【徹底解説】仕事とストレス
総務省統計局が実施した「令和3年社会生活基本調査」によると、調査が実施された2021年時点で、雇用されている人は平均して6時間43分を仕事にあてていることが明らかになっています。
2006年をピークに減少傾向にある仕事時間ですが、それでも1日のうちの約7時間を私たちは仕事に、つまり職場に居ることにあてています。
では、職場においてどのようなストレスが存在するのでしょうか。
そもそも仕事とストレスの関係は、どういった経緯で注目されてきたのでしょうか。
職場におけるストレスとは
厚生労働省が実施した「令和4年労働安全衛生調査(実態調査)」では、82.2%の労働者が、現在の仕事や職業生活においてストレスに感じることがあると回答しています。
ストレスとなっている事柄の上位5つは以下の通りです。
仕事の量(36.3%)
仕事の失敗、責任の発生等(35.9%)
仕事の質(27.1%)
対人関係(セクハラ・パワハラを含む)(26.2%)
会社の将来性(23.1%)
年代や性別、業態によって細かな違いはありますが、全体の傾向としてみると、「仕事の量」「失敗、責任の発生」がツートップです。
また、職場内の対人関係もストレスと感じる項目として多く答えられていたことが分かります。
日本における「職場のメンタルヘルス」の歴史
日本では、職場のメンタルヘルス対策は産業保健活動の一種として実施され、1970年代まではそうした対策を実施している企業は大企業に限定されていました。
状況が変わるのは1990年代に入ってからです。
大手広告代理店の入社2年目の社員の自殺を受けて、遺族が企業を相手取り民事訴訟を起こします。この裁判では長時間労働と自殺の因果関係が争われ、2000年に最高裁によって因果関係を認める判決が出ています。
一連の裁判によって「過労自殺」という言葉とともに、全国で同様の訴訟が広がるなど、社会の受け止め方も変化していきました。
そして1999年に厚生労働省が精神障害や自殺における「労災」認定の基準となるガイドライン(「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」)を示したことが決定打となります。
こうして職場のメンタルヘルス対策は、企業が労働者に対して提供する福利厚生「サービス」から、安全配慮「義務」へと変化していきました。
2015年にはストレスチェック制度が施行され、50名以上の事業場に限りますが、企業はストレスチェックを実施する義務が課せられています。
また、現在は経済産業省が主導して「健康経営」を打ち出しています。
福利厚生→安全配慮義務→経営戦略へ、職場のメンタルヘルスが議論される文脈は、変化し続けています。
ストレス対策とケア
職場のメンタルヘルス対策において「ストレス」に注目が集まってきたのは、ストレスがうつ病や、パニック障害に代表される不安障害、心身症といった精神疾患の引き金になるからです。
2006年、厚生労働省は職場におけるメンタルヘルス対策全体のあり方を示した「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を発表しています。
指針によると、メンタルヘルスケアはそのケアを実施する主体によって4種類に分類されています。
例えば、先に紹介したストレスチェックでは、チェック結果は労働者個人にのみ通知され、セルフケアに活かされることを目的としています。
ストレスと、どう付き合っていくか
アメリカの心理学者ドナルド・マイケンバウムは、対処できるレベルの小さなストレス体験にさらされ、それを乗り越える経験を繰り返すことで、ストレスに対する免疫を高めることができるとしています。(ストレス免疫訓練 Stress Inoculation Training)
また、「ストレス=悪」という構図で捉えられがちですが、人によっては適度なストレスであればむしろパフォーマンスの向上につながります。
人は生きていく中で「人間関係」「責任」「締切」などストレス要因になるものと無関係でいることはできません。
誰もが、大小様々なストレスを抱えて生きています。
寿命が延び、健康でいられる時期が長くなったことで働くことができる期間も長くなっている「人生100年時代」において、ストレスとのうまい付き合い方を見つけることが長く活躍する鍵になりそうです。
文:メザニン広報室
【参考文献】
総務省統計局, 「令和3年社会生活基本調査」,
https://www.stat.go.jp/data/shakai/2021/pdf/gaiyoua.pdf
厚生労働省, 「令和4年労働安全衛生調査(実態調査)」,
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r04-46-50_gaikyo.pdf
山田陽子, 2019,「働く人のための感情資本論」, 青土社,
市川佳居・廣尚典・阿久津聡・西川あゆみ編, 2022, 「健康経営を推進する職場のためのEAPハンドブック」, 金子書房