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電化製品とともに買うもの|エッセイ

 先日、夫と家電量販店に行った。引越しにあたって、いくつか要り用なものがあったからだ。
 最初に、不動産屋に紹介してもらったところでエアコンを購入した。接客を担当してくれた初老の男性は終始淡々とビジネスライクに話を進め、どうもせかせかとした印象があったのを覚えている。エアコンについては詳しく教えてくれたし、満足のいく買い物ができたので不満はないのだが。
 その次に訪れたのが、別の家電量販店。以前引越しの際に、近隣のお店より安かった(安くしてもらえた)のがそこだったので、先ほどの店で購入を保留としたオーブンレンジを見に行ったのだった。案の定、先の店で見た値段より安い。しかも価格は相談できると記載がある。おお、と思いながら他も見つつしていると、先の男性とそう歳は変わらないと思われる女性店員に声を掛けられた。

 正直に言えば、私は店員に声を掛けられるのが苦手である。どうもプレッシャーを感じてしまうのだ。

 その女性店員は、私たちが見ていたメーカーの販売員のようで、他と比べて如何にその商品がお値打ちなのかプレゼンしてくれた。そこでおやっと思う。
 どうも、先の店舗の男性に説明されたときとは、違う心持ちで話を聞けるのである。説明される内容はほぼ同じで、なんなら先の男性のほうが他メーカーとの比較もしてくれて有意義だったろうに。
 女性だから? 口調が穏やかだから? と考えてみたが、いや違う、と思った。
 先の男性は、こちらがどのような応答をしようとも、滔々と説明を続けるのみであったのに対し、この女性はきちんと反応があるのだ。「そうなんですね!」「そうですよね〜」「私もそう思います!」など、こちらの反応を拾って、目を見て返してくれる。それだけで、こちらはこんなにも気持ちが違うのだ。

 一通りの説明を受け、気持ちはずいぶん傾いたものの高い買い物である。私たちは一旦売り場を離れ、ネット検索という現代文明を活用してどこで買うのがいちばんお得なのかを検討することにした。そして結果、この店舗で買おう、ということになり、再度その売り場に舞い戻った。先ほどより少し混んでいる場を見て、夫が「さっきのおばちゃんおらへんな」と言ったのに私は少し驚いた。買うと決めて戻ったのに店員さんの在不在がどうというのだ? と思ったのだ。
 結局そのおばさまは、私が念の為にと他メーカーの商品を再度検分しているうちに現れ、夫は素早くその方を捕まえていた。どうも配送手配について訊きたかったようである。「案内しますね」と配送カウンターまで付き添ってくれた女性はそこで、私の膨らんだお腹を見て「おめでたですか?」と微笑んだ。私は微笑んで頷き夫は、「そうなんです。再来月には産まれるんです」と答える。「おめでとうございます! 楽しみですね〜」とにこやかに返してくれる女性を見て、これこれ、と思う。人間味、温かみ。
 ちょっと待っててくださいね、とその場から女性が離れたときに、私は夫に、さっきのおじさんより今のおばちゃんのが好きやわ、と伝えた。夫は、さもありなん、というふうに頷いて、「さっきのおっちゃんが良くも悪くも法人営業って感じやったからな、あくまでビジネスライクで。本来の接客って今のおばちゃんみたいなんやと思うで」と言った。

 夫も私も、現在は接客業に就いていない。夫は外部と話すにしても法人相手だし、私は管理部門の人間だからほぼ社内か、外部と言っても大学の先生を相手にするかである。けれどふたりともアルバイトで長く接客をしていたからか、そういった対応には敏感なのだ。

 その女性店員はその後もレジまで付き添ってくれ、「お身体お大事にね」「お幸せに」と、最後まで温かい言葉を掛けてくれた。
 満足のいく買い物ができたのもそうだが、私はなによりもそういった言葉が嬉しかった。


 買い物は、商品を購入するだけではない。きっと、人の温かみを感じることで日常の些細な幸せをアップグレードするのだ、と思う。
 接客業に正解はない。だから先の男性の接客が良くないのだと言うつもりもない。接客する側だって、誰にでも彼にでもそんな愛想を振りまく余裕なんてないだろう。
 ただ、私は、温かい言葉を掛けてくれる人のサポートでオーブンレンジを買えたことを嬉しく思う。そこに値段はつかないけれど、温かい感情を売ってもらったのだと思う。

 買い物は、商品を購入するだけではない。付加価値というものはきっとある。


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