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【前半】「心の知能指数(EQ)を大切にする教育とは?」対談&ミニセミナー イベントレポート

 6月21日に開催された、Learx X Creation (ラーン・バイ・クリエーション)の第4回オンライン対談では、米シナプススクール からケイコ・サトウ ペリー先生をお招きし、Learn X Creation 代表の竹村詠美と「心の知能指数(EQ)を大切にする教育とは?」について、対談とミニセミナーが開催されました。

 シナプススクールは、カリフォルニア州メンローパークにある私立学校で、学校の3つの柱の1つとして、子どもの感情知性を掲げていることで特徴的な学校です。感情知性は心の知能指数 (Emotional Intelligence = EQ) とも言われ、学業の成績や態度、行動に大きな影響を与えると言われています。

 現在の制約がある状況下では、豊かな学びを支えるためには子ども達の心と向き合うことが教員や保護者にとって最も大切なことだとLXCは考えています。子ども達が自らの感情に気づき、やりくりする方法を身につけていきながら、他者の気持ちを理解する力や対人関係力を身につけていく学びがSEL (Social Emotional Learning/ 社会性と情動の教育)です。

 ケイコ・サトウ ペリー先生は、シナプススクール でSEL スペシャリストとして、活躍されていらっしゃり、5歳から小学校4年生までを担当していらっしゃります。

 今回のイベントではシナプススクールよりケイコ先生をお招きし、SEL とは何か?そして先生やご家庭で取り組めることについてお話とミニレクチャーをしていただきました。ミニレクチャーに出てくる、「EQチェックイン」というアクティビティがあり、イベントレポートを読まれた後に是非ご家庭や学校でも試していただけましたら嬉しいです。

文責:島田敦子

シナプス・スクールで教師になられたきっかけとは

ケイコ先生:

 元々、東京出身で約30年前に母校で教員をしていましたが、当時から子供の精神的な健康をどうしたら高めることができるかという課題を感じていました。子供達のストレスや不登校の問題を保護者の方に聞いているうちに大学等では教員になるための勉強をしてきましたが、いざ教師になってみると、自分自身を不甲斐ないと感じることが多々ありました。

 そのような体験から日本で教育心理学を専攻して修士課程に進んだのですが、子どもの心をサポートするという面ではまだ足りないと感じ、アメリカでの教育実習に興味を持ちました。対人関係を高めるための教育とはどのようなものなのだろうか?と思い渡米を決意しもう一度大学院に通い、5年ほど前からシナプススクールの小学校で助手を始めたのです。

 シナプススクールは元々、SELで知られているヌエバ学校を創った創設者の方々がもっとSELを中心となる学びの場を改めて始めたいと思い、ガレージから始まった学校です。今では270人ほどの生徒数に至っています。

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SEL (Social Emotional Learning/ 社会性と情動の教育)とは


LXC 竹村:SELとはどのようなものでしょうか?

ケイコ先生:

 ソーシャルとは人間関係、エモーショナルというのはまさに気持ちの面のことで、担当しているキンダーガーテンの5歳の生徒たちには、「(SELは)お友達関係と気持ちの勉強だよ」と説明をしています。

 アメリカでSELが広まり始まった背景として、脳科学の観点から感情がどれほど私たちが生きる上で対人関係を気付いたり、創造したり、新しい社会をつくるのにいかに大切かということが研究結果からわかってきたということがあります。SELを取り入れたところ、学校のテストの結果が上がった、高校の中退率が下がった、退学率が下がった、いじめの予防になるなどの効果も出てきています。

 シナプススクール では、私が担当している週1−2回の「セルフサイエンス」という教科があるのですが、それは「自分自身を勉強する」という学びです。感情知性と言われているEQ (Emotinal Intelligence)は誰にでも学べて教えることができるものです。また、子ども達には実際にEQのアセスメントを受けてもらいフィードバックに役立てています。

LXC 竹村:子どもの学力の向上にもつながるという話がありましたが、どのような関係がありますか?

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ケイコ先生:

 スタンフォード大学のジョー・ボーラー Jo Boaler 教授によると、このような調査結果があります。それは、大学で数学の成績がアジア系の学生の間でとても高く、アフリカ系の学生の数学の成績があまり高くなかったという事象がありました。その理由を調べてみると、アジア系の学生たちは友人たちと一緒に学ぶことでより深く学ぶことができるということを発見しました。そこで教授は、成績が芳しくないグループに対して、同じように友人たちと共に学ぶということを試したところ、その結果成績がアップしたという事例があります。

LXC 竹村:

ソーシャルな部分で学ぶという方が、個人の勉強よりもより学びが深まるということでしょうか。プロジェクト型学習などもソーシャルな学びとなっていて、普段いわゆる学力があまり高くない生徒もプロジェクト学習になると非常に活躍したりなど、ソーシャルな部分と学びは切り離せないものなのかもしれません。

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LXC 竹村:どのようなSELの授業をされていらっしゃいますか?

