見出し画像

イルカ・ペンギン交代説とイルカ展示の将来

ブログでも以前書いたんですが蒸し返します。私今ペンギンの季節なので。

何で交代するかっていうと水族館での役割ですね。ペンギンこそ日本の水族館の未来を担う動物でありイルカは明らかにうまくいっていないので順次表舞台から退かせていこうっていうお話です。

それぞれの状況をざっと箇条書きにしてしまいましょう。

まずはイルカから。けなすことになるので特定の館の生体ではなく骨格の写真で失礼。

飼育環境:繁殖があまりうまくいっていません。それほど良好な飼育環境が用意できていません。

展示の維持:日本動物園水族館協会加盟館では野外から野生個体を調達することは禁止となり、繁殖が上手くいっていないことと合わせて展示の維持は難題となっています。

展示の工夫:イルカ展示といえばパフォーマンスという状況がすっかり定着して久しく、かえってパフォーマンス以外でイルカの観察があまりできない設備が多く見られ、展示の工夫が多方面に進んでいるとはいえません。

展示の訴求力:パフォーマンスの迫力は目を見張るものがあるのも確かです。ただし、野外ではもっと広い海で大きく動き回っています。

地域性:日本近海に生息しています。近海の環境を紹介するという重要な役目の一翼を担っています。

対してペンギンのほうは。

飼育環境:先人の努力の甲斐あって、フンボルトペンギン属を筆頭に繁殖が順調な種が多いです。飼育環境はピンキリではありますが改良が現在進行形で進んでいて、おおむね良好です。

展示の維持:コウテイペンギンあたりは心配ですが大半の種で展示の維持は安泰であり、むしろ国内での繁殖技術が野生での保全に活用されています。

展示の工夫:パフォーマンス的なものがあまり安定していませんが、泳ぐ姿のダイナミックさを見せる大型水槽から陸上での多彩な行動を見せるフィールドまで、展示の工夫が多彩です。

展示の訴求力:それほど迫力があるものとは思われていませんが、高速遊泳や大きな鳴き声など一般的なイメージにない行動で来場者を驚かせることができます。

地域性:日本近海には生息していません。

ペンギン寄りの項目を選んでいるきらいはありますが、最初の3つの項目からイルカよりペンギンのほうが展示として将来性があることがお分かりいただけるかと思います。

4つ目の「展示の訴求力」に関しては、今はペンギンに対して迫力、ひいては生命への畏敬の念を抱くかたは少ないです。

しかし、近代的なフンボルトペンギン展示の開拓者である葛西から最新の都市型水族館であるすみだまで、ダイナミックに泳ぐ姿を見せています。

動物園のほうでも旭山動物園や埼玉県こども動物自然公園を筆頭に環境を充実させて多彩な行動を引き出しています。ペンギンにもイルカに劣らない驚きを与えることは充分可能と考えます。

以上から、展示の存続自体に将来性の乏しいイルカの飼育を縮小してペンギンに主役を担わせることが、これからの日本の水族館が取るべき選択である……ということになりそうです。

ただし、5つ目の「地域性」は捨て置けないポイントです。

近海の生き物や自然を紹介することは特に観光地の水族館では重要な役目です。その近海に、陸上でいえばライオンをもしのぐ体格の高次捕食者が生息しているとなれば、良い環境で飼育できるかどうかはさておいても紹介だけでもしておくべきでしょう。

3つ目の項目「展示の訴求力」で「野外ではもっと広い海で大きく動き回っている」としたとおり、野生の姿を紹介することに力を入れるのもいいかもしれません。

日本の動物園・水族館の良いところに、野外での自然観察会を気軽に開くことができるという点があります。これを大きく活かして、水族館がイルカウォッチングを主催するという方法もあるのかもしれません。

また、浜辺に座礁したり港に迷入したりといった鯨類に関するアクシデントがあったとき、水族館の職員の皆様が保有している鯨類を扱う技術が必要になることでしょう。この点、私が安易にイルカ飼育をやめよと言えない理由でもあります。(下図は南知多ビーチランドで保護されたコマッコウです。)

それも併せて考えると、イルカが日本近海の生き物である以上、もし今後イルカ飼育を縮小するとしても、完全になくすのはあまり現実的ではなさそうです。特に充実した館に一任できればいいのですが、任せるべき館でも施設の拡充には時間がかかるでしょう。しかしイルカの飼育技術を確保するなら、いずれは避けて通れないと思います。

なぜ日本近海にいないペンギンが日本で盛んに飼育されているかというと、戦後の南氷洋捕鯨で極地性のペンギンが持ち帰られたことがきっかけだったりします。ペンギンとイルカどちらも捕鯨が飼育展示のきっかけということで、奇妙な縁ですね。

ペンギンの様々な行動を見せつつ生息地での姿に話題を持っていき、では日本近海に生息している捕食者といえば、ということでイルカの野外の姿を紹介する……という展示の流れが成り立ちそうですね。あくまで一例ですよ。

続きます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?