【メタルアーム、そしてコーク。】
コークが必要だ。
ガンマは手刀で自動販売機を両断した。
缶が雪崩れ、ぶつかり合い、音を立てて路上に散らばる。
夜間モードで速度が乗った自動運転輸送車がタイヤを缶に取られ、金属警備員を数体巻き込みながらビルのエントランスに突っ込んだ。
ガンマは惨状を無視し、コークを探す。
衝撃音で居場所がバレる可能性がある。
モタモタしてはいられない。
難しくない任務のハズだった。
ビルに侵入、地下のサーバを破壊、逃げるだけ。
ところが目標手前で数十体の重金属警備員に囲まれ、消耗戦を強いられた。
脱出を阻むことに徹するその動き。
ガンマの弱点は知られていたのだろう。
任務は失敗、辛くも逃走。
『エネルギー残量低下。非常電源に切り替える』
ガンマの脳内に通知が響いてから、すでに1時間が経過した。
コークはどこだ?
路上に視線を走らせる。
エナジードリンク、エナジードリンク……
金属向けエナジードリンクの缶ばかり。
コークは見当たらない。
というより、人間向けの飲み物が無い。
当然か。
金属街。
遠隔操作と人工知能で運営される企業群。
誰一人出社しない立派なハコモノ。
節税のためだけに街の形をしている。
金属だけがメンテと警備のためにうろつく。
エネルギーソースをコークにした博士を呪いつつ、ガンマはその場を離れようと――――翅音。
亜音速飛行型重金属警備員の翅音。
追手。
トンボのような翅をもつ重金属人造人間が近くにいる。
エネルギー残量を気にしていられる状況ではなくなった。
視界には敵はいない。
ガンマは背後、上方に全神経を集中させる。
同時に右金属義腕で手刀をつくる。
指が捻じれ、ひと塊になり、鋭く尖り、刃を形成する。
最初からその形だったかのように、滑らかに光を跳ね返す。
【続く】