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AIが児相を救う?

こんにちは、ヨウです。


今日は、面白い取り組みをしている自治体の情報を得たので、そのことについて、私が児童福祉司として働いた経験をもとに、私見を書いていきたいと思います。


AIを使った児童虐待対応支援システムの運用

児童虐待対応に、AIを導入するという新たな取り組みです。

ここでは、以下のポイントでシステム導入のメリットがあると記載されています。

システム導入のメリット
①効率化
 通告受理から子どもの安全確認・記録など初期対応の完了までの時間が、ベストプラクティス事例では約26時間から約10時間と、約60%短縮することが確認されました。 
②意思決定の迅速化
 写真とチャット機能を利用して、出張先からデータを送付し、児童相談所内(所長・課長)と情報共有を行うことで速やかな意思決定が可能になりました。
③業務の質的支援
 面接する際にリスク値が大きく変化する項目を重点的かつもれなく調べることが可能になりました。
④記録の省力化
 出張中や待機時間中、必要に応じ、いつでもどこでも経過記録が入力可能になりました。
  
 そのほか、過去の多くの対応記録(約6,000件のデータ)に基づき、人とAIとのベストミックスによる虐待対応が可能となりました。

当然のことながら、この取り組み自体の是非は、やってみて実際の経過を確認しないと分からないでしょう。しかし、これによってわかることは、「何が児相の業務を圧迫しているか」ということです。


通告後の児相の動き

児相が通告を受けた際にする業務の流れは以下の通りです。(専門用語は噛み砕いて記載しています)

通告受理・報告のための会議
 ↓
子どもの安全確認・調査・情報整理・資料作成
 ↓
初期対応に関する会議・対応方法の決定
 ↓
通告に対する対応
 ↓
受理から初期対応完了までの経過を記録・保存

ざっとこんな感じです。

パッと見ただけで分かるように、一つの通告を受けた後の手順がかなり多いのです。それぞれの家庭にはそれぞれの事情があり、家族の背景、生活環境、親の性格等、考慮しなければならないことが多く、また、子どもの命がかかっている場合があります。慎重に扱わないといけない情報が多く、対応の仕方もマニュアル通りとはいかないので、このように詳しい調査をしたり、何度も会議をしたりするのです。


時間がかかる「資料づくり」と「会議」

児童虐待の対応は、いかに迅速に対応できるかがカギになってきます。

しかし、通告を受けて、現場に飛んで行って「指導!ハイ、完了!」とはいかないのです。前述したとおり、通告のみの情報では全体像をつかむことができず、複雑な事情がある可能性もあり、すでにひどい虐待を受けていることも想定され、また、「虐待がなかった」という可能性も否定できません。必要以上な介入は家庭を壊しかねませんし、逆に指導をして虐待を悪化させる可能性もあります。児童福祉司の一個人が責任を負えるほどの簡単なないようではないため、詳しい調査をしたり、何度も会議をしたりして、組織として意思決定をしないといけないのです。

「会議をする」大きなデメリットは、「集まらないとできない」ということです。

通告を受けても、上司(係長や課長、その上の役職の幹部)がいないと、児相としての意思決定はできません。しかも、次々に入ってくる通告の意思決定に、上司は必ず参加しなければならない上に、迅速な対応が求められるため、会議に時間もかけられない。そうなってくると、いかに分かりやすく状況をまとめて資料を作り、どのように対応すべきかを提案することができるかがカギになります。「資料整理と要点整理」に、児童福祉司の力量が問われるのです。

その資料をもとに、虐待の原因は何か、どの程度の虐待なのか、どのように介入すべきか判断し対応します。だから、膨大な調査資料は、手際よく分析した上で分かりやすくまとめなければなりません。ただし、会議に時間がかけられない以上、余計な情報をむやみやたらに集めることもあってはならないのです。

そして、それらの一連の流れについて、児童福祉士は「どのように対応したか」という経過記録を文章にしなければなりません。


もうここまで書いてお分かりになると思いますが、とにかく児童通告の対応は考えなければならないことがかなり多いのです。その中で、「資料をつくる」という文字起こしの時間や、「会議をするために時間を合わせて集まる」という時間調整をすることが、業務を圧迫してしまうのです。

また、過去の対応履歴から対応方法のサンプルを手に入れるのにも時間がかかります。対応中や対応後の経過を記録するのにも時間がかかります。



AIと「分業」することで、効率化できる

三重県でシステムを導入する中で、素晴らしいなと感じたのは、その導入の仕方です。タイトルだけ見ると「AIに虐待対応を任せるなんて、無責任だ」と思ってしまいがち(というか、私はそう感じました)です。しかし、そのシステムの導入の仕方は、そうではありません。

三重県では、あくまで「迅速な対応を可能にするため」にAIを活用しています。違う場所に居ながら迅速に情報共有をしたり、過去データを分析して数値化したりすることは、AIの得意分野です。児相には、過去の対応歴が山ほど残っているはずですから、それをもとにAIに分析を任せることは十分現実的です。そして、実際の意思決定は人間が行う。素晴らしい「分業制」だと思います。


実際、現場の確認をしたり、写真を取ったり、話を聴いたりするのには、職員が実働するほかありません。今までは、「状況をチームに電話し、聞いたメンバーがそれをもとに資料を作り、会議に諮り、その結果を電話で現場に伝えて対応」というのが最速の方法でした。しかし、これは人的余裕がないとできませんし、人づてなので正確な情報共有は担保できません。しかも、実際の現場では、調査・資料作成・会議進行・現場対応は、担当児童福祉司一人で行うことがほとんどです。そうでもしないと対応しきれないほど、多くの通告が児相に入ってきているのです。


AIの活用は、これからの児相業務の効率化にとっては希望の星です。これを取り入れて実践して下さている三重県には、感謝の気持ちでいっぱいです。これを機に、多くの自治体がAIを活用してくれることを願っています。



終わりに ~役所の紙文化~

三重県の取り組みの素晴らしさがある反面、多くの自治体は「紙文化」から脱却できずにいます。要するに、「申請や記録を紙で行う」ということを捨てきれていないということです。

私が働いていたところでは、システムが導入されてデータ管理しているものの、それを一旦紙に印刷して、決済を取り保管するという「二重保存」の方法が普通でした。おそらく、そういう自治体が多いのではないかと感じます。

確かに、紙は誰かが作為的に破棄したり火事になり燃えたりしない限り、ほぼ確実に残ります。システムエラーで情報が流出したり破棄されたりする可能性はないので、紙で保存するメリットはあります。

しかし、「効率化」するために導入したICT機器であるにもかかわらず、それによって「二重保存」することでさらに業務が積み重なってしまっているという状況は、本末転倒だと思っています。


役所の業務を本気で効率化したいと考えるのならば、しっかり税金を投入して最先端の機器を取り入れ、どんどんアップデートするべきでしょう。格安な機械をちょろっと入れて「効率化しましたアピール」をしたところで、現場が余計な負担を強いられるだけです。ぶっちゃけ、非正規職員を雇って雑務を依頼するよりも、こういうAIや通信機器、データ保存のサーバー管理などに投資した方が、時間もお金も節約できるのではないかな、と思います。(いや、それは言いすぎか…)


いかんせん、既存の文化や仕組みを捨てない限り、先進的な取り組みは定着しないと、私は思っています。



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