています。道はこの魚道からガードレールで川べりと隔たれています。

水草の姿が。

辺りを舞うものの気配に振り返ると、水たまりでツバメが巣に使うための泥を取っていました。

堰のそばにはオオバンに代わってオナガガモの群れが。

さらに堰の上にはカワウやサギが陣取っています。カワウは堰の上の深場で潜ることを念頭にした位置に集まり、サギは堰の下の浅くて見通しのいい水面を見下ろせるところにいるようです。

さらに進んでいきます。ガードレール沿いの道の陸側は自動車の教習場で濃い色の品種のサクラなどが見えます。

チドリや、他にも種類の分からない河原の小鳥がいるのを撮り逃しながら進んでいると、一際浅く河床が見えているところに差し掛かりました。

ここが飯室層の露頭です。今は水かさが多く(狭山市立博物館のときもこうでしたが……)露頭まで進むことは難しいですが、水位が低い時期には親子連れや愛好家が化石採集を体験しにやって来ることが多いそうです。

河原に流れ着いた砂利とは別に、泥岩が割られて残った小石が見えます。もろいとはいえ自然に細かく割れるようなものではないので、化石採集のときに割られてできた小石のようです。
世界的な発見がなされたことにはほとんど触れられていないいっぽう、周辺地域の人々が太古の世界に触れる場としては重宝されているという、ちょっと不思議な状況です。

穴になったところをよく見ると層状になっていることが分かります。

露頭の中の中州にはアブラナなどが茂り、コサギが歩いていました。

水中をじっと見ながら歩き、たまにクチバシを突っ込んでいるので、やはり獲物となる魚も充分いるようです。
130万年ほど前の地層の上が今の生き物の暮らしで満ち溢れています。

川べりから少し離れると砂利に覆われています。露頭の泥岩が割れたものとは明らかに違っています。

大半はもっと固く固結した砂岩です。多摩六都科学館で解説されている、上流から流されて削れたものです。
一部チャートなども混ざっていて、奥多摩の地質を反映しています。

例えば山の上の小川であるフタバスズキリュウの発掘地点と比べるとかなり都会ですし、ここより上流のアキシマクジラの発掘地点ももう少し静かです。
こんなに生活感のある街に囲まれた、しかも貝やカニといった小さな化石が身近で発掘できる場所として親しまれているところで、遠く冷たい海で絶滅したステラーカイギュウの世界最古の化石が発見されたのです。

二枚貝の貝殻を見付けましたが、化石化しておらず光に透ける、今の貝の殻です。生きていたときは飯室層から溶け出した成分を吸収して殻を形成するのに使ったかもしれません。

飯室層の露頭に関してはここまでですが、水辺の楽校の様子を引き続き見ていきます。草木が適度に生い茂っています。

大半の木は河原らしくヤナギです。

これは自然に伸びて背が高くなったレンギョウ。

おや、これはオニグルミの若葉。ということで地表を見てみますと、

やはり殻が。クルミの仲間は水に流されて水辺に生える木です。上総層群が堆積した当時のオオバタグルミの暮らしを彷彿とさせます。

園内、いや校内にも小さな水場がいくつかあります。5月以降ならトンボが見られたでしょうか。

土手の上に出てみるとユキヤナギの花が残っていました。今年地元ではあまり見られなかったんですよね。
これは植えられたものですがユキヤナギも実は渓流の植物です。水没してもこの長くしなやかな枝で水流を受け流すんですね。あ、ユキヤナギはヤナギ科ではなくバラ科です。

土手の道は赤土です。ここまで来ると川に削られていない関東ローム層の土というわけです。

林を見下ろしながら駅まで戻ります。

一応案内板の類は全て見たんですが、化石が採集できる場所は示しつつもステラーカイギュウについては何も言わないという不思議な状況でした。
これは1974年に台風によって堰が決壊し多摩川が氾濫、堤防が260mも決壊して近隣の家屋19棟が流されてしまったという災害を記憶にとどめる碑です。20世紀後半になってからもやはり、多摩川は強すぎる暴れ川でもあるのです。

和泉多摩川駅で軽い昼食をとり、2駅だけ南下して次の目的地へ。

かわさき宙と緑の科学館(川崎市青少年科学館)

