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千葉その1 市川考古博物館と市川市動植物園ですよ

2023年9月に行った千葉県をほぼ一周しながら気になるところを見て周る旅行についてまとめていきます。

行った場所は順に、
・市川市考古博物館
・市川市動植物園(市川自然博物館を含む)
・勝浦海中公園
・千葉県立中央博物館分館・海の博物館
・鴨川シーワールド
・渚の駅たてやま
・市原ぞうの国
なのですが、市原ぞうの国に関してはnot for meであったことと、そう感じる理由にはこの旅行の後に(いきもにあの前日に)訪れた京都市動物園で見たことも関わってくるため、記事は日付順に個別ではなく見たものの内容別に
・市川市考古博物館と市川市動植物園(市川自然博物館を含む)
・勝浦海中公園と海の博物館
・鴨川シーワールド前半、市原ぞうの国、京都市動物園
・鴨川シーワールド後半、渚の駅たてやま
の4つとなります。

さて今回は1つ目、9月18日に行った市川市考古博物館と市川市動植物園です。

歴史の展示はちょっと苦手と言いながらなぜ最初が考古博物館なのかといえば、考古博物館でありながら重要な自然史展示があり、またごく新しい年代に関しては地質にも詳しいためです。
それは、5000年ほど前には海辺だった市川の海岸に打ち上がってその後発掘されたコククジラを中心とした展示です。
コククジラは現在執筆中の「古生物飼育小説Lv100 武蔵野フォッシリウム編」の中心となる古生物アキシマクジラの近縁種です。
また、縄文時代の展示が多いため人間と密接な関わりがあったものとしても自然史的な展示が多いことになりますが、もちろん基本的には千葉県の石器~飛鳥時代について堅実で詳しい展示を行っています。
(それ以降の時代についてはお隣の市川歴史博物館で展示しているのですが、今回は残念ながら訪問できませんでした。まあそちらこそ私にとっては苦手な時代区分が大半ですし……。)

市川市動植物園はなんとなく気になっていた動物園ですが、その大きな理由が園内にある自然博物館だったりします。
身近な生き物の展示が充実しているとは聞いていたのですが、小さな生き物の生体展示の文脈で紹介されることが多いこともあり、やはり動物園の中の小さな博物館でありいわゆる小動物館的なものであろうと思い込みつつ、身近な生き物についての展示は重要だから……と思って心にとめていたのでした。
それが実際には自然博物館を名乗るにふさわしく、地質や植物についても、また近隣で見られる各環境の生き物や外来種についてもしっかりと展示していたのでした。また地質に関しては考古博物館の内容を補強するものでもあります。
生体の展示も本当に身近なものの面白みが伝わるよう丁寧に、また意外な工夫を交えて手を尽くしてあります。
屋外の動植物園部分について言えば、こちらも家畜や小動物、日本の動物などを主に扱い、公園のような造りの園内で穏やかに過ごせる、親しみやすいタイプの動物園です。役割や内容で言えば井の頭自然文化園のように近隣の皆さんのオアシスであり生き物の世界への入り口となっているようです。
生き物の世界への入り口といえばすぐそばに立派な自然観察園があるようで、そちらも見てこそだったかもしれませんが、今回はそちらまでは見ることができませんでした。本来は動植物園・自然博物館・自然観察園が合わさって効果を発揮しているのでしょう。


市川市考古博物館

考古博物館の最寄りの北国分駅からは本当は単純な道のりだったのですが、それでも方向音痴を発揮してしまい、不思議な起伏のある街を旅荷物を抱えてさまようことになってしまいました。しかしこれも海進・海退によって作られた地形を実感する機会になったと思えば、河岸段丘や丘陵などに慣れきった自分にとっては良い体験でした。
ともかくこんな爽やかな緑地の中に……、

考古博物館の生真面目そうな建物があります。

入館するといきなり目当てのコククジラの復元骨格が出迎えます。おや?

実は前半身のみだったのですね。しかしこの存在感です。

あまり曲がっていない下顎など、コククジラの特徴はこれでよく表れていると思います。

一見灰色が濃い部分(というか実物ですね)だけが発掘部位のようですが、「市史研究いちかわ 第9号」によると、本来の発掘部位は椎骨をはじめとしてもっと多かったものの、ちょっと悔しい経緯で失われてしまったようなのです。
同じく市史研究いちかわの記述に沿って解説します。

