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3人きょうだいが、施設から国立大学に進学できた理由

こんにちは、ヨウです。


今回は、児童養護施設からの進学について書いていきます。

私たち兄妹(私、弟、妹)は、三人とも国立大学に進学しました。私は一般推薦入試。弟と妹は、一般入試前期試験で入学しています。

その理由について考えてみました。


施設出身者の進学率

そもそもですが、児童養護施設の子どもたちの進学率は、一般の子どもたちに比べてかなり低い状況です。施設の子どもたち向けの奨学金等も充実してきているのですが、その現状はなかなか改善されてはいないのです。



職員の方々が、情報をかき集めてくれた

私が国立大学への進学を決意したころ、まず私のいた施設から「国立大学に進学する子」は初めてだったそうです。短大や専門学校に進学した子(特に高校からのエスカレーター)はいたらしいのですが、それも比較的少なかったようで、四年生私大については、稀でした。「国立大学」への進学は、施設としては初めての経験だと言われました。

もちろん、職員の中にはセンター試験を受けて4年生大学に行った方は多くいましたが、そこに「親を頼れない」というオプションがついている方はいませんでした。


職員の方々は、私が国立大学に進学するにあたり、お金を工面する方法をたくさん調べてくれました。返済不要の奨学金や、その他の利子がない奨学金や、学費免除の制度を教えてくれました。また、学校に私の事情を話し、アルバイトの許可を出してもらえないか相談してくれました。(当時、私の高校は原則アルバイト禁止でした)

ある程度の軍資金や奨学金を確保してもらったおかげで、私は、普通に進学することができたのです。



ただし、「進学するのは私だけだったから」

当時、私と一緒に退所して自立する予定だった子は4人いました。40人程度の定員の施設から5人が巣立っていくことは、稀に見る大量卒業だったのです。当然のことながら、職員は他の子の自立のための準備にも追われていました。担当職員がかぶっている子もいましたし。

しかし、私を除いた4人は全員「就職組」でした。ですから、施設としては、今までやってきた支援の積み重ねがあり、ある程度スムーズに就職支援をすることができたようです。

当時の担当職員から、こんなことを言われました。

「国立大学に進学する子は、うちの施設としては初めてだから、正直手さぐりになるし、いろいろとやってもらわないといけないことがあるから、申し訳ないけど、しっかりやってくれな。他の子たちは就職組だから何とか分かるけど、ヨウの場合は未知なんだよ。」

そういう言葉通り、私は何か分からない申請書類をただひたすらに書き、将来の夢やらやたら作文を書いたことを覚えています。

それと同時に、「進学で迷惑かけて、申し訳ないな…」という思いもありました。だから「就職でもいいよ」と言ったことがありますが、「ヨウは勉強できるんだから、大学行かないと勿体ない!」と言ってくれた職員さんには、今でも感謝しています。



弟妹は「ロールモデル」があった

私は大学2年生の時、「なんとか頑張っているよ」ということを伝えに、施設に挨拶をしに行ったことがあります。その時に、施設長からこう言われました。

ヨウくんが大学進学したときの資料があるから、弟くんと妹ちゃんの進学の方法や進学後の生活も見えてきて、とても助かっているよ。また、大学の免除制度に必要な書類とか、どんなことで困ったかは教えてね。」

私は当時の施設長に、進学後の生活で困ったこと、免除が下りないことがあること、それをどう対処したかを伝えました。もちろん、弟妹にも「戸籍はすぐに取れるように準備しとかないといけないよ」とアドバイスすることができました。



進学について最も必要な支援は「ロールモデルの情報」

制度や支援というものは、昨今の多くの団体さんのおかげで、全国でも支援を受けることができる子は増えました。また、そういう「施設の子の進学率が低い」という情報のおかげで、施設出身者のための枠を作ってくれた大学もあり、今、社会がどんどん支援の輪を広げていっています。

しかし、正直に申し上げると、私は社会人になるまで「施設退所者の支援団体がある」ということを知りませんでした。ですから、大学在学中に支援団体に相談したり支援を求めたりしたことがありません。情報がなかったことによって、私は支援を受けられずにいました。

そして、当時の職員さんは、「進学を希望する子が少なかったから、進学支援について情報を持っていなかった」のです。しかし、これについては施設職員は悪くありません。ただでさえ日々の業務も過酷で、目の前の子どもたちを何とかすることで手一杯なのです。その上、進学先のことまで全てを想定して提案をして、それで検討して…という余裕がない現場なのです。


だからこそ、私は、「進学した子のロールモデル」という情報が必要なのだと思います。例えば、施設退所者向けの講演会や情報発信の場に、施設の子にとっては珍しい「大学進学を決めた子」のロールモデルになる方と施設の子どもたちを、早くに出会わせる必要があると思います。そうすることで、「生きるためには就職しかないか…」と半ば諦めている子に希望を持たせることができるのではないかと思います。

また、そういう希望を子どもが持つことで、職員さんも可能性をもって調べることができます。私みたいにそこまで勉強できなくても、そこそこの学力で進学できる国立大学はたくさんあります。

そして、そういう子が増えれば増えるほど、社会の考え方が変わります。「そういう支援は必要ないでしょ? だって、要望がないもの。」と考えるのが、社会というものです。求めないと支援は得られないし、求めれば見て聞いて賛同してくれる方はいます。


いずれにしても、社会的養護を経験している方には、どのような形でもいいから、自身の体験を語っていただきたいと思っています。

そして、実際に語ってくれている人もいるのです。↓

↑そんな、当事者たちの声を、是非聴いてやってください。





終わりに

今回、手探りの中で一つの成功例を作れたことが、国立大学への進学へとつながったということを語らせていただきました。国立大学は、他の私立大と比べると、相対的に学費が安いところが多く、また、各都道府県に国立大学は設置されているので、地元に残りたい人にも、都会に出たい人にも、おすすめです。


ただ、一応大前提として、私はそれなりに勉強を頑張りました。学校で必死にやってきたからこその進学でした。自立後は、それなりにやりくりできましたが、私が国立大学の中でも、就学に必要なお金が少ない進学先(教育学部)を選んだからであって、それ以外の場合だと全然状況が違います。弟は工学部で、教材や資材にかなりお金がかかりました。受けた奨学金の額も大きく、返済額も多いのです。進学もそれなりに大変です。

そして、就職組でも、豊かな人生を送っている子は大勢います。進学がすべてではないのです。ただ、そういう子たちも、社会に出て必死に働き、その中で資格を取ったり新しい仕事を始めたりしています。


いずれにしても、親を頼れないと自立後の生活で不利になる、ということは事実であって、私はそれを肌で感じました。


親を頼れなくても子どもが不利にならない。そういう制度と文化が揃った社会になるように、私はこれからも発信を続けていければな、と思っています。



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