小学生がギャンブルにハマった話
こんにちは。ヨウです。
今回は、とあるゲームによって、小学生がギャンブルにハマってしまった話を紹介したいと思います。
これを思い出したのは、沼田晶弘氏著「自分で伸びる小学生の育て方」を読んでいた時です。
本書の中で「子どもがお金と経済を学ぶ『アクションワールド』」という一説を読みました。子どもに敬遠しがちな「お金」にまつわる話を、教室内で貨幣を流通させてみた話です。そこで、私が以前実践(?)した内容で面白かった話があったので、紹介します。
Twitterで話題になった「お金持ちになるゲーム」
私が6年生の担任をしている時の話です。
専門学校で実際に行われた「お金持ちになるゲーム」を発見し、お金の在り方や、お金が人に与えるゲームについての話を、Twitterで発見しました。
紙で紙幣を作る作業をして、1時間後に最も多くのお金を集めたチームの勝利だという内容でした。紙幣を作るためには、紙だけではなく、ペン、ハサミ、定規が必要になり、チームによって道具の供給量が違い、他のチームと協力しないとお金を作ることができないというルールです。その中で、道具に価値がついたり、人を雇ったりしながら、お金持ちを目指す、というものです。詳しくは、リンクを見てみてください。衝撃の結末に、私はいろいろと考えさせられました。
そこで、私は「実際にやってみたいな。」と思いました。当時、1学期が終わろうとしており、授業は復習が中心となっていました。ただただ復習をするだけでも良かったのですが、何か面白くて勉強になるゲームはないかと考えていたので、「これだ!」と思ったのです。
当然、小学6年生にさせるわけですから、発達段階やクラスの雰囲気などを考慮しなければなりませんから、そのまま投入するわけにはいきません。アレンジを加えて「お金持ちになるゲーム」をしました。
アレンジの内容としては、グループへの物資の供給の仕方を「世界の国々の経済力や生産力」に絡めるというものです。あるグループには紙もペンもハサミも、全ての物資をしっかり与える。一方で、紙は入っていないが、道具が豊富にあるグループ、資源だけが豊富で道具がないグループ、全ての資源はそろっているものの、少量ずつしか入っていないグループ、などがあります。ゲーム終了後に、「これは、現在のアメリカだよ」「これは、日本の状況に似ているよね」みたいに、社会科とこじつけて教えてみて、夏休みの自由研究をするきっかけになれば、と思っていたのです。
「もう一回やりたい!」
子どもたちは、見たことも聞いたこともないゲーム(多分私のオリジナルで作ったゲームだと思っていた)だったため、めちゃくちゃ楽しそうに取り組んでいました。グループで協力して、たくさんの紙幣を作ろうと必死で、他のグループと交渉して、資源と道具を交換したり、作ったお金で道具を買ったりしていました。子どもたちが熱中していたこともあり、その結果を発表するときは、歓声が上がりました。優勝したチームは何が良かったのか、残念ながら上手くいかなかったチームは何が敗因だったのかをフィードバックして、一生懸命に取り組んだ児童全員をほめたたえて、その日は終了しました。
放課後、何人もの子が「もう一回やりたい!」「次は優勝できるようにしたい!」「作戦タイムを入れてほしい!」など要望がありました。夏休み前で必要な授業も消化していたため、「普段の授業もしっかりやること」を条件に、再度ゲームの時間を設けました。
暇だったので、「宝くじ」を開催してみた
このゲームは、ルール説明をして物資を配った後、私(担任)は、めちゃくちゃ暇なのです。もちろん、ケンカが起きないかとか、不正をしていないかなどに目を配る必要はありました。しかし、子どもたちは一生懸命なので、そのような様子もなく、ただ見守っている状況が続いたのです。
そこで、私は面白いことをしたいな、と思って「宝くじ」のお店を開きました。割りばしくじ10本のうち、選択した番号を引き当てることができたら、掛け金が2倍になる、というものです。
普通に数学ができれば、「10%の確率で、お金が2倍になる」というのは、期待値が低すぎますよね。つまり、確率的に胴元(担任)が儲かるような仕組みでした。ハッキリ言って詐欺です。笑
ビギナーズラック
多くの子は「いや、宝くじより、コツコツやった方がいい」と感じていたのか、宝くじを買いに来る子はいませんでした。
店を開いて10分ほどたったころ、O君という男の子が、1000円分だけ、宝くじを買いに来たのです。面白そうだからやってきたとのこと。私は1000円を受け取り、O君の前にくじを差し出しました。
ビギナーズラックとはよく言ったもので、なんとO君は一発で当たりを引き当て、一瞬で1000円を2000円にしたのです。本来、1000円札を作るのには、紙に定規とペンで長方形を作り、ハサミで切り取った後、「1000円」と書く必要がありました。私は、クラス全員に聞こえるように「大当たり~!お金が2倍になりました~!」と言いました。
O君は大満足。他のグループの子も「あれ? 宝くじ、意外に当たるんじゃない?」と思って、宝くじを買いにやってくるのです。しかし、ここからはとにかく当たらない。誰がいくら賭けようと、2倍になることはありません。そりゃ、当選確率10%ですからね。中には、1000円札を10枚持ってきて、一回ずつ賭けて、なんとしても当たりを出そうとするわけです。しかし、どうやっても、収支がプラスになることはなく、私の手元にお金が増えていくだけでした。
そういうやり取りをしていくうちに、子どもたちは「宝くじは当たらないから真面目にお金を作ろう」と考え、ほとんどの子は一攫千金は無理だと悟りました。賢い子どもたちでした。
「いや、無理だって!」「いや、あと1回だけ!」
