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死にたがり屋のひとりごと|ショートショート

――ねえ。わたしが死んだら、この世界ってどうなるのかな?

 彼女がそんな質問をしてきたのは、真夏らしい暑さの昼間のことだった。ぼくは畳の上に転がって、縁側から入ってくる、草の匂いがする風を感じていた。日光が燦燦と降り注ぐ庭を眺めながらだべってるぼくらは、なんとも言えず夏らしかった。

――世界の話? さあ、なにごともなく続いていくんじゃない?

 ぼくは暑さでぼーっとなりながら答えた。だからそのとき、彼女がどんな顔をしていたかは知らない。

――おかしくない? だってこの世界って、わたしが認識した瞬間からしか存在しないのに。

 また変なこと言ってる、ってぼくは思ったんだ。突拍子もないことを言い出すのは彼女の常だったから。

――そうかなあ。

 雑な返事をしても彼女はめげない。畳が擦れる音がしたから、きっと彼女は姿勢を変えたんだろう。

――そう。世界とわたしは同い年なの。だからわたしが今日死んだら、今日が世界最後の日なのよ。

 しん、とした水みたいな声で彼女は話す。楽しげでも悲しげでもない声で零された台詞は、冗談なのか本気なのか判断がつきかねた。
 
――死に方さえちゃんとしてれば、わたしは世界の滅亡に立ち会えるわけよね。

 ふふふ、と彼女は笑った。笑ったその7日後に、彼女はひとつの世界を終わらせようとしたみたいだ。どうやってかは、ぼくは知らない。

 
 その後も、世界は続いた。何事もなかったかのように。僕は小学校に通うようになって同い年の友達と遊んで、ぼくの世界を続けている。

 真新しいランドセルを背負って帰る道すがら、道端で小さな花を拾って帰った。それをお母さんに渡す。

「ありがとう。お姉ちゃんも喜ぶわ」

 お母さんはその小さなプレゼントを、丈の合う小さなコップに差して、にっこり笑う彼女の写真の前に置いてくれた。けどね、今の彼女はちっとも笑ってないんだ。ほら、拗ねた顔でぼくを見ている。きっとあの夏の日も同じ顔をしてたんだろうな。

――どうしてまだ、世界は終わらないの?



 ぼくが忘れないから。

 6年経ってもまだ、ぼくが忘れないから。

 彼女の世界は終わらない。


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世界の持ち主はだれ?

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