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古生物飼育小説Lv100 第八十八話をサイトに掲載しました(終盤はアキシマエンシス 化石薄片展ですよ)

イベントを間に挟むとどうしても遅くなってしまうとはいえいきもにあも博物クリスマスもすでにけっこう前のことですよね!
武蔵野フォッシリウム編その2です。今回もよろしくお願いいたします。

サイト

カクヨム

以下はネタバレ込みの解説です。


アキシマクジラを現生のコククジラではなく当時のアキシマクジラに見えるように描くには当時の海の様子、特にアキシマクジラと同じく絶滅した生き物もしっかりと描くことが必要だ……というわけで、周りの生き物について探る回です。

今回は11月12日にアキシマエンシスに行ったときの様子も交えます。

アキシマクジラと共産した化石

アキシマエンシス 郷土資料室の外の標本ケース

アキシマエンシスの展示って3回行って3回とも違うんですけど、この標本ケースは2回目以降アキシマクジラの地層とその前後の地層の様子についてとてもよく分かるようになっています。そんなこと言ってこれは先月の写真なので今違ったりするかもしれませんが。

アキシマエンシス 郷土資料室の中の標本ケース

さらに郷土資料室にアキシマクジラと同時に発掘された化石の標本ケースも追加されました。当時の記録写真では大きさを比較するための「ピース」の箱が並べられていますが、当時の箱がたばこと塩の博物館から来ていますね。

アキシマクジラと同時に発掘されたのはブラウンスイシカゲガイ、ウバガイ、エゾタマキガイの近縁種、ホホジロザメ、ヨゴレ(サメの一種)、メジロザメ属の一種、で二枚貝とサメが3種類ずつですね。

ブラウンスイシカゲガイ

アキシマエンシス 郷土資料室の中の標本ケース

この地層、小宮層からは貝を中心に他にも色々発掘されているのですが、完全に絶滅しているのはアキシマクジラ以外にはブラウンスイシカゲガイくらいのようです。成瀬がアキシマクジラの情景を作るに当たってブラウンスイシカゲガイが重要になるわけですね。

北区飛鳥山博物館

そのブラウンスイシカゲガイもちょっと不思議なところがあって、他の産地ではもっとずっと後の数十万年前程度の地層から発掘されるんですよね。本当に同じ種類なのかなって思うくらいには間が空いていますが。あっ、この飛鳥山博物館はブラウンスイシカゲガイが初めて産出した王子貝層の露頭のすぐ近くなんですけど、この展示されている標本は千葉県成田市の清川層のものなんですよ。なんだかんだ千葉のものばかり見かけます。

化石だけを扱っていると全く話題に出ないんですけど、現在生きているイシカゲガイは養殖を行う地域が限られている高級食材でもあり、また、足で飛び跳ねるという二枚貝離れした特技の持ち主でもあります。
この足って二枚貝が普通に持っていて砂に潜るときなどに使う筋肉でできた器官のことなんですが、イシカゲガイ(正確にはイシカゲガイを含む多くのザルガイ科)の足は膝みたいに曲がるところまであって、本当に脊椎動物の後ろ脚に見えてしまうものが殻の中の空間にギュウギュウに収まっているんですね。

旬の食材百科 エゾイシカゲガイ/イシガキガイ:生態や特徴と産地や旬 ・・・中がどうなっているか分かりやすい写真があります。

現生種の中ではブラウンスイシカゲガイに最も近縁な北米のオオイシカゲガイが、ヒトデに襲われて飛び跳ねて逃げる動画です。

ホタテの仲間

普通の二枚貝に見えてもものすごい特徴があるものですね。よくブラウンスイシカゲガイと一緒に発掘される(小宮層でも見付かる)アカガイにしても、身が真っ赤なのはヘモグロビンを多く含んでいるからで、そのおかげで酸素が少ないところでも生きられるという特徴があるんですね。

普段食べ慣れているホタテにしても、その食べ慣れている部位である貝柱(閉殻筋)があんなに発達しているおかげで水を殻の中から噴き出して泳ぐことができてしまいます。
そしてそれはホタテと同じイタヤガイ科の全部ではなく、岩に糸で体を固定するものもかなりの数います。

国立科学博物館 泳ぐタイプのツキヒガイと固定するタイプのヒオウギ

泳ぐホタテガイも体を固定するアズマニシキも小宮層で発見されているので両方のパターンを紹介できるように完全に絶滅したものの中からトウキョウホタテとエグレギウスホタテ(ちょうど実物化石を持っていました)を登場させたわけですが、実はもっと登場させたかったのはタカハシホタテのほうだったりします。

東北大学総合学術博物館

成長の途中までは現生のホタテガイによく似ていて泳ぐ能力もあったのにそれから急に殻が分厚くなり、さらに片方の殻が大きく膨らみ、泳ぐ能力がなくなり分厚い殻で身を守りつつ繁殖に備えて栄養を貯め込んだ……と考えられています。
さりげない和名に反してFortipecten(Forti-は音楽用語のforteと同じ語源)という力強い属名ととても重厚な殻で一部の古生物ファンにとって忘れられない貝となっています。

