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【逗子日記】 20230913

 今日は9月13日。今年の海の日にBandcampで公開した1stシングル『しおんの花かげ』が音楽サブスクリプションサービスでも聞けるようになった。

 希望も意味もなく、いや、いつか何らかの希望や意味を見出せたのだとしても、それらを思うこともできない時の、インターネットの海に揺られているだけの誰か、僕はその誰かが身体にのしかかる重みに耐えきれず海底に沈んでいくのか、力を込めることもできず水面に浮かび続けるのかを考えている。僕は光を届けられないと知った場所で聴いた音をよく覚えているし、ただ目の前の夕日を見ているだけで流れ着いた砂浜で聴いた音だってよく覚えている。繰り返しになってしまうけれど、それはただ僕が覚えていることでしかない。
 お前はサブスクにない音楽は世界に存在していないようなものだと言うのだ。誰かに聞かれていなければ希望も意味もないと、誰かが良いと言っていなければ希望も意味もないと。
 僕は今こそ覚えていなければならないと思う音こそ希望なのだと思う。僕は今でも血管に流れている過去の音に意味を感じている。その時を誰かと共有する必要もなければ、言葉として共有する必要だってない。
 よく考えた。僕は決して踊ることを憎んでいるわけではなかった。僕はただ、静かな音楽で踊ることが好きなだけだった。朝焼けに響く鳥たちの声に希望があるか。夜空にいる星たちの声に意味を感じるか。お前はどうなんだ。
 今日は9月13日。僕は壊されかけた海の家の残骸を見ている。

 『しおんの花かげ』は、今年の逗子の花火や夏祭り、真夜中から早朝にかけての海の音、そういった街の音をフィールドレコーディングで取り込み、環境音楽として編曲した音源です。
 この作品を完成させるために思い出さなければならなかった、忌まわしく、爽やかな夢の風景を、僕が今年の6月に完成させた小説『病室の手記』から引用します。

水面に浮かんでいると、青空が見えました。
私の身体に住む幼虫が一斉に飛び出してきて、今年も夏が始まったの如く、アブラゼミの鳴き声が響き渡っています。
声は海の上から陸へ届きます。
大通りをまっすぐ行き、ゆっくり進む電車の音と交差します。
川の音が聞こえてくると声は体育館を突き抜けます。
金属音が響き、耳鳴りは止みました。

lutaku『病室の手記』(センテンス:救急搬送) より 

 


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