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映画『湯を沸かすほどの熱い愛』 感想

友人と飲み屋で近況を話していた、ある日。

彼は最近サウナにハマっているそうで、サウナでいかに身体が「ととのう」かの過程が重要という話を聞いていました。サウナ好きにしか通じないであろう「ととのう」という表現が面白いなーと相槌を打っていたとき、「そういえば」と言って勧められたのが、2016年に公開された映画『湯を沸かすほどの熱い愛』でした。

「サウナが出てくる映画だと騙されて観てみたら4回泣いた」という彼の言葉を聞いて、ひさしぶりの休日にレンタルDVDを借りて家で観ました。私は4回どころではないほど泣いてしまいましたが、彼が泣いた4カ所がどこかは分かりました。

2016年に多数の映画賞を獲った作品なのでご存知の方も多いとは思いつつ、まだ知らないという方のためにあらすじをご紹介します。

銭湯「幸の湯」を営む幸野家。しかし、父が1年前にふらっと出奔し銭湯は休業状態。母・双葉は、持ち前の明るさと強さで、パートをしながら、娘を育てていた。
そんなある日、突然、「余命わずか」という宣告を受ける。その日から彼女は、「絶対にやっておくべきこと」を決め、実行していく。
(引用:映画『湯を沸かすほどの熱い愛』公式サイト

さて、話題に上がった4カ所についてお話したいのですが、どうしても物語の本筋に触れてしまうので、知りたくない方は作品を観てからこれ以下をご覧下さい。

① 「やらなければならないことがある」と延命を拒否する双葉

出奔した父・浩一(オダギリジョーさん)を連れ戻して銭湯を再開することになった幸野家。しかし、着々と病魔に蝕まれる双葉(宮沢りえさん)は倒れてしまい、病院で改めて予後は緩和ケアしかないことを医師から告げられます。
そこで浩一は「ちがう病院に行こう」と延命の方法を探ることを提案しますが、双葉はそれを「やらなければならないことがある」と拒否します。双葉の毅然とした表情と力強い台詞が美しく、言われた浩一の悲しく遣る瀬ない表情が堪りません。

② 誕生日の翌日、しゃぶしゃぶを見た鮎子

家に戻ってきた浩一は、10年前の浮気相手から託された小学生の娘・鮎子(伊東蒼さん)を連れていました。実母に置き去りにされた鮎子は誕生日に家出して実母と暮らしていた家で待ちますが、夜になって迎えに来たのは双葉とその娘・安澄(杉咲花さん)でした。
次の日、朝ご飯には幸野家では家族のお祝いのときに食べるしゃぶしゃぶが並びます。その食卓についた鮎子が「この家にいさせてください」「でも、ママを好きでいていいですか」と涙ながらに問う姿には涙が堪えられません。

③ 「いつか必要になる時がくる」と安澄に手話を習わせた双葉

「すべてを話す」と言って娘たちと旅に出た双葉は、ある港町で娘の安澄に「私は貴方を産んでない」と告げます。15年前、双葉と出会う前の浩一と結婚していた聾唖者の女性・君江(篠原ゆき子さん)との間に産まれたのが安澄でした。
娘の声が聞けないことに苦しんで去った君江と引き合わされた安澄は、彼女と手話で会話しました。初めて会話ができた親子は、それが双葉の心遣いによるものだと知ってどちらともなく泣き出します。
安澄に対する双葉の深い愛情に胸がいっぱいになる場面です。

④ 双葉をエジプト旅行へ連れて行けなかった浩一の精一杯

「新婚旅行はエジプト」と双葉に言いながら、実現出来なかった浩一。お見舞いに木製の小さなピラミッドを渡して「スケールの小さい男に家族を任せるのは心配」と双葉に言われてしまいます。そんな浩一が用意した”精一杯のピラミッド”を見た双葉が「死にたくない」と泣きながらこぼす姿に、涙せずにはいられません。

他にも、娘たちのバックボーンに重なっていく双葉の過去や、亡くなった母に会えると信じる幼い娘を連れた探偵(駿河太郎さん)、行き先の決まらないヒッチハイクの青年(松坂桃季さん)など、たくさんの見所がある作品です。
また、感動的な展開とは別に意味深なラストが物議を呼んだ作品でもありますので、観たことがない方はぜひ「ひとりにはしない」という約束の行方を見届けてみてください。

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