奥多摩の特に古い化石

多摩六都科学館

登場させたかったものということで同じ東京都内でも奥多摩には付加体のとても古い地層とそれに含まれる化石があるということも言っておきたく、貝が関係あるうちにモノチスを登場させました。
南三陸で多く産出することで有名なんですが同じ南三陸のウタツサウルスを登場させたときには生態がよく分からないという情報しか得ておらず出すのは控えていました。

多摩六都科学館

それから特に古いものをということで石炭紀のコノドントを。本文中ではただの半透明の魚でしたけど、とにかくすごく小さな歯の化石だけがたくさん見付かってきた割に全身の証拠はなかなか見付からなかったというとても不思議な化石です。

魚類(主にサメ)

それから多摩地区のもっとアキシマクジラに近い年代にいた魚の話題に移っていきますが、これはアキシマエンシスの特別展のときに詳しく書きましたね。

イワシ(といっても「イワシ」とは小型のニシン類という意味しかなくニシン類の中のどこに属するかはなんともいえないのですが)とゴンズイ科はアキシマクジラの小宮層より前のようなのでアキシマクジラの年代には確実にすでにいたと思われます。

アキシマエンシス 郷土資料室の中の標本ケース

最後にアキシマクジラと同時に発掘されたもうひとつのグループ、サメですね。もしかしたらアキシマクジラを仕留めたのかもしれませんし、すでに打ち上がっていたアキシマクジラをかじったのかもしれませんが、どちらにしろおそらくこれらのサメがアキシマクジラの肉を食べたのでしょう。
ホホジロザメは巨大なのもありますが、ヨゴレも含めて外洋性で行動範囲が広く生態もはっきりしないせいか飼育例はほとんどありません。

そこで今回モデルにしたしながわ水族館の最後にいて、水族館で飼育されている大型のサメとしてメジャーな種類でもあるシロワニと、せっかくなので今のサメの姿を確立した時期である白亜紀のサメの中からいけそうなものを選んでスクアリコラックス・ファルカトゥスを。
どちらもホホジロザメとは歯の形、ひいては食性が違い、いかにもサメらしいサメが持っている多様性の話に持っていきました。

立地も品川(といってもしながわ水族館は大森にあって、品川駅にあるのはアクアパーク品川なんですが)にしてしまったので成瀬が突っ走って電車を盛大に乗り間違えてしまいましたが、引っ込み思案極まる……というか社会が怖い森沢には成瀬の怖いもの知らずについていけないようだというのが今回のストーリー。
森沢も森沢でなんでそこまで怖がるんだい?どうするんだい?というのが次回のお話ですね。

アキシマエンシス(11月12日) 化石薄片展と配置換え

さて、今回アキシマエンシスを改めて見に行ったわけですが現在アキシマエンシスでは1月28日まで企画展「化石薄片展」を行っています。その様子について。

化石魚類展のときと同じく郷土資料室で行われています。今回も研究発表のポスターが見えますね。
今回の化石薄片展では大型動物の骨化石を薄片標本、つまり一部を輪切りにしたのち光が透けるほど薄く削って顕微鏡で観察できるようにしたものが主役です。

おそらくアキシマクジラと考えられる肋骨の一部を取り(そもそもそんな標本があったのか!)、

薄片標本に。中央上のものがこのアキシマクジラと思われる肋骨の断面、右下はゾウと考えられる陸生哺乳類の肋骨のものです。
海綿状の軽い骨で占められている海生哺乳類と中が詰まっている陸生哺乳類の違いが分かります。
また、アキシマクジラの研究が活発に行われていることも示されています。なにせ化石を手を動かして加工して観察している様子を示しているわけですからね。

左の化石がさっきのゾウと思われる肋骨ですね。レプリカ作成の様子も示しています。
そういえば今までアキシマエンシスの記事ではそんなに触れずに来たんですけれども、

昭島ではアケボノゾウも発掘されているんですよね。これは常設展示ですが郷土資料室に移動してきた幼体の頭骨と牙です。

ショーケース部分は郷土資料室の中からも見えるようになり、内容がアキシマクジラに絞られました。シカ類の展示はなくなりましたがアキシマクジラは見やすいです。

生態復元模型もこちらに。

ところで同じ日にアキシマエンシスのすぐそばの市民会館で昭島産業まつりをやっていたんですが、

見た時点ですでに売り切れていたほど人気の「くじら焼き」や、

くじらバーガー(鯨肉ではないです)、地下水を利用しイサナの名を冠したブルワリー、クジラをかたどった遊具など、アキシマクジラが当たり前のように昭島市民の皆さんに親しまれているところを見ることができました。

引き続き預かりものだと思って大事にしていきます。次回の主役も含めて!

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