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“私達の組織らしい「伝統×革新」”マネジメントのあり方が見えてきた——海上保安庁様 ダイバーシティマネジメント研修事例

 企業向けDE&I(ダイバーシティ&インクルージョン)を切り口とした組織コンサル・プログラムを展開する株式会社LYL(リール)は、2023年8月、海上保安庁様 職員約30名を対象に、ダイバーシティマネジメント研修を実施しました。
 
採用強化のため、海上保安大学校に大卒者課程の設置、海上保安学校の入学要件の変更など、様々な採用活動面での変化を起こしている海上保安庁様。

新施策や有資格者の中途採用によって様々なバックグラウンドや経験を持って入庁する方も増えるとともに、様々な考え方や働き方をする方も増えて組織の多様性が豊かになったそうです。その一方で、組織の拡大・人材の豊富さに対応するためにはどのようなマネジメントのかたちがよいのか手探りの状態でもありました。

LYLでは、既存のマネジメントとダイバーシティマネジメントを両輪で用い、組織の特性に寄り添ったマネジメントの考え方をご提案。1日の研修を経て、印象深かったポイントや研修後の組織での変化などを、総務部人事課松本拓也様、大野崇文様に伺いました。

「若手の仕事に対する価値観・考え方の変化に追いつけない」マネジメント層の悩み

——ダイバーシティマネジメント研修を海上保安庁で実施しようと決められた背景を教えてください。

 
松本様:日本周辺を取り巻く情勢から、海上保安庁の体制や能力の強化がより一層の急務となっています。巡視船艇・航空機を増強すれば、当然、運航や後方支援に必要な職員数も増加します。それに伴い、近年では、人材の確保にこれまで以上に尽力して参りました。
 
しかし、少子化問題は刻々と深刻化し、人材の確保はこれからますます厳しくなっていくことが予測されるのが現状です。当庁としても変化が必要な時だと考え、様々な対策を講じてきました。幹部職員の確保・養成のため海上保安大学校に大卒課程を設置し、海上保安庁の各分野における専門の職員を養成する教育機関「海上保安学校」の入学要件を、高卒後5年までから高卒後12年までへと広げました。その他船舶などの資格を持った方の採用、事務系や技術系の職員採用など、入庁する年齢や背景も様々になっています。
 
さらに、最近は転職を踏まえたキャリア形成が当たり前となっていますし、結婚・出産などのライフイベントにより仕事との向き合い方に変化が生じると思いますが、そういう中でも当庁で長く働き活躍していただけるよう、ジェンダーにかかわらず育児休暇取得を推奨するなど働きやすい環境づくりにも努めてまいりました。
 
時代の変化に合わせて採用形式を柔軟化したこと、育児等と仕事を両立させる制度が整い働き方のバリエーションが増えたこと、ライフ・ワークそれぞれに対する考え方も様々になってきたことなど、いろいろな要因から、組織内で多様性に対する理解の必要性がぐんと向上したと感じています。

海上保安庁 松本様

大野様:このような取り組みに伴って、若年層のバックグラウンドの多様性が豊かになる一方で、若年層とマネジメント層の働き方についての価値観の乖離に理解が追い付かず苦しむ実状がありました。私たちが入庁した約10~20年前と比べると、働くことに対しての意識は大きく転換したと感じます。価値観の違いが浮き彫りになるのは、当然のことと受け止めています。しかし、マネジメント層がうまく若年層の立場に立ち、彼らの気持ちを汲み取ってあげられないと、個人の能力が発揮できる、成長を導くようなマネジメントをするのは難しいのではないでしょうか。
 
そういった悩みをLYLに相談させていただき、「ダイバーシティマネジメント研修を導入してはどうでしょうか」とご提案いただいたことで、今回の研修が実現しました。“ダイバーシティマネジメント”って、なんとなく聞いたことはありましたが、実際にどのようなものなのかは、正直なところ研修を受けるまでよく理解していませんでした。

——働き方の価値観の違いは、特にどのような部分で感じられますか。

松本様:仕事と育児の両立について、ですかね。私が入庁した約20年前には、育児休業を取得する男性職員はほぼいませんでした。また、結婚や出産を機に退職を選択する女性職員も珍しくなかったです。今では、男性職員の育児休業取得率も年々増加傾向にありますし、子育てをしながら働いている職員は大勢います。

㈱LYL代表 小山侑子


——今回の研修の対象メンバーについて教えてください。
松本様:今回の研修には、すでにマネジメント業務に携わっている方はもちろん、中堅層の、これから課長等へと昇進して部下を指導していく立場になるメンバーなど広く参加してもらいました。
 
当庁内でも、自分の家庭の事情やライフステージに合わせて働き方を考えているメンバーが多数いる一方で、今の中堅層・マネジメント層は、自分たちが若手のころそういう働き方に触れておらず、それを管理するマネジメントには触れてこなかった方が多いのではないでしょうか。なので、人事部から「多様な考え方の若手と柔軟に接していけるよう、それに合ったマネジメントを……」と発信しても、「それってつまり、どんなマネジメントをすればいいの?」と、腑に落ちない部分や戸惑いもあるのではないかと思います。
 
