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古生物飼育小説Lv100 第九十二話をサイトに掲載しました

実はこっちの執筆に集中していたので行った場所のレポも全然書けていないのですが、武蔵野フォッシリウム編も残り1話となりました。博物ふぇすには間に合わせたいですね。
今回もよろしくお願いいたします。

サイト

カクヨム

以下はネタバレ込みの解説です。

国立科学博物館

第八十九話(武蔵野フォッシリウム編その3)にあきる野市五日市地区のミエゾウがちらっと出てきましたが、今回は同じ地域でもっと前の年代の地層からも発掘されているパレオパラドキシアが登場しました。
パレオパラドキシアはデスモスチルスと同じく束柱類という絶滅したグループに属する、海獣らしからぬ海獣です。
束柱類はどう見ても鰭ではなく普通の腕や脚に見える四肢を持っていましたが、この四肢の関節が陸上動物らしからぬ向きをしていて、研究が進むにつれ歩くよりは泳ぐほうが向いていたとされるようになってきています。肋骨が腕に体重を伝えるのに適していたかどうか、骨密度が水底で行動する動物と遊泳する動物のどちらに近いかで比較すると、パレオパラドキシアは浅い岸辺で行動し、デスモスチルスは深い沖に泳ぎ出ていたようです。
また「束ねた柱」と例えられているのはまさにそういう形をした臼歯ですが、これも何を食べるのに使っていたのかヒントにならず食性も謎でした。デスモスチルスはその臼歯で何か噛むというよりただ噛みしめることで水底に水を吹き付けたり餌を吸い込んだりするときに顎を固定していたとか、デスモスチルスと比べてパレオパラドキシアは植物食の傾向があるとか言われるようになってきています。
分類にテチス獣類、つまりゾウやジュゴンの近縁と書いてしまいましたが、奇蹄類に近いという説もあるようです。

あきる野市立五日市郷土館

五日市の留原(とどはら)で発掘された化石のレプリカはあきる野市立五日市郷土館に展示されています。……未だに記事にできていないですが、私の好みの郷土資料館であることは確かなんですよ。地質と生き物の解説がしっかりしていますし、文化も生活とその道具がメインですし。
見てのとおり上顎の途中で割れているものの全体が残った頭骨です。さすがに日本各地で発見された代表的なパレオパラドキシアの全身揃った化石ほどではないですが、パレオパラドキシアらしさがよく分かる標本ですし、日本を代表する化石哺乳類である束柱類が多摩地域で発見されているというのは多摩地域の古生物を掘り下げる上でとても大事なことです。
そのため東京の古生物を扱っている水族館にもいるものとして、パレオパラドキシアが生息していそうな場所、取りそうな行動を踏まえた飼育環境としました。
海の浅瀬で行動するものとして浅くまた傾斜した水槽にして、本来なら底砂を厚く敷いてその中を探れるようにするところなんですが、水族館の規模によってはそれでは管理が難しいかな?ということで、水底はただのコンクリートで餌やりの時だけ砂と餌の詰まった箱が下りてくるようにしました。鳥羽水族館のジュゴンの餌のやりかたがこれに似ていたと思います。おそらくこれより充実したパレオパラドキシアの施設があるものと思います。


今回動画の中のアキシマクジラの出番がさらに増えましたが、飛び跳ねる行動は現生のコククジラを全面的に参考にしています。
フジツボについて描写していますが、コククジラにはハイザラフジツボというフジツボが付着します。いっぽうザトウクジラにはオニフジツボと、それぞれ別の種類のフジツボが付くようになっています。
これらのフジツボは岩に付くフジツボと違って敵や干潮に晒されないので、蓋の役目をする部分が薄く小さくなっているのだとか。なのでクジラにしか付くことがないんですね。
研究されているかたの解説記事がありますのでご興味があれば。

で、ハイザラフジツボ属のフジツボはアキシマクジラより前の年代の地層からも発見されているそうです。

なのでアキシマクジラにもハイザラフジツボ属のフジツボが付いていたとしています。


今回は古生物ではなく180万年前の星空をどうやって再現するかという部分が長くなりました。
実際普通のプラネタリウムの範囲では180万年はカバーできないようです。今回は誤差が大きくなるのを覚悟で星が宇宙空間を真っ直ぐ進むものとしてゴリ押しで計算するという風にしましたが、もちろん「誤差が大きいですよ」という注釈が必要になるやりかたです。
とはいえ森沢が小4から三角関数を実用していたのが活きました。


パレオパラドキシアの飼育環境にはやや制限があり、そのことがかえって野生の姿を描く意義ややらなければならないことを浮き彫りにすることになりました。
生きているものを飼育するならその個体が満足に暮らせるよう手を尽くさなければなりませんし、それができないから人工物で代替する、となれば人間が表現したものしか見せることができないので、何を見せるのかよく考えて表現しなくてはなりません。

そして高幡学園の中での活動が本格的になり、アキシマクジラの映像を一旦本格的にお披露目する機会がついにやってきました。
(作者自身も思っていなかったくらい)高いハードルを越え、コククジラの近縁でありフジツボをまとっていたであろうアキシマクジラの背中と星空がつながりました。

次回、ついに最終回です。7月の博物ふぇすに間に合ううちに赤星の旅が完結するよう、応援いただけましたら。

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