この個体は1958年に市川電報電話局の建設工事中に発見されたものです。
この骨が含まれていたのは市川貝層という地層です。市川貝層は縄文時代に当たる約5000年前、当時海岸だった市川の砂州「市川砂州」に貝殻が自然に打ち寄せられてできた(つまり、貝塚ではない)貝の半化石を多く含む層です。
その後、考古博物館が開館する当初までにはヒゲクジラ類であるとは判明していたものの、しばらくはナガスクジラ科のイワシクジラとして展示されていたのだそうです。アキシマクジラもしばらくはナガスクジラ科と勘違いされていたそうですが、コククジラが北西太平洋では大きく数を減らしているせいでマイナーな扱いを受けているのかもしれませんね……。
そんなわけで現在の復元骨格はイワシクジラからコククジラに作り直されたものなのだそうです。
市史研究いちかわ第9号(ひらがなで書くと「ちいかわ」に見えちゃいません?タイポグリセミア……ってコト……!?ワァ……)にはこのコククジラについても市川貝層についても、コククジラそのものについてもとても詳しくまとめられています。また第7号には発掘の関係者の証言が掲載されています。

さて、この発掘地点は本八幡駅のすぐそばなのですが、本八幡といえば都営新宿線の終着駅です。都営新宿線およびその直通路線を利用しているとよく聞く地名なのですが、名前だけよく聞いていた土地でこんな発見がなされていたと知ると認識が改まってしまいます。本八幡のコククジラと八高線鉄橋下のアキシマクジラ、千葉と東京の人口密集地帯は二つのコククジラ属の発掘地に挟まれていたのです。

13万年前以降の千葉の地層と地形の移り変わりを示す大きな展示もあります。コククジラが打ち上がったのはおおむね上から2つ目の、一旦大きく海進した段階の少しだけ後に当たります。

コククジラが漂着した砂州は離れ小島のようになっていました。

印西市の木下(きおろし)貝層や館山市の沼サンゴ層など、ホールには新しい時代の半化石が他にも展示されています。

展示室へと続く階段からもコククジラをよく見ることができます。筋肉の付着する突起が発達していないといった下顎の特徴がよく分かります。アキシマクジラと比べると鼻先が高い個体をモデルにしているようです。

さて展示室内はかなり落ち着いた雰囲気で、古い掲示なども大事に使われています。

土器の文様をいかに作成するか?縄はもちろん貝殻や丈夫な植物の茎の断面なども活用して……、

このような精巧なものが作られていたようです。

縄文人が利用していた生き物を並べるだけでもかなりの種数になります。

そんな中にまた別のコククジラやシャチまでもが。

色々食べていたとはいってもこれだと夫婦二人で平らげるには大漁すぎるので、物々交換の元手でしょうか。

「特別に衣服を脱いでもらいました。」……古い展示解説や学習絵本の言葉遣いには魅かれるものがあります。

ちょっと飛びますが律令時代に入るところ……仏様のお顔と瓦の軒が迫力です。

国司と庶民の食事の比較に何か歯噛みしてしまったり……フナがあるだけマシでしょうか。

展示室が終わったところの渡り廊下からまたコククジラが、今度は同じ高さで見られます。

地層の上部も。

「市史研究いちかわ」の中からコククジラの記事があるものを購入させていただいてから、動植物園へ急ぎました。

市川動植物園(自然博物館)

電車とバスで動植物園のあるエリアへ。

すごい造形のウサギの車止めに迎えられて緑道を行きます。

教育効果を鑑みてある程度自然観察園での子供達の昆虫採集を認めるという掲示が。ところどころ「どんぐりと山猫」を思わせる言葉遣いにも何か考え込まれた痕跡を感じます。

さて、入園するとかえって住宅街のような風景が。実は自然博物館が一番最初に配置されているのですね。

入って2階に上がると、近隣の子供達のための施設らしさを感じさせる館内です。海外のカブト・クワガタが並んでいるのも子供達の注目を集めそうですね。

しかし思ったよりビシッとした展示室内。まずは市内に残された自然からです。

垂れ幕のマツは市内に多く残るクロマツなのですが、このクロマツのエリアが縄文時代に砂州だったところと一致するのだとか。つまり、先の考古博物館にあったコククジラの打ち上がった市川砂州ですね。
確かにこうしたマツ類は海岸など他の木が苦手なところに率先して生える木です。今ではクロマツの数はかなり減ってしまっているようですが、当時の痕跡が木という見やすい形になって残っているのですね。

大きな展示室の端で、内容は市川市の地質に進みます。おや、また別のクジラの骨が。

また地形の成り立ちの解説ですが、こちらは細部に注目しています。市川市の起伏が複雑な理由がこれでよく分かりました。

貝塚の貝や化石の貝です。左中央のトウキョウホタテと隣のブラウンスイシカゲガイだけは絶滅しています。実はブラウンスイシカゲガイはアキシマクジラと関係があったり。

今度は縄文人の食べ物ではないですよ。今の市内で動植物が観察できる場所について解説しています。

ノウサギと雪の解説ですが、こういうジオラマで雪をフェイクファーで表現するのは初めて見ました。他にもタヌキやハクビシン、フクロウなど市内の脊椎動物がピックアップされています。

