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多摩六都科学館ですよ

明けましておめでとうございます。今年は地元近辺の自然をちゃんと見ていきたいと3つ前の記事で言ったので、それにふさわしい施設の紹介から。見学は12月27日でした。

多摩六都科学館の多摩六都とは、小平市、東村山市、清瀬市、東久留米市、西東京市(かつての田無市と保谷市)をまとめた、多摩県北東部の地域のことです。この地域が共同の組合で設置した、子供達を中心に体験しながら科学が学べる場です。

実際、見学ルートの最初のほうにある宇宙や物理の展示は特に見るからに子供向けなのですが、当然内容はしっかりしたものですし、よく見れば見逃せないものが潜んでいます。

そして地域の生物や地学に関する展示は、どんな生き物がいるかという細かい様子や、多摩の大地の成り立ちと岩石を中心とする地学の基礎を詳しく、またちょっと引き締まった雰囲気で展示していて、地域の自然を知りたいという私にぴったりの内容です。

……数十年前に親に連れられて来館したときはリニューアル前で、これとは全く逆の目に合わされたのでした。生命のフロアだという案内を見て喜んで進んだら生物ではなく人体中心の展示だったという、好きなものの代わりに恐ろしいと思っているものを見せられる羽目になったのです。
京都市青少年科学センターのときに「科学館の設置者がどのような学習に役立ててほしいかという具体的な意図を持って設置したものなら怖くない※」という自信を多少は付けていたので、数十年前のリベンジに挑んでみました。
(※小中学校のことは科学館と違って信用していないので、いわゆる理科室のアレはダメです。明確な意図があると思えません。)

高い塔が見えますが別に科学館の設備ではなく放送塔なんだそうです。

本体はこのおまんじゅうのようなドーム。ここのプラネタリウムドームは世界的にも特に大きいものだそうです。

各年代の古生物のシルエットをくぐるタイムトンネルです。これのことは覚えていたつもりだったんですが、カンブリア紀のところはアノマロカリスだと思い込んでいたものの実際は三葉虫でした。

ピンホールの星がちりばめられたドームに入って見るミニプラネタリウムや精巧な日時計など他にも屋外展示がありますが、

ちょうど樹冠と同じ高さの小さな展望塔は季節ごとに高い枝の観察ができる良い設備だと思いました。

入館すると外のドームを縮小したような建物本体の下に出て、低い空間の向こうに外宇宙探査機ボイジャーの実寸模型が現れます。全体的に90年代風の空間です。

最初の展示室「チャレンジの部屋」は物理と宇宙の体験の部屋です。博物館に慣れた大人からするとちょっと雑然としていますが、子供達は熱心に見ています。
これは1kgの錘に各天体表面で加わる重力を再現した展示です。太陽のを無理に持ち上げようとすると腰をいわします。

おや、もう地質学の展示が。ただし月の地質学です。月の砂とほぼ同じ成分の砂を加熱処理したものは月面に基地を作る際の建築材料になるかどうかの研究に使われたようです。砂を原料にした月面基地の模型もあります。

静かにたたずむスペースシャトルの模型の横には引退近くの活躍についての掲示があります。

部屋と部屋の間の採光窓から見える植栽の解説があります。

さて。

「からだの部屋」です。ああ、リニューアル前と違って「生命」という誤解を招く表現ではなくなっていますね。
この画角からちょっとだけ左にずれると「本格的なやつ」がありますが……、気遣いなのか、あんまり不気味なデザインではありませんでした。こうやってレクチャーを行いそうなカウンターのそばにあるということは解説に役立てるんだろうなと想像が付きますし、実際しげしげと眺めている人がいたので、役に立つ展示物だな、と納得することができました。リベンジ成功です。

左手前に見切れているレトロな絵は1918~20年にインフルエンザのパンデミックが起こった頃の予防啓発ポスターです。予防注射、感染者の隔離、うがい、不織布ではないもののマスクなど、今と変わらないものです。
他にもウィルスと免疫の関係から六都地域のヘルスケア施設の案内まで、健康に機構と行動の両方から関わる掲示を行っています。

このエアロバイクを漕ぐと窓の向こうに脚の骨格が見えて連動するようになっています。その様子も撮っておければよかったのですが。

「しくみの部屋」は機械工学や公共インフラなどの展示です。内部機構が見えるピアノがありますが、これのおかげで館内には小さなストリートピアニストの演奏が絶えません。今の子供達って「めざせポケモンマスター」とか「残酷な天使のテーゼ」とか弾くんですね。アップライトピアノに長短のピアノ線がきっちり収まっている様子は見事です。

保谷市(現在は西東京市)を拠点として活躍していたロボット技術者の相澤次郎氏が1965年頃に製作したお絵描きロボットです。「相澤ロボット」は大阪万博などでも活躍したそうですが、もう一体ここに収蔵されています。

2階の「自然の部屋」に辿り着きました。立ち並ぶ擬木の周囲に近隣の様々な生き物の展示が行われています。

東大が農学の演習を行う森林「東大農場演習林」の昆虫が目立ちますが、

都内でも哺乳類が暮らしています。といってもさすがに西多摩地区中心ですね。

爬虫類や両生類の骨格標本、ミジンコの水槽、コケや土の中の生き物(これは土から小さな生き物をおびき出す装置)と、かなり細かいところまで突っ込んだ展示をしています。

観察の方法などについてもよく解説しています。生き物そのものにとっては用済みになったものを拾い集めるのは簡単に始められるいっぽう継続すれば大きな効果のある手法ですが、

チョウのサナギの抜け殻をこんなにまめに集めることってなかなかないのでは……!?

