力も愛も ~ショートショート~


「これはね、愛があるからなんだよ」

 あたしを追い詰めたあと、君は必ずそう言う。
 あたしは涙を拭って、肯定の言葉を呟く。
 
「これだけしても一緒にいてくれるって実感したいんだ」

「だからね」

「他のだれかが君を痛めつけたら、おれは怒るよ」

 なんて君は勝手で
 なんて大きくて
 なんて強いんだろう。

 あたしはまた涙を拭って、肯定の息を吐く。

「君を痛めつけていいのはおれだけで」

「おれが痛めつけていいのは、君だけなんだから」


 嗚呼、なんて満足気なの。
 それで君が満足なら、いいわ。



「また痣増えた?」

 あなたは眉をひそめて、あたしに触れる。

「ん? ああ、ちょっと、ぶつけちゃって」

 へへへ、と笑うあたし。

「ドジだなあ。明日は温泉なんだから、ケガ増やさないようにね」

「だーいじょうぶっ!」

「部屋に露店風呂付いてるから、一緒に入ろう」

 にやける頬を押さえる。一緒に露天風呂に入るだなんて、まるで。
 その日、あたしはきっととても幸せになれるんだろう。あたし、あなたになら痛いことされてもいいと思うわ。

 でもきっとあなたは、そんなことしないのね。



 

 痛めつけられて、それで終わりなんて思わないでね。

 欺瞞にまみれた自己陶酔。そんなもの、あたしはいつでも手放してやる。

 身勝手な満足は、一方通行で結構。



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温泉って、西洋では治療のためのものとして広がったそうですね。 


 

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