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あめのこおひい ~ショートショート~
雨の日は嫌いだ。
あの日、初めて勇気を持って告げた「いやです」の言葉が頭でリフレインする。その後に続く、あなたの「ごめん」も。
◆◇◆◇
「雨の日は珈琲を飲むといいらしい。香りが立つんだって」
嬉しそうに報告するあなたは、どこでそんな知識を手に入れたのやら。紅茶党の私はたいして興味もなく、ふうんと返しただけだったけれど。
香りなら紅茶の方がいいと思う。フレーバーティーというのも今流行っているから、本当に色々な香りがあって飽きない。
私の素っ気ない態度にもめげずに、あなたは続ける。
「だから決めた」
それに続いた言葉に、私は声を失った。
「お店の名前」
あなたは笑顔だ。私はそれに同じ表情を返せない。
結婚して2年。結婚する前から夢見ていた、自分たちの店。
――カフェ、じゃなくて喫茶店がいいよね。
あの日の声がこだまする。
ふたりのお店、にするつもりだったのに。
なぜあなたは私の嫌いな言葉をそこに入れるのかな。
そんな思いは表に出さず、私はにっこりと笑う。
「よっぽど気に入ったのね」
「そりゃあね。なんかロマンチックじゃない?」
にこにこにこ。その笑顔を見て気づく。嗚呼、この人、覚えてないんだな。能天気な様子に、怒りよりも呆れを覚えた。
「うん。いいんじゃない」
夢なんて、もう破綻していたのかもしれない。
3年前のあの日。あの雨の日。私がいやだと告げた日から。
◆◇◆◇
予感はあった。ちょっとまずいことになったのかな、とも思った。けれどそれよりも、奇跡のようだと思えて、私はあなたに報告した。
その日は、しとしと雨が降っていた。私は待ち合わせに随分早く着いたから、身体を冷やさないように温かい牛乳を頼んだ。温かい牛乳は膜があるし、なんだかそれがグロテスクに見えてあまり好きじゃない。
「堕ろして」
あなたはすぐにそう言った。
「いやです」
私は答えた。
「ごめん」
それがすべてだった。私は泣いた。あなたも泣いていた。
そういえば、あのカフェであなたは珈琲を飲んでいたっけ。
◆◇◆◇
『あめのこおひい』オープンします。
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背景を考えすぎてしまったので、いっそ、と簡潔に。
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