だからこそ、LYLと相談しながら企画したダイバーシティマネジメント研修を受けて、新しい視点を取り入れ、チームと向き合って欲しかったんです

マネジメントは一人で背負うものじゃない。研修を通じて連携が強固に

—ダイバーシティマネジメント研修内で、印象に残っているポイントを教えてください。

大野様自分の中に潜んでいるバイアスを意識したワークが印象に残っていますね。組織の心理的安全性を高め、多様な意見と成果が出る組織づくりのために、「自身の保身や過信に基づく行動ではなく全体最適の視点・行動を」選択できるようになることが一つの大切なステップだと学びました。
 
そのステップのために、まずは、自分自身の中にある認知バイアス(過去の経験や先入観に基づいて、論理的ではない思考のクセ/偏りを持つこと)やアンコンシャスバイアス(「女性だからいずれ家庭を持つので、単身赴任はできないだろう」などの、無意識の偏見や思い込みから、偏ったモノの見方をすること)を意識する必要があると知りました。
 
個人ワークで、様々なシチュエーションごとに自分の思考のクセを書き出してみて、グループディスカッションでは個人ワークで得た気づきを複数人でシェアしたことで、仕事をしているときにどんな認知バイアスを持っているか、意識することができました。
 
当庁組織で救難に特化したチーム(特殊救難隊)があるのですが、そこで長年勤めた職員も今回の研修に参加していました。「鳥の目(上長)と虫の目(現場)でもきちんと一人ひとりが声を上げられる環境があったからこそ、自分たちの命を守ることができていたんだ」と気づいていらっしゃいました。ワークの時間は、チームの強みを再認識する機会にもなったようです。
 
認知バイアスは、良い面も、悪い面もある。ネガティブに働かないために、「自分一人で全ての責任と判断することを背負いすぎない」という言葉が響きましたね。「なにかおかしいな」と感じても部下から進言してもらえず、誤った判断をしてしまう“裸の王様”状態にならないように、平時の場合は客観的視点をみんなで補い合い、信頼関係を構築しておく。そうすることで、有事では鳥の目と虫の目により適切な判断をマネジメント層が下せる。その練習がワークを通してできました。
 
研修の参加メンバーからも、「研修を受けたことで、マネジメントの悩みをシェアできる横のつながりができて、一人で背負わなくて良いんだと安心できたことが嬉しい」という声ももらいました。

海上保安庁 大野様

松本様:今回の研修は、オンラインで実施しました。普段の業務ではなかなか関わることができない他の地域や職種、階層のメンバーとワークができたことは、情報交換や自分の気づきになったと思いますし、今後のマネジメントを考える上でのヒントもつながるだろうと期待しています。
 
研修ではワークの時間がたっぷりと設けられていて、テーマも豊富で、初対面であっても互いを知りながら学ぶことができたと思います。個人ワークで内省を促す時間もあれば、二人一組で考えを深めるワークスタイルもありました。グループディスカッションで多様な意見に触れる機会も貴重でしたね。研修自体が、心理的安全性の高い状況を生んでいたため、研修に参加した経験が、今後のチーム内のコミュニケーションのあり方をうまく導いてくれそうです。
 
——組織内で価値観の違いが課題となっていたからこそ、自分の中にある価値観を改めて言葉にするワークの時間が有効だったのかなと思っています。他に、印象に残っているポイントはありますか。
 
大野様:「ダイバーシティマネジメントは、今までのマネジメントと完全に置き換えるものではない」という考え方も、新しいなと感じました。ダイバーシティマネジメントで個性を受け入れ・伸ばしながら、従来のマネジメント(プロフェッショナルとしての意識・行動/リーダーシップ)で重要視していた自律も促す……そんな、“個性と自律の両輪”というマネジメントのあり方が、すごくしっくりきました。
 
松本様:私も、両輪で回していくマネジメントの考え方を知れたことは、大きな収穫だと感じました。ダイバーシティマネジメントと既存のマネジメントの違いや、それぞれをどう活用していけばいいのかも、研修を受けるまでは判然としなかったんです。そのため、どこをどう変えていけばいいのか、そもそも、私たちの組織にダイバーシティマネジメントの考え方が馴染むのかもよくわかりませんでした。
 
なので、「既存の考え方も受け継ぎながら、アップデートすべきところを柔軟に変化させ、両輪でやっていきましょう」という話から、マネジメントはひとつではなく、いろいろな形や組み合わせがあるという気づきを得ました。

変化は参加者に止まらず、組織全体へ。研修後に実施したこと

——研修を受けてから海上保安庁内で起きた変化を教えてください。

 
松本様:終わった後に参加者から、「ダイバーシティマネジメントが実現している組織での考え方やコミュニケーションは、マネジメント層に限らず知っておきたい大切なことだと思います。若手層にも今回の研修を受けてほしいと感じました」という声をいただきました。
 