昆虫標本を作製する作業の様子も見せてもらえます。標本だけでなくフィギュアの姿も多いですね。

作業場の奥を見ればアリゲーターガーの剥製や昆虫の大型拡大フィギュアまで。外来種の啓発や体の構造のレクチャーに役立ちそうです。

多摩川から遠いけど水辺はあるのかな?とつい思ってしまいますが色々な川が通っている地域で、魚の展示も多いです。これはサケ科の剥製の展示。

水槽も多数。

さて、メインのお目当てである「地球の部屋」です。

「関東ローム層」なら普通に聞きますが、この武蔵野ローム層はさらにその中の区分のひとつです。一部は箱根火山が噴火して生じた火山灰からなり、ほとんど富士山由来の立川ローム層とは含まれている鉱物が異なることで見分けられるのだそうです。
関東で化石が見付かりづらい原因でもあるので、関東の化石について知りたければ関東ローム層についても知っておかなければならないようです。

河原の石を調べるというのは小中学でも習う基礎的な方法ですが、それを詳しく突き詰めた展示により岩石の分類を説き、さらに荒川・多摩川・相模川の上流の地質を明らかにしてみせています。
多摩川には堆積岩が非常に多く、上流の地質も元々海底に堆積していた堆積岩が地殻のプレートの動きにより持ち上がったものからなるといいます。
アキシマエンシスで見た化石も多摩川から発見されたものですし、多摩川の化石について詳しく知るには岩石や地質の特徴を知っておくことが重要になるわけです。

武蔵野台地の地形です。
武蔵野台地は上総層群という地層の上に武蔵野れき層というれき(大きな石)の層と関東ローム層が重なってできていますが、川の働きにより段差や層の切れ目ができて関東ローム層より下の層が顔を出します。
ここの掲示ではそうしたところから湧水が生じることに着目していますが、化石を含んでいるのが一番下の上総層群であることを考えると、川の働きがあって初めて化石を発見することができるのだといえます。

湧水が流れ込む落合川で育つナガエミクリという水草です。生き物の世界も生き物だけで成り立つのではなく地質に規定されています。

先にプレートの沈み込みにより海底に堆積したものが持ち上げられたといいましたが、そうした「付加体」と呼ばれる地層に含まれているサンゴなどの化石が日の出町で見付かっているとのことです。
これらの化石はなんと石炭紀、約3億年前までさかのぼりますし、付加体の区分によってはより新しい色々な時代の化石も含みます。

日野市から見付かった三畳紀のモノチスという貝ですが、このモノチスは宮城県・南三陸の皿貝という地名の由来にもなっています。当時はどちらの地域にも生息していたんですね。

アケボノゾウという、今のゾウ科のゾウとは少し違うゾウの足跡の化石です。
多摩川の河床から発見されたのはアキシマエンシスに展示されている昭島市の化石と同じですが、これは日野市で発見されたもので、時代も昭島市のものが鮮新世なのに対してこちらはその後の更新世です。

多摩川だけでなくさらに広い地域を調べていくと、アキシマクジラの時代にどこが海岸線だったかが分かります。アキシマクジラは浜辺に打ち上がってしまってから化石になったようです。また現在では公園や街路の植木でしかないメタセコイアが当時は繁茂していたのです。
おや、狭山丘陵のところで植物と貝が両方見付かっていて、そこにもE字状に一周する海岸線が描かれていますね。狭山丘陵は当時は島だったのでしょうか。これはまた調べてみたいです。

多摩の地質の歴史に直結する化石だけではなく、生命の歴史全体を概観する様々な化石がきっちりと並んでいます。

アンモナイトや三葉虫は多種がまとまって展示されています。

こちらは岩石。堆積岩は何が堆積したかっていうだけなので普通に覚えられるんですけど、成分と冷却速度の2要素が関わっている上に直接的でない名前の火成岩がなかなか覚えられなくて、変成岩ともなるともう……。
化石に直接関係あるのは堆積岩だけではあるんですけれども、見分けがついたほうが色々スムーズなのでできれば覚えたいです。

さてフロアの展示は以上で、こちらはプラネタリウム。ケイロンⅡという機種です。まあ寝入っちゃうしそんなに目が良くないしで私にはプラネタリウムの善し悪しが分からないんですけれども。天文初心者向けのソフトな解説でした。

最初のボイジャーを真横から。

中心がアスレチックになっている螺旋階段。閉鎖しているしそもそも小6までなので今は関係ないんですけれど、こういうのが好きだったのでした。
数十年前にやってきたときにショックだったことだけ覚えてて良かったことは忘れていたみたいですね。

知りたかったことにほぼ当てはまる内容を詳しく展示していることが分かりましたし、今後詳しく知っていきたい内容もできました。

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