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【建築・インテリアを考える前に読むブログ】第6回 Arch Design Award 2023受賞作品 動画解説シリーズ〜Golden award 「NH」〜

今回のテーマは先日受賞したArch Design Award 2023の受賞作品についてです。デザインのアプローチや施工時の工夫点、クライアントの要望などを取り上げています。

Golden Awards フレンチ料理店「NH」


動画と書き起こし記事で解説していますので動画は下の画像をクリックしてご覧ください。


https://www.youtube.com/watch?v=Y45LafOjD6o



クライアントの要望


一番最初にそのクライアントからお話しいただいたときの条件が

先ず10席のみのカウンター席で、そのカウンター席の前でシェフが調理をする。
次に、壁面のどこかにプリザーブドの「苔」を使って欲しい
百貨店で苔の展示会を見たときに、すごくそれが気に入ったようで、
今回のお店の中で必ずどこかにそれをを使ってくださいと。

そして、
一般的に何となくイメージするようなフレンチレストランとは全く違う
見たことのないような空間をデザインして欲しいと。