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内在し続けている「性的虐待」

こんにちは、ヨウです。

今回は、性的虐待について書いていきます。資料を参考にしながら、児相で働いた経験を踏まえて、書いていきます。よろしくお願いします。


性的虐待とは

性的虐待の定義については、児童虐待の防止等に関する法律に、このように記載されています。

二 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。

読んで字のごとく、「児童に対して性的な行為をするorさせる」というものです。

ちなみに、参考程度ですが、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」というものもあります。(以下、リンク)


当然のことながら、性犯罪は「心の殺人」と言われるほどの重大犯罪です。皆さん、ご周知していただければと思います。



性的虐待は、「相談件数」としては少ない

平成30年に、全国の児童相談所が受けた相談件数だけでいうと、性的虐待の割合は、全体の1%程度(平成30年度:159,850件中の1,731件)とされています。私が児相で働いていても、「性的虐待」で対応する件数はかなり少ないと感じました。(↓参考)


しかし、私は「これ以上に性的虐待が起きているのではないか?」と、児相の仕事を通して感じました。その理由について、以下で解説します。



①被害告白のハードルが高い

まず、性的虐待自体、被害児童が真実を語ることが難しいものです。

我々大人であっても、自身の性行為関連の話を他人に話すことは難しいものです。気の知れた友人で会っても、言いづらいものなのに、行政機関である「児童相談所」に「親(実親・養親)から性的なことをされている」と語るには、相当なハードルがあることが想像されるでしょう。


また、日本(の学校教育)は、性教育に消極的な側面があり、子ども自身が性に関する知識に疎い場合があります。信頼している大人である「親」から「これが当たり前だ」と言われ、それに従ってしまい、虐待被害に遭うケースも多く存在します。それが間違った行為であったと気づいたときには、すでに数えきれないほどの性的虐待の被害に遭っていることもあるのです。

また、子ども自身も「性被害に遭った」ということの深刻さを理解しています。しかも、性的虐待の場合、実親・養親による加害がほとんどです。被害告白によって、家族関係を壊してしまうことも、理解しています。

そうなると、「私が我慢すればいい」と考え、被害告白につながらないことがあるのです。


こういう事情を考えると、「性的虐待の被害を、児相に相談する」という行為自体がハードルが高く、その結果として、相談件数も少なくなっているものと考えられます。



②証拠が残りにくい

身体的虐待と大きく異なる点として、被害者に「証拠」が残りにくいということが挙げられます。

身体的虐待は、傷痣等がはっきりと残るため、写真を取れば証拠になります。また、精神的虐待についても、外部からの情報が複数あるケースが多いため、状況証拠を取ることが比較的容易です。ネグレクトも、状況証拠を揃えやすいのです。

しかし、性的虐待は、加害者と被害者が一対一の時にしか起き得ません。他人に見えないところでされた行為に、物的証拠も状況証拠も何もありません。

男性から女性への加害があり、エコー検査などをしたとしても、「異物の挿入」が認められても、それが加害者によるものかどうかなどは判りません。それが、性器なのか指なのか、はたまた道具なのか、医学的な診断をもってしても、はっきりとは判らないのです。


そうなると、性的虐待の証拠として使えるものは、「被害者の発言」が最も有意となります。しかし、子どもはそれを上手く伝えることができない場合もあります。正確に伝わらなければ、証拠は揃いません。警察や検察は、「有罪にできるもの」でないと、基本的には起訴しませんから、証拠が揃わなければ、お手上げ状態になってしまうのです。

そして、加害者側は、一対一で起きた事象であり、子どもが相手となると、「子どもの言うことは間違っている」と高らかにいうのです。性的虐待は、相手の力の弱さに付け込んだ行為ですから、加害者は被害者よりもはっきりと「強者」です。そういう状況で、「弱者」である被害者は、恐怖や不安から、ますます「他者に相談する」という行為から遠ざかり、「私が黙っていれば、誰も悲しまない」という思考に陥ってしまうのです。



③被害者の精神的ダメージが大きい

実際に、被害を受けた児童が、被害告白をして、児相に通告したとします。

すると、児相は警察へ通報をします。警察や検察から聞き取りが実施されます。裁判を起こすためです。

この際、「いつ、どこで、どのような」被害に遭ったのかを具体的に聞き取り、事実を明確にする必要があります。この時、ぬいぐるみや人形を使って、実際に行われた行為を再現する方法が用いられることが多いのです。体のどの部分を、どのように触られたか、その回数はどれくらいか、というところまで明確にしないといけないのです。

当然、被害に遭った子どもは、被害によって心の傷を負っている状態です。表面上は平静を装っていても、心の中はズタズタの状態の子どもに、「実際の性行為を再現させる」のです。


私が聞いた話ですが、ステップファミリーの養父(血のつながらない父)から、複数回性被害にあった中学生女子がいました。その子は、事実を伝えるために、警察や検察から何度も面接を受け、時には担当心理士が面接をすることもありました。しかし、聞き取りをするたびに、過呼吸を起こしていましたそうです。何とか事実を伝えることができ、裁判で養父を有罪に持ち込んだのですが、その後も「被害を受けた時を思い出すことがあって、夜眠れない」と精神科に通い続けていたそうです。おそらく、その子は、「性虐待を受けた」という一生背負わなければならない心の傷を抱え、フラッシュバックで当時のことを思い出してしまいます。そうなると、日常生活に支障をきたしてしまう可能性が高いでしょう。

見ず知らずの子の話でしたが、あまりに残酷な現状があることを知り、私は、悲しみと怒りでいっぱいになったことを覚えています。



終わりに ~被害者側が「損」をしてしまう社会~

ここで話題にした例は、あくまで一例で、私の見解だけでは不十分なところが多々あると思います。すみません。


これは、日本特有の文化とも言えることかもしれませんが、このように性的虐待のみならず、性的被害を受けた側が損をするケースが非常に多いのです。


かの有名なジャーナリスト伊藤詩織さんが、2015年4月13日、元TBS記者の山口敬之氏にレイプされたことを告白し、裁判を行ったことが話題になりましたね。2019年12月18日に東京地裁から、伊藤さん側の勝訴が言い渡されました。

しかし、これについて、告白当初、社会的にバッシングが多かった事実があります。性的被害を訴え、被害を告白しているのにもかかわらず、伊藤さんには誹謗中傷のコメントが寄せられたのだ。

裁判が行われており、外野が口をはさむことができないため、私の所感は割愛しますが、こういう風に、「被害を受けた側が損をしてしまう。」という認識が、日本では未だに強いようです。

性的被害を受けた場合、勇気をもってそれを告白しても、「ビッチだ」「被害側にも落ち度があった」「合意があった」などと、詳細な事情を知らない第三者が好き放題発言してしまった事実については、私はとても悲しく思います。


そうでなくても、例えば痴漢被害を受けたとしても、それを家族や知人に相談することには勇気が必要です。そんな現状であるのに、まだ幼い子どもが、自分の被害を簡単に口にすることができるのでしょうか? 


私は、「性暴力は、心の殺人」という言葉は、まさにその通りだと思っています。このことを、皆さんの心に刻んでいただいて、そういう行為をした人間には、厳しい姿勢で臨んでいただきたいと思います。




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