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ひかり

息子の登校について、点と点が繋がって…と、あれこれ思いを巡らしているなかで、頭のなかで夜空の星座が浮かんだ。

夜空の星をじっと見ていると、赤っぽい星や黄色い星、青白い星など、星によって微かに色が違うことに気がつく。大きく目立つ星もあれば、目を凝らしてやっと光の点が見えるものもある。一等星が一番よく見え、6等星までなんとか肉眼で見えるらしい。

色は温度によって違って見え、例えば鉄を熱した場合は、赤黒→黄色→白に変化する。それぞれの色の波長あるそうだ。そういえば、ガスコンロの炎は青色。キャンプの焚き火などで見かける炎はオレンジ色だ。

どれくらいの温度かというと、赤い星アンタレスのは約3500度、黄色い星太陽は約6000度、白い星ベガは約9500度。ガスコンロの炎は約1700度、マッチの炎の温度は約1000度。

温度は星の大きさと燃え方によって変わる。
星は中心で核反応が起こり、燃えることで光っているため、燃料がたくさんある大きな星は明るく、小さな星は暗く見える。
また、地球に近い星のほうが遠くで光る星より明るく見える。


さて。
夏休み目前の7月中旬、息子は1ヶ月半ぶりに小学校に登校した。
その前の週、懇談会で教室に入って自分の席を確認したり、お祭りで偶然友達に会ったりした。
偶然の点や挑戦した点、いろいろな点が結びついての登校だったように思う。
点がひとつずつ繋がっていく流れのなか、息子の口から、数ヵ月ぶりに友達の名前がポツポツ出はじめていた。


「学校に行きたくない」「友達と遊びたい」という息子に対して、どう対応していくか。家族だけでは判断に迷い、臨床心理士さんやドクター、ソーシャルワーカーさんに意見をきかせて頂き、学校以外の居場所を考えるに至った。そして6月後半からフリースクールに通っている。

暮らしている地域にフリースクールは1ヶ所。開校は週に3日、人口が少ないこともあってか利用する子供が少なく、約1ヶ月通ってみて、出会った子供は3人。皆小学校高学年以上の子供たちで、各々のペースとタイミングでやってくる。


どこかに息子が毎日行く気になる程ピッタリくる場所はないものかなと思っていた時期もあったが、緩やかに思いは変わってきている。


学校も含め、そこに、本人にとって馴染むことが出来る要素やチャレンジしてみたくなる要素が少しでもあるかどうか。
鼻水がでるとか、転んで擦り傷があるとか、たとえ万全の状態でなくても、この場所に行ってみようと思えるかどうか。
息子にとっては、そこら辺が大事なのかなと最近は思うようになった。


彼の成長の道すじは、生活面においても、学習面においても、友達関係におしても、私自身の感覚で、「積み重ね」を意識すると、ややこしくなる。
息子のひとつひとつの体験は、ひとつひとつの体験として受け取らないと、私自身、混乱するのだ。
自分が知らず知らず、身につけてきた知恵なり習慣が息子のスタンスとぶつかり通用しないのは、何度味わっても、良し悪し関係なく、ショックだ。


久しぶりに登校した話に戻る。
「明日は着衣泳がある」と先生がおしえてくださった日、息子は着衣泳に興味を示していた。
その夜、「夕方には学校に行く気があるのに、朝になると失くなるんだよねー」と呟く息子と、「朝になっても楽しみな気持ちが変わりませんように」と話し合って、それぞれ布団に入った。

翌日。息子のなかで、よい調子は継続しているらしく、朝の5時半からテンションの高いおしゃべりが聞こえてくる。どうやら、夜勤明けのお父さんと話しているようだ。何について話しているかはわからないが、勢いのある声だ。笑い声も聞こえる。もしかしたら、もしかするのか?

そのあとも、積極的に出発の準備を進めた。
忙しくご飯を食べ、リュックを背負い、水筒を提げ、7時前に靴を履こうとしている。
カブトムシを小さい虫かごに移し、トカゲを入れる容器を探しはじめる。両方を学校に持って行くという。

7時15分、ひとつ歳上のお姉ちゃんを置いて、「行ってきまーす」と、ひとり、玄関の扉を押し開け、外に踏み出す。
何歩か進み、踏んでいたかかとを、片方ずつ靴に入れ込み、振り返らず、歩いていく。

パジャマ姿でゴロゴロしていたお姉ちゃんも、弟がリュックを背負いはじめた頃から異変を感じ、「え?歩いていくの?え?」と、慌ててご飯を口にほうり込み、服を着替え、弟が出発してから5分くらいして飛び出して行った。
お姉ちゃんにとっても、久しぶりの徒歩での登校だった。

6月はじめに一度登校してから1ヶ月半の欠席。
違う場所で軌道を描いていた息子が、ひととき友達や学校と交差したように感じた。
もしかしたら、これからも、「友達」と、「興味があること」と、他にも息子にとって必要な点と点が結びついた時に、ひょいと登校するのかもしれない。いや・・しないかもしれない。

そうそう、軌道といえば。
同じところに在るように見える星も、固有運動といって、それぞれが僅かに動いているらしい。
数十年ではその位置はほとんど変化しないが、何万年か経つと位置は変わり、星座の形も変わっていくそうだ。

昨夜は、庭の草木に水やりをしながら、星を見た。夕飯の後、なかなか進まない子供たちの寝る支度への声かけを、ひとまず切り上げ、外に出た。
暑さでクタっとなった庭木の葉に水をかけようと、ホースを持つ手と顔を上げた時、星の光が目に入った。
「星が瞬く」というけれど、ほんとうだ。細かく震えるように光を放っている。光を目で辿り、葉にあたる水の音を聴いた。
暗やみの中、「ひかり」に、心惹かれる。




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