見出し画像

日本料理を正しく伝えるために…

「カリフォルニアロール」というお寿司があります。
アメリカのカリフォルニア州ロサンゼルスで日本人の寿司職人が生み出したと言われているこのお寿司。現地で大人気の日本料理の一つですが、日本に存在しなかったカリフォルニアロールは、果たして本当に日本料理だったのでしょうか?

今回は、広州で日本料理を広めるために日夜努力されている総料理長・伊藤満さんのお話を紹介したいと思います。

◉「食は広州にあり」の日本料理

餃子、肉まん、焼売、麻婆豆腐…、今日も数多くの中華料理が楽しまれています。中国は料理が美味しい国だというイメージを持っている方も多いとは思います。
そんな中国にあって、特にグルメで名前を馳せている都市、それが「広州」です。

「食は広州にあり」とは、非常に有名なセリフです。中国にいて、この言葉を否定する中国人に会ったことがありません。広州のグルメは誰もが認めるところであり、広州を訪れる人の楽しみの一つでもあります。

そんな広州にあって、広州人が外食時に料理を選ぶ際、地元の広東料理に次いで選ばれているのが「日本料理」という調査があります。中国の人気アプリ「大衆点評」に登録されている日本料理店の数を比較してみると、上海が3,788店舗と最も多く、広州は2,431店舗となっています。これは北京の2,393店舗と比べても多く、深圳の1,831店舗、重慶の1,229店舗、杭州の1,188店舗と比べると、広州の日本料理店の多さがうかがえます。

広州の街中を歩いてみても、確かに、街中には多くの日本料理店が並んでいます。高層ビルが立ち並ぶ中心エリアのグルメストリートや買い物客でごった返す商業施設はもちろんのこと、住宅街の小さな路地の一角でも、地下鉄で1時間くらい移動した郊外でも、日本料理店は必ず目に入ってきます。

広東料理は日本人の口に合うと言われています。それは逆を言えば、日本料理は広東人の口に合うということにもなるでしょう。上海に日本人が約4万人いるのに対し、広州では7千人程度です。それなのに、多くの日本料理店が経営されているというのは、それだけ地元の人によって日本料理が愛されているという証でしょう。

◉伊藤さんという挑戦

そんな広州の日本料理界を牽引しているのが、「日本食普及親善大使」「広州日本食廚師会会長」として日本料理店「藤鶴」を営む伊藤満さんです。伊藤さんは、福岡県糸島市の出身であり、広州の福岡県人会の会長として現地の福岡人をまとめる存在でもあります。

この「藤鶴」は、現在3店舗展開されていますが、どれも丁寧に作り込まれた日本料理でお客様をお迎えしています。

その中でも、真骨頂とも言えるのが、開店して4年目を迎える藤鶴本店です。
上述した「大衆点評」で藤鶴本店を調べると、客平均単価は816元/人(約1.4万円/人)。日本人同士が飲み会を開催した時の会費が、大体300元〜500元(5,000円〜8,000円)くらいのイメージですが、それをはるかに圧倒する客単価です。

そのため、お客さんの80%以上は中国人。実際私が訪問した平日のお昼には、中国のお客さんから4,000元(約6.7万円)や2,000元(約3.4万円)のランチがオーダーされていました。

当初、同業者からは、こんな高価格帯の日本料理店は広州では上手くいかないと言われていたそうです。しかし、良い食材と高い技術で本物の日本料理を提供すれば、必ずお客さんはつくと信じ、伊藤さんは「藤鶴」を成功に導きました。

この藤鶴の成功は広州の日本料理界に変革をもたらし、今では、客平均単価が2,000元(3.4万円)を超えるような超高級日本料理店が次々に誕生しています。

◉本当の日本料理を広めたい

そんな伊藤さんは「中国で本物の日本料理を広めたい」と語ります。

高校の時に中退して板前の道を歩み始め、14年前に中国へ渡航、もうすでに60歳を超えた伊藤さん。その間ずっと料理人として包丁を握り続けてきた伊藤さんの目には、中国の多くの日本料理店で日本料理の基礎が伝わっていないと映るのです。

現在、中国の料理人は、職業学校の調理コースや有名店の厨房の下働きなどから道を歩き出します。広州には広東料理の名店も数多くありますし、高いレベルの料理を提供する店は、高い単価を取り、店舗を拡大させていきます。

例えば、広州の広東料理の人気店「陶陶居」は、昨年上海に店舗を展開して大きな話題になりました。その経営者に話を伺うと、「広州と同じ食材で、しっかり育成したスタッフによるサービス提供ができる環境を整えて店舗展開をしている。この育成には時間がかかるものだ。」と話していました。中国の飲食業では、しっかりとした技術を身につけた職人の育成を体系立てて行っているのです。

それに対して、日本料理は、教育機関の中にきちんとした基礎を教えるシステムが整っていません。客観的にどのくらいの技術レベルに達しているかを測る資格の類もありません。すると、料理人は、中国の日本料理店で見様見真似で技術を覚えることになります。そのため、伊藤さんが経験年数で面接をすると、10年を超える料理人でも全く基礎が分かっていないことが多い、と言います。

そこで、伊藤さんは、現在、広州と仏山にある職業学校と連携し、広州にいる日本人料理人と共同することで、日本料理の基礎を正しく学生に教えるカリキュラムを立ち上げようとしています。基礎を身につけた職人を一定数育成して巣立たせ、中国各地の厨房で技術が伝承されることで、本物の日本料理が広がっていくことにつなげていきたい、と考えているのです。

確かな技術に裏打ちされた日本料理店が日本料理の人気を高めることは日本の産業にとっても非常に大事なことです。

日本料理店の増加は、日本料理に欠かせない鮮魚の需要を引き上げ、日本酒の人気を加速させ、日本各地のご当地メニューを伝え、日本への観光需要を高めるでしょう。将来、日本の食材が中国へ輸出解禁された際に、高級食材として取り扱える土台も提供してくれるのです。

とても意義のある仕事だと思います。
こうした志のある方の挑戦が、遠く海外から日本の産業を支えているのだと思えるのです…。

日本料理の技術を習得した料理人が現地で増えると、現地の食材を使って現地の人の口に合うように料理を創作していくこともあるでしょう。
そこにしっかりとした日本料理の技術が反映されているのなら、そう、カリフォルニアロールだって立派な日本料理の一つ。そう思えてきませんか?


画像1

《 ライチ局長の勝手にチャイナ!vol.8 》

【 福岡広州ライチ倶楽部HP 】
 ※福岡広州ライチ倶楽部に関する情報や、入会等のお問い合わせはこちらから
  http://lychee-club.jp
【 福岡広州ライチ倶楽部Facebook 】
 ※広州に関するコラムや福岡広州ライチ倶楽部の活動内容の情報はこちらから
  https://www.facebook.com/fukuoka.guangzhou.lychee.club


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?