向ヶ丘遊園駅から山のほうに進むと、色々な美術館も含んだ緑地公園である生田緑地に着きます。花の時期なので来園者で賑わっていました。

木々は細かな若葉を芽吹かせています。

山の木々の中にサクラが。けっこう人の手が入っているので植えたものだとは思うのですが、こういうのもいいものです。

そうするとイロハカエデも植えたものである可能性が高いですが、河原のような日当たりが良過ぎるところは好まないので先の水辺の楽校では見られない木ということになりますね。小さな花が咲いています。

科学館に到着しましたが、まだ入館せず外を見て周ります。

広場の両端には蒸気機関車と客車が展示されています。蒸気機関車は割とよく見ますが客車は珍しいですね。

もちろんせっかく客車なので乗車することもできます。

蒸気機関車はおなじみD51です。林をバックにすると路線を走っている途中に見えて臨場感がありますね。

D51の後ろに何か展示されてるなと思ったら「埋没化石樹」との表示が。

沖積層から発見された1000年ほど前のカシの幹ということで、あまり化石化していなさそうです。

入館してすぐのところに以前のプラネタリウム投影機、五藤光学研究所のGM-Ⅱが展示されていました。投影機の革新が起こってからはたまに見かける展示です。操作盤で動かすことができるようになっていました。

太陽の直径をここのプラネタリウムドームと同じ18mに縮小したときの各惑星の大きさが、プラネタリウムホールの外壁に描かれています。。

地球はこう。

プラネタリウムの上映までまだ時間があるので展示を見ていきます。まず目を引くのは生田緑地の地層の模型です。
ここは関東ローム層の研究が始まったところだそうで、上のほうの関東ローム層が細かく分類されています。お目当ての上総層群飯室層は一番下の灰色のところです。
そういえばここに着くまでの道で飯室という地名を見かけましたが、元々この辺りの地名から地層の名前を取ったんですね。

生田緑地の中で地層が観察しやすい場所が立体地図で示されています。こういう実地に直結した展示はありがたいですね。
飯室層の露頭もあります。ここですでに示されているんですが、多摩川から北の武蔵野台地では多摩川が関東ローム層と武蔵野礫層を削り取ってようやく化石のある上総層群が見られるのですが、ここでは上総層群の露頭が川のない山の中にあるんですね。

2009年に生田緑地の中央で行われたボーリング調査で得られた地層のサンプルがずらりと並んでいます。ストローをティラミスに突き刺して縞模様を保ったまま一部分を引きずり出すようなイメージです。

飯室層の貝化石がちらりと。

地域の地質の変化と世界的な変化を連動させて実感を持たせる記述がよく見られます。

微細な標本の拡大像をデジタル顕微鏡でモニターに表示する展示ですが、標本を交換する機構がよくある円卓ではなくシャカシャカパズルになっています。この8枚のパネルを丸く並べたらどうなるかを考えると、スペースの割にたくさんの標本が見られるようにできますね。

地層模型の裏に化石の展示があります。

ここでもケースの外で地球全体の歴史に触れています。南関東では発掘されないアンモナイトも見られるのは地域の人にとってはちょっと嬉しいかもしれないですね。

アケボノゾウの頭骨全体が川崎で発見されたわけではないようですが……、

顎骨付きの臼歯は川崎で発見されたものです。しかしこれは柿生層という海成層にあったもの。アケボノゾウやナウマンゾウではたまにあるんですけど海まで流されてから堆積したんですね。多摩川近辺と違って上総層群の堆積の時期に陸になったことはなさそうです。

柿生層の他の化石は海の貝です。ヤツシロガイ、エゾヌノメ、マツヤマワスレ。

絶滅種のイズモユキノアシタガイです。

飯室層の化石として最も目立つのはこのスジイルカ属の頭骨です。頭蓋部分以外はよく残っているようです。多摩川から北でもイルカの断片的な化石は見付かっていますが頭骨丸々はないので、ここならではの展示ですね。