私自身、組織全体に普及する価値がある研修だと考えておりましたので、研修の録画映像は、職員全員(約1万4,000人)が視聴できる環境におき、配信しました。
 
大野様:その後、若手層向けのキャリア研修を企画した際にも、ダイバーシティマネジメントを内容に盛り込みました。若手層にとって、マネジメントの話はまだ実感が湧かないことかと思います。しかし、若いうちからこういう考え方(個性と自律の両輪)があるんだと触れておくことが重要であり、今後その若手層がキャリアアップして、後輩や部下ができたとき、チームのことをよく見ながら柔軟な対応ができる人材になってほしいなと願っています。
 
松本様:庁内メールマガジンに、これまでも心理的安全性などマネジメントに関する参考情報を掲載して発信してきました。今回の研修で学んだポイントもコラムとして掲載しました。地道な広報活動ではありますが、少しずつでもこのような考え方に触れてもらい伝播させることで、自分を振り返る機会にもなりますし、小さな積み重ねが大きな組織の風土の変化を前進させると信じています。

大野様:こうした取り組みを通じて、研修での学びを一過性のものに止めないように努めています。マネージャー層だけじゃなく、職員全体へとダイバーシティマネジメントの考え方が広がれば、良い組織文化が育まれそうですよね。
 
若手層向けのキャリア形成研修もその一環ですが、これまでも当庁では、「心理的安全性」「1on1」、「働き方改革」など、マネジメントや人材育成に関する様々なテーマの研修を企画してきました。ただ、LYLのダイバーシティマネジメント研修を受けた今、振り返ってみると、「組織づくりを“点”で考えすぎていたのかな」と感じています。
過去の研修では、働き方改革についてなどポイントを絞って知識を深めるような時間になっていたんです。それはそれで必要なことだとは思いますが、テーマを絞っている分、そのポイントのみに特化しすぎていたかもしれません。
 
LYLの研修では、あらゆる点をつなげて、“面”で組織づくりを考える重要性を実感しました。これまで知識として得てきたものが、どのようにつながって、実際に組織づくりにどう生かしていけばいいのかの全体像を見せていただきました。そういった研修自体の構成も非常におもしろく、研修が組織全体に及ぼす効果は高いのではないかという実感があります。
 
——今後、海上保安庁で、どのようなマネジメントを実践されたいかを教えてください。
 
松本様:海上保安庁の仕事は多岐にわたっています。現場での事案対応では、救助などの対応計画はいろいろな意見を聴きながら決め、実際に対応しているとイレギュラーが発生するので、突発で判断が求められる場面はリーダーが方向を即決して進んでいくこともあり、迷いがないことがメンバーを守ることにも繋がります。そこでは、既存のマネジメントが威力を発揮するでしょう。
 
一方で、事案対応などの突発的な対応の際に既存のマネジメントが滞りなく遂行されるには、通常時に、信頼関係がしっかりと構築されているという土台があってこそだと思います。採用形態の変化に伴って人材が多様化していますし、異動が多いこともありチームの構成も頻繁に変化します。そういった、人材の豊富さ・チームの変動性に対応しながら、信頼関係を築くには、ダイバーシティマネジメントを意識しておく必要があると感じます。
 
個性と自律の両輪をキーワードに、突発的な事案などへの対応と通常時のシチュエーションの違いやチームの職員の年代やバックグラウンドなどの構成に合わせてバリエーション豊かなマネジメントのあり方を考えていきたいですね。ダイバーシティマネジメントの視点で、職員一人ひとりを見つめながら、既存のマネジメントで全体をひっぱっていく。脈々と受け継がれる「正義仁愛」の精神をバックグラウンドに、社会貢献していくためのマネジメントで全体を引っ張りながら、個々の職員も見つめていく。なかなか難しいですが、そんな伝統と革新を両立したスタイルが、私たち組織のこれからのマネジメントのあり方なのではと考えています。

——ダイバーシティマネジメント研修を、どのような組織・企業におすすめしたいですか。
 
大野様:大手企業や官公庁など、長い歴史を持つような組織には大きな効果が期待できるのではないでしょうか。これまでの積み上げ、土台が盤石だからこそ、研修を取り入れ、今の時代に合った形に考え方をアップデートすることで、より今の時代に適応した組織文化の醸成につながると思います。
 
松本様:そうですね。大きく、長く続いている企業は、年齢層も広く、また外国人が在職するなど、我々よりもさらに広く多様な人材が在籍していると思います。年功序列な面もあると思いますが、そうした中でもフラットに近い関係性で仕事を進めることが必要な場面もあると思うので、伝統も大切にしつつダイバーシティの考え方も組み合わせていくとよいのではないでしょうか。

——本日はありがとうございました。
 

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