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高校サッカーのその先へ 出場時間から紐解くプロの壁

第100回全国高校サッカー選手権は青森山田の磐石の優勝で幕を閉じた。優勝校のキャプテン、松木選手をはじめとする多くの選手が今年も新卒Jリーガーとしてプロの門を叩く。華々しい世界での彼らの成功を願う一方で、我々はプロの厳しさも知っている。「一度大学を経由した方が良い」「ビッグクラブに入団しても出場機会が得られず伸び悩む」などの声も多く聞く。

果たして現実はどうなのか?ここでは、2015年以降、過去7年に渡る新卒Jリーガーの出場記録から、その現実に迫りたい。

なお、本記事で使用したデータをインタラクティブに可視化するダッシュボードも併せて公開している。是非こちらでも遊んでみて欲しい。


3年後に芽が出ているのは4割

実は新卒Jリーガーには3年というある種のタイムリミットがある。新卒向けのプロC契約の期限が最大で3年間に制限されているのだ。したがって新卒選手は、3年以内に通算450分という試合出場条件を満たし、年棒制限の無いプロA契約への移行を目指すこととなる。

さて、J1に加入した高卒選手のうち、3年以内にこの条件を満たせた選手はどれくらいなのか?

2015年から2019年までに加入した計51名の高卒J1リーガーのうち、3年間で通算450分以上J1のリーグ戦に出場できたのは21人、41%(21 / 51)という数字となった。3年後に芽が出ているのは半分にも満たない、厳しい世界である。1年目の時点で見るともっと少なく、7年間で8人だけ、1年に1人出るかどうかという、プロの厳しい現実が彼らを待ち受けていることが分かる。

8人の中には青森山田高校出身の郷家選手も含まれる。
松木選手はFC東京で先輩に続けるか。

高校 vs ユース vs 大学

それではユースや大学から加入した場合はどうなのか?ユース卒はチームの哲学に馴染みやすい、大卒は体が完成されており即戦力になりやすい、などといった利点が良く挙げられる。

同じく、3年間で通算450分以上J1に出場できた選手を見てみると、ユース卒で32% (39 / 121)、大卒で58% (46 / 79)という結果となった。ユース卒は高卒の2倍以上いるというのもあるが、割合だけ見ると高卒より厳しい未来が待っているというのが興味深い。これはユース選手の行き先が親クラブに基本的に限定されるという慣習が悪影響を及ぼしている可能性もあるだろう。

実態として、世代の有力な選手だからと、すでにポジションが埋まっていて使う予定や余地がない状況であっても、クラブが「とりあえずトップに上げてしまう」傾向がある。「高卒は3年見ます」なんてロジックが都合良く解釈されて、まるで構想外の選手がとりあえず昇格することがある。

Jリーグは新人を育てられているのか? 日本の新人選手育成の現状と課題に迫る
より川端暁彦さんの発言を抜粋 (2014)

一方で大卒選手が即戦力になりやすいというのは明確にデータとして現れている。1年目の時点でも45% (55 / 123)と、他のカテゴリを圧倒している。もちろん年齢を基準にするならば、高校やユースの5年目と比べる必要があるのだが、育成費用がかからないことを考えると、大卒Jリーガーがトレンドとなっているのも納得できる。

Jリーグ全体で大卒Jリーガーは増加傾向にある

スカウトも上手い王者・川崎フロンターレ

ここまでは、所属前のカテゴリに応じて出場時間を見てきたが、加入先のチームで見てみるとどうなるだろう。いわゆる「スカウトが上手い」チームはどこなのか?

次の表は、2021シーズンのJ1全20チームについて、2015年以降に入団した新卒選手が、加入後3年以内にそのチームでリーグ戦に出場した時間の合計をまとめたものである。

新卒スカウト版J1順位表

新卒スカウト版順位表とも言えるこのランキングで栄えある1位に輝いたのが、湘南ベルマーレ。総出場時間は2位以下を大きく引き離し、加入選手あたりの平均出場時間も札幌に次ぐ2位と、多くのルーキーが安定して出場機会を得ていることが分かる。スカウトを担う牛島さんは鳥栖時代にあの鎌田選手を発掘したと聞けば納得だ。昨年にはユースから昇格した田中聡選手が1年目ながら36試合・2669分出場と圧巻のスタッツを残した。これは高校・ユース上がりの1年目の出場時間としては2015年以降歴代最多だ。

そして3位に入ったのが、王者川崎フロンターレ。過去4年で3度優勝のチームがここでも上位に食い込んでくるというのは、驚きだ。2018年の守田選手、2020年の三苫・旗手両選手、そして2021年の橘田選手と、優勝したシーズンでも必ず1年目の若手が安定した出場機会を得ており、若手とベテランが融合したチーム作りを行うサイクルが確立されていることが窺える。

大卒ルーキーが王者・川崎フロンターレを支える

一方川崎とは対照的に最下位に沈んだのが、昨年度2位の横浜F・マリノスだ。獲得選手数は28人とセレッソに続いて多いが、獲得した若手がほとんど出場機会を得られていない。大卒選手が中心のフロンターレとは違って、ユース・高校の選手が多いことも影響しているのだろうが、まだまだ伸び盛りの世代の選手が出場機会を得られず伸び悩んでいるのだとすれば、アプローチを変えることも必要なのかもしれない。

おわりに

新卒ルーキー達のフレッシュな活躍にスポットライトが当たる中、我々の目はどうしても即戦力として成功した選手ばかりに目が向いてしまう。その一方で、プロの世界で芽が出なかった選手も数多くいることを、データは無慈悲にも映し出している。「プロの世界は厳しい」そう言ってしまえば容易いが、そもそも元は世代トップの有望な若手たち、適切なチームマッチングによる出場機会の向上などまだまだ改善できる点はあったはずだ。

これまで若手に対して貴重な出場機会を提供してきたU-23は2020年をもってJ3への参加を終了した。クラブ・リーグの垣根を超え、どう若手選手を育てていくのか、これが日本代表の未来に向けた喫緊の課題であることは間違い無いだろう。



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