すると、向こうのグループから、何やらもめているような声が聞こえてきました。すると、O君が「もう一回だけ」と宝くじを買いに行こうと言っていて、グループの仲間がそれを止めようとしていました。
O君は、最初の大当たりの後も、何度も宝くじを買いに来ていました。O君は最初の1回以外は、全てハズレ。O君は、紙幣を作る道具をもっておらず、手持無沙汰でした。というより、大当たりの快感を忘れられず、「左手で引いたら当たる」「くじを見ないようにしたら当たる」と謎の理論を展開して、お金を作らずに宝くじを当てる方法ばかり考えていたようでした。
そのグループは、現状1位になれるような状況ではありませんでした。だから「一発逆転をしたい!優勝しよう!」というO君の説得により、O君はラスト3分のタイミングでチームのお金をすべて持ち、宝くじにやってきました。チームのみんなも両手を合わせて祈っていました。
予想通りの結果
O君は、見事にハズレくじを引いて、無一文になってグループに戻りました。そのグループは、残りの2分間、ぐったりと疲れた様子で意気消沈し、そしてO君を責めました。O君は「いや、もう一回やったら当たる」と開き直っていて、余計に盛大に怒られていました。
当然、O君のグループは最下位。45分もかけて、所持金ゼロという結果に終わりました。
優勝したチームは、お金ができた段階で、他のチームから道具を買って、全員が働ける状態にしていたようです。後になって分かったことですが、O君は、優勝したチームに自分の道具を売っていたのです。宝くじをするためだけに。
O君は、宝くじにハマった理由を「最初に当たって、気持ちよかったから。」と言っていました。クラスのみんなも、次にゲームをするときには「宝くじは危険だから、しない方がいい」と口々に言っていました。
フィードバック
私は、このゲームを終えて、子どもたちにこのようにフィードバックしました。
宝くじを当てるのは、とても楽しい。O君が身に染みて分かっていると思うけれど、そういう楽しみもあります。みんながやっているスマホゲームで、ガチャでレアなアイテムが当たるのと同じです。
(数名の男子が「ああーたしかにー。」と言っている)
先生は意地悪で、「みんなが損をする宝くじ」を作ってしまいました。ごめんなさい。でも、宝くじをしてみて、早くに「これは儲からない」「お金が減るだけだ」と気づいた人たちは、よく考えているなと思いました。
O君の場合は、宝くじを当てるために、自分の道具を売ったり、仲間のお金まで使ってしまったことが問題だったのでしょう。
O君が「宝くじにハマった」ことは、「ギャンブル依存」と言います。それによって、O君は自分で作ったお金はおろか、自分の道具、そしてチームのお金も失ってしまいましたね。本当にゲームで良かったですね。
では、このゲームを通して、夏休みのお金の使い方を考えてみましょうか。
そのあと、子どもたちに、「夏休みのお金の使い方」について問いました。
すると「お金は目先のことに使わない方がいい。」「簡単にお金が増えることはない。」「お金の使い方を考えて、無駄なことには使わないようにしたい。」という意見が出ました。中には、「お父さんがお金を稼いでいることは大変なことだと分かった。」と言う子もいました。(ちょっと意味合いが違うけれど。笑)
そして、この日のゲームについて、私はこう締めくくりました。
みんなが、こうしてお金の使い方について考えることができたのは、O君の盛大な失敗のおかげです。O君のように失敗しろとは言いませんが、こうやって失敗から学ぶ機会を与えてくれたO君に、みんなから拍手を送りましょう!
こうして、O君はクラスのみんなから盛大な拍手をもらいました。
終わりに ~後日談~
このゲームは、当初「世界の国々の理解」のためにやる予定でしたが、結局は「夏休み前のお金の使い方」という生徒指導的な内容になってしまいました。それはそれで、子どもたちがいろいろ考えてくれたので、ヨシとすることにしました。
この「お金持ちになるゲーム」は、子どもに非常に好評でした。そのため、子どもたちが自分で企画して、お楽しみ会の中でも開催されました。お楽しみ会なのに、紙幣を作っているという何とも奇妙な風景でしたが、とても笑えました。その企画には、「最初に紙幣をいくらか配る」「紙だけは配っておく」「先生が道具を販売する」などという案を入れて、いろいろアレンジしながら楽しみました。子どもたちの発想は自由で、私自身も学びにつながりました。
ちなみに、O君は次のゲームではせっせと紙幣を作っていました。とりあえず安心して、再度宝くじ店を開いて待っていました。すると、またO君が宝くじを買いに来たのです。
「あれ? 宝くじ、買うの?」
「もちろん。」
「あれだけ、みんなから怒られたのに?」
「自分で作ったお金だからいいの。それに、当たった時はめちゃくちゃ嬉しいから。」
「ギャンブルは、このゲームだけにしてね。」
「はーい。」
そんなやり取りの後、O君はハズレくじを引いて、肩を落として席に戻っていました。
みんなの前でギャンブルにハマったおかげで、「ギャンブラーO君」は「チャレンジャーO君」として卒業しました。O君は「失敗してもめげないキャラ」になっていました。その失敗をみんなで訂正してあげて、授業が進んでいくという場面もかなり増えたのです。
ちなみに、O君は、それまで、授業中に指名されても「え、分からない!」「難しいから嫌だ!」と平気で言い放ち、文句ばかりを口にしてしまう子でした。どちらかというと、「先生を困らせてしまう子」という引継ぎをされてしまう子でした。
O君は、今はまだ中学生です。私は、O君が「将来ギャンブル依存にならなきゃいいな~」という気持ちいっぱいです。
(いや、そういうことはないだろう…とも言い切れない…笑)
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