雑木林には剥製を使って哺乳類の生活の場面を切り取ったジオラマや、自動撮影カメラで得られた観察映像が。

水の生き物にもぬかりありません。

外来植物についてもとにかく詳しくて驚くほどなのですが、中でも珍しいのが羊毛にいわゆる「ひっつき虫」が付いたまま輸入されてくるという展示です。羊毛を輸入している会社から一緒に寄贈されたようで、人間の道具もやたらと羊毛に混入してやってくるという展示もあります。
この他にも成田市にあった御料牧場に外来の牧草を介した外来植物が多いという展示もあり、外来種のやってくる経路にも土地柄があることや、外来種と具体的な人間活動の結びつきが分かります。

この室内で圧倒的な存在感の鉄塔、もちろん必ず目に入る野生動物であるカラスの展示です。

巣の材料やカラス除けの道具などヒトとの関わりも含めて詳しく展示しています。もちろん都市で見られる他の鳥類も一つひとつ巣まで含めて取り上げられています。

昆虫になると、もちろん近隣のものも多く展示されていますが、扱いやすいためか海外のものの姿もあります。

ここからは飼育展示室です。壁には凝った解説がありますが、

その内容をヤマトオサガニのような親しみやすい生き物で示しています。

アルビノのアマガエルは当然目を引きますが、

このナナフシの展示方法も目を奪います。生けた状態の枝を水の入ったビンごと宙吊りにして、そこに飛ばないナナフシを住まわせているのです。これにより野外の枝の上にいるものと対峙したときのような臨場感を出しています。

この迫力のある両生類は……!?水量をコントロールすることで他の両生類でいう成体の姿に変態させることに成功したメキシコサラマンダー(ウーパールーパー)です。

いっぽうではアメリカザリガニのほうでも上手に脱皮させるコツなどを語り、設備が簡素なだけにかえって飼育の工夫に関しても多くを読み取れます。

この他にも展示室の外にまで水槽が並び、また寄贈された標本で海外の化石や鉱物を示しています。

さて、屋内を通じて先の建物から園内中心部に進めるようです。渡り廊下の前の部屋には、

カメの展示室が。このトウブハコガメは市内で保護されたものだそうです。逃がされたのかな。税関で引っかかったカメを動物園が預かるというパターンが多いですが。

ここまでろくに休憩していないので、家畜コーナーの近くでゆっくりと。ラムネにメロンフレーバーを付けたらそれはラムネビンに入ったメロンソーダでは。

獣舎の向こうの木立から自然観察園みたいです。

モルモット達の部屋の中に「老モルホーム」が。なかなか見た目には老いが分からないですが。

ハリスホークが爪やクチバシをじっくり見せてくれました。

タテガミヤマアラシ、あれっこの向きでも大丈夫なんだ……!?ヤマアラシのジレンマとはいったものの本人同士にしか分からないものですね。

珍しく複数個体が起きて活動していたハクビシン。なんででしょうね。

「流しカワウソ」は見られなかったものの、

よしんばコツメカワウソを飼うにしてもこうしてしっかりした設備で仕事でやらないと無理ですよっていうことはずっと言っておきたいですね。

ああー手を見せてくれてありがとうございます!ワタボウシタマリン。

スプリンクラーを浴びるニホンザル達。気候変動のせいで動物園の暑さ対策も急を迫られそうです。

ウォークスルーバードケージは大型の鳥が多く落ち着いた印象です。

竹林の中にエミュー。ダチョウと比べると水たまりを好む印象があります。

移動中のアルパカに出会いました。

竹林の中、ヒガンバナを透かし見ながらミニ鉄道の線路をくぐり抜けます。

いっそう公園らしい風景に。

残念ながらここで特に注目されている動物であるオランウータンの皆さんの姿は見られなかったのですが、周りの気配は何だか濃密でした。

せっかくなのでレッサーパンダの器用なところも見せてもらいましょうね。手首の出っ張りが片方にしかないのにどうやって挟んでるんだろう。

ヤマアラシのごはんタイム。慣れてるし食欲があるときでも棘を立てるのは興奮してるんですかね。なんだか今回細かい疑問が多いですが。

今回の目的地の中では他と違って来ようと思えばまた来られるんですが、やはり春あたりに今度こそオランウータンを見に……?

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