ケイコ先生:

 シナプススクール では、3つの柱があり、1つはSEL、そしてPBLの元になっている社会構成主義などの研究、イノベーションになります。キンダーから小学校4年生まで受け持っています。

 SELの授業としては、例えば「恐怖の帽子」「きもちの魚釣り」「EQロケットのコントロールパネル」「金継ぎ」など生徒がワクワク安心して自分を知り、行動を選び、自己を生かすための8つのEQ能力を探る40−45分の授業です。指導案はこれまで2−3版出版されていますが、現在は最新のセルフサイエンスの指導案が世界各国からの執筆者(ケイコ先生ももそのお一人でいらっしゃいます)によって出版される運びになっています。

 前提として、シナプススクール は、「生徒が来たくなるような学校を創りたい」という願いから始まりました。そのため、生徒が学校に着いたら、「ようこそ!おはよう!」と先生が生徒たちを笑顔で迎え入れます。そして、先生はSELのトレーニングを全員受けています。教える教科が体育、国語、算数などどのような教科でも、教師はSELのトレーニングを受けることが必要になっています。ちなみに生徒18人に対して平均2人の先生がつきます。

 学校が始まって、一番最初に「EQチェックイン」をします。今自分は何を感じているのか?を感じる時間を必ず1日の中に何回か取るようにしています。モーニングミーティングをして、みんなで今日の予定を話したり、ゲームをしたりします。EQチェックインをする時には2人1組になって「今日はこんな気持ち、どうしてかというと」と話し、もう一人の生徒は傾聴してじっくり話を聞きます。

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 また、教師は各教科の授業を教える前に7日間のSELトレーニングを受けるのですが、指導案を作成する間に、どのようにEQの要素を取り入れるかを考え、事前に指導案を作成します。例えば、EQチェックインをする際に、今の気持ちを数字使って評価1-10で表したりすることで、そこから算数のエッセンスを取り入れたり、理科を取り入れたり、植物を使って、「植物で言ったらどの部分が自分の気持ちにぴったり合ってる?」「幹みたいな感じ何する。どうしてかというと集中できるから!」みたいなやりとりをしています。

 さらに、保護者向けにセルフサイエンス講座も行っています。保護者の方が家庭で子どもたちをケアしており、それはとても重要なことで、教員も学び続けることが必要で、同時に家庭でも保護者は学び続けることが必要になっているからです。

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LXC 竹村:日常の中ではどのようにサポートされていますか?

ケイコ先生:

 教師の間では、一人ずつの子どもの長所などを話し合ったり、授業を作るときにチームで教えるようにしています。チームで、SELを取り入れて授業ではこんなことができるねなどアイデアを出し合います。また、クラスの中で子ども達の気持ちが不安定になってしまった時にもEQのエッセンスをベースに対応するようにしています。

例えば、
 とある生徒さんの話なのですが、とてもセンシティブで小さなことでも泣いてしまうタイプでした。その後、先生達がその生徒さんに対して、真摯に向き合う時間(スペシャルタイム)を持ち続けたことで、気持ちが落ち着き始め、今では「セルフサイエンスが大好き!」と言って、セルフサイエンスの時間では、自らプレゼンを作ったり、セルフサイエンスをとても好きになってくれています。

 とても大切なことは、「どの気持ちも恥ずかしくないし、どの気持ちも受け止めていい。」子供たちに何回言っても言い切れないくらい大切なことです。どんな感情を出してもいいんだよ、認めるよというのが安心感や繋がりを生むと思っています。

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後半につづきます。

----------------------------------------------------------------------------ケイコ先生からSELをご家庭などにて実践いただけるようにといくつかツールをご紹介いただきましたので、こちらに掲載させていただきます。

<ご家庭で活用いただけるツール>
 ・スペシャルタイム チェックリスト:家庭でできる効果的なツール
 ・自己認識のための6つの質問:大人の気もちのリテラシーを高めるために使えるツール
 ・プルチックモデル:感情リテラシーを高める感情の輪
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登壇者

佐藤ペリー・恵子 (Keiko Sato-Perry)

東京生まれ。慶應義塾大学教育心理学の修士号を取得。 私立母校で中高の英語教員を務め、 教員として生徒の抱えている悩みや問題に対応しきれないことに涙した結果、2度目の教育学修士号のため米国スタンフォード大学に留学。 現地高校で日本語教諭を務めた後、 感情インテリジェンスの勉強に専念するようになる。 非営利団体ハンドインハンドで子どもの気持ちに耳を傾けることと 親子の信頼関係を育むことの大切さを学び、 インストラクターとして親を対象としたクラスを教える。のち、 非営利団体シックス・ セカンズの感情インテリジェンスのトレーニングを経て、 シリコンバレーの私立小学校のSEL スペシャリストとなり、現在キンダーガーテン(5歳) から小学校4年生までを対象としたSELの授業を担当、 生徒の感情、対人関係のサポートを務めている。二児の母。

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竹村詠美

マッキンゼーを卒業後、アマゾンやディズニーなどで、消費者向けインターネットサービスに従事。2011年に日本最大級イベントコミュニティプラットフォーム、 Peatix.com を共同創業。グローバルビジネスの最前線での経験から日本の教育環境を憂慮し、2016年の Most Likely to Succeed の上映会開始を皮切りに教育の世界に。FutureEdu を通じて全国での上映会実施をサポート。2019年から「創る」から学ぶ環境が当たり前になることを願う団体、Learn X Creation 事務局長。創造性溢れるライフロングラーナーを育てる教育文化作りや世界レベルのSTEAM/PBL教育を中心テーマに活動中。小・中学生二児の母。
慶應義塾大学経済学部卒 | ペンシルバニア大学ウォートンビジネススクール修士卒|ペンシルバニア大学国際ビジネス修士卒

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