こちらはチバニアン展や市川市自然博物館で目立っていたトウキョウホタテ。上総層群より後の年代の地層で見付かりがちですが、飯室層の年代にはすでに現れていたようです。

さきほどの顕微鏡のところにもありましたが、有孔虫についてかなり詳しく取り上げています。有孔虫に基づいた古環境の研究が行われたりしているのでしょうか。

しかし実はもう一つ飯室層の大きな化石の展示があったのです。それがこの化石ケースの前の床。

生田緑地の中で発見されたトド属の化石です。産状を床下のスペースに再現し透明な床から見下ろせるようにしてあるのです。
群馬県立自然史博物館のトリケラトプスと同じ方式ですが、同じ敷地内で発見されたものなだけあって臨場感は段違いです。

で、先程の立体地図のところでもそうだったのですが化石の展示でも多摩川は登場しません。やはり昭島市や八王子市の多摩川で化石が発見されるのと違って、多摩川やその支流より南側ではそもそも土地を川が削ったことがあまりないので、山の中の崖などが露頭となるようです。先に見た水辺の楽校の露頭とは対照的ですね。多摩地域だけ見ていると川が掘り出すのが普通だと思い込んでしまうのを改めることができました(といっても他の地層でも川が掘り出すこと自体はよくあるようですが)。
しかし飯室層が堆積した当時の海の生き物については、顕微鏡サイズの有孔虫、手の平サイズの貝、大型動物と重層的に知ることができました。

ワークショップの工作の展示を挟みまして。

生き物と自然環境に関する展示を、奥の多摩川の展示から見始めました。やはり川自体の展示でも化石や地層には触れていませんでした。

多摩川の支流は大半が南側から注ぎ込むということに言われて初めて気付きました。北東にあるのは野川と仙川ですね。北側は平らな武蔵野台地で南側は多摩丘陵だからでしょう。

壁の高いところに剥製を配置して、触れられないけど近くから見られるようにしてあるという展示が多いです。このスペースには昆虫の標本は少ないです。カニはいっぱいあるんですけど。

流れをイメージした柵に川の様子を再現した展示があります。もちろん上流から河口まで。

引き出しの中に解説が。自分で発見したっていう喜びで覚える効果と全部開いていく手間や分かりづらさとどっちが勝つかよく分かりませんが。

場面は川崎市民に馴染み深い街中に移ります。

昆虫の標本も少しずつ現れてきましたが、ここではどちらかというとギミック重視。ずっと何かしらの虫の鳴き声が響いています。

あ、そういえばここ外来種に対しては基本的に特に何も言わないです。アカボシゴマダラに至っては特定外来生物(基本的に生きたまま持ち運べない)なんですけれども。

アライグマとハクビシンに関しても。何か理由があるんでしょうか。

対峙するタヌキはなんでか壁走りです。

生き物のエリアの真ん中にある三角形のスペースは生田緑地の様々な生き物の標本を整然と並べた展示です。

鳥類と哺乳類は剥製、両生類と爬虫類は模型か液浸標本です。昆虫とそれ以外の節足動物、それに植物もあります。

台の上にも昆虫が並んでいますが、

実は台の下の引き出しにこそさっき影が薄かった昆虫の標本がずらりと並んでいます。
引き出しには番号が振ってあるだけで説明はないので、何か見たいものが決まっていた場合の調べものには向かない気がしますが。
三角のスペースのうち1辺の引き出しには昆虫ではなくシダ植物の写真が収まっています。

こちらは季節ごとの生田緑地の生き物の特徴を紹介するスペースです。

こちらも町の生き物のコーナーと同じくギミック多めです。科学館ですからね。

プラネタリウムへ。現在の投影機はメガスターⅢです。
今夜の星座を、街中でも見付けやすいものはどれかということを交えて解説した後、近いうちに見られる彗星についての解説に移りました。彗星のとても長い軌道全体が見られる位置まで地球を遠く離れていく場面はぞわっとしましたね。

2回は天文展示です。

隕石の標本も。

テラスに出ることもできます。

生田緑地の樹木を上から観察することができます。

館内はひととおり見学し終え、立体地図に示されていた飯室層の露頭は幸いに2ヶ所とも生田緑地の入り口から科学館までの道を少しそれただけのところだったので見てみました。
さすがに化石を発見するというわけにはいきませんでしたが、多摩川の関与がない上総層群の露頭がどんなものか確認することができました。

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