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【日記】ぼっちが妊婦さんと1年間働いて人生を見つめ直した話

この春、転勤することになった。
次の職場は、誰もが恐れるほど多忙を極めるらしい。
転勤先を聞いた友人からは「不夜城のイメージしかない」と言われてしまったほどだ。
正直なところ、とても怖い。自分が耐えられるのかなんてわからない。ちょっと泣きそうだ。

けれど実は、その職場への転勤は自分から望んだものだ。
悪いことをした戒めに飛ばされたわけでも、もちろん偉い誰かに引き抜かれて転勤するわけでもない。
今年1年間働いて、自分はもしかしたら、仕事に熱中している方がいいのではないかと思った。だから希望を出したら、その希望が通ってしまった。ただそれだけだ。

仕事に熱中している方がいいのではないか、そう思った原因は今から1年前に遡る。
職場でずっと共に過ごしていた同僚が妊娠した。私と同い年で、仲も良い彼女がずっと妊活をしていたことは知っていたので、とても嬉しかった。
すると、結婚して大半が妊娠経験済みの職場の方々は、彼女をとてもとても大事にするようになった。今まで何人かの妊婦さんと働いてきたが、その過保護さはもはや異常だった。
少しでも重い荷物は絶対に持たせない、坂道や段差の多い道は歩かせない、短い時間さえ立たせておくなんてもってのほか、等々…そんな扱いを受けた彼女は、日に日に人が変わっていった。
以前は仕事に努力を惜しまなかった彼女が、“仕事は他の人にやってもらって当然”という態度になった。代わりにしてもらうことへの感謝の念も無くなったようだった。話す内容も自分の体調のことばかりになった。
彼女の話を聞き、代わりに重い物を持ち、代わりに掃除をするのは、働く部屋が同じでずっと共に過ごす私だった。
彼女はまるで、一国の王子さまを産む女王様、そして私はお世話係のようと私は感じていた。

しばらく経って、そんな彼女も産休に入り、代わりの職員が来ることになった。20代半ばの、とても仕事にやる気のある女性だった。
もう代わりに重い物を持つことも、仕事をやることも、人の体調の話を聞くこともない、普通の生活に戻れるのだと思い、私はほっとしていた。
しかし、そのほっとした日々もつかの間だった。

その数ヵ月後、彼女もまた、妊娠したのだ。
そしてまたやって来た、女王様の世話係の日々。
今度の女王様は、ほとんどの仕事をしなくなった。午前中は机に突っ伏して寝ている。起きたと思ったらお菓子を食べ、その後はただただ座っている。普通に仕事をする私の目の前で、だ。

腹が立った。けれどその姿を見て、羨ましいと思わなかったと言えば嘘になる。
同じ女として、私も職場の全員から大事にされたい。代わりに重い物を持ってほしいし、話だって聞いてほしい。たとえ職場で堂々と寝ていても、見て見ぬふりをしてほしい。
妊婦さんになれば、私もいつか彼女たちのような扱いを受けられるのだろうか?

けれど、そんな願いも叶わないことがわかった。
大学生の頃にかかったパニック障害とうつ病。そのために飲んでいる薬が、妊娠中は服用できないことがわかった。定期的に通院している病院で、言いにくそうに先生が教えてくれた。
たった1粒だが、もう10年以上服用している薬で、2日も抜けば強い目眩が止まらなくなることは何度も実験済み。あのままの状態で仕事をするなんて絶対に出来ない。
代わりになる漢方薬が自分には効かないことも、発症してすぐに試したためわかっていた。
つまり、仕事を続けるなら妊娠出来ないし、妊娠したら仕事を辞めなければならないということがわかってしまった。
普通に出来ると思っていた、働き続けるという現実が、私には無いのだ。
「今は相手もいないんだし、相手が出来たら考えたら?」
先生にはそう言われたが、妊娠できない可能性のある私に、そんな相手が出来るのか…そう考えて酷く落ち込んだ。

そして、自分のその状況を知ってから、妊婦さんの姿を見ること、そして代わりに仕事をやらされることがさらに辛くなった。
私が彼女たちと同じように大事にされることは一生無いという現実が、ずっと突きつけられているようだった。

私はもう限界だった。
仕事の量などではない。正直、仕事量は物足りないくらいだったが、それにプラスされる通常の仕事に無い部分…誤解を恐れずに言えば、“妊婦さんへの気遣い”が本当に辛かった。
このまま同じような、業務量に余裕のある職場にいれば、また同じように妊婦さんと働くことになるだろう。
そうなったとき、私はまたこの辛い日々を過ごさなければならないの?

そう思った私は、仕事に熱中しなければ終わらない職場に行くことを決心した。
多忙な職場には、基本的に男性しか配置されない。超過勤務は当たり前なため、体力面等で不安があるからだろう。だから妊婦さんは滅多にいない。その中に、ぼっちの私は乗り込んでいくことにした。

もしかしたら、多忙を極めた挙げ句に体調を崩すかもしれない。精神的に折れてしまうかもしれない。
けれど、そうなったときはそのとき考えよう。どうせ、私がそうなってしまっても、困るであろう彼氏も旦那も、そして子供もいないのだ。失うものは自分の自信と健康だけ。
なんだ私、適任じゃん! 半分自暴自棄になって、そんなことを思うのだ。

職種は希望通りになったものの、勤務地は希望通りにいかなかった。
だいぶ遠くへの転勤になるため、今は急いで引っ越し作業を行っている。
年度末の引き継ぎ作業と引っ越し作業に熱中して、私はこのまま、妊婦さんへの憧れを捨て、新天地へ向かいたい。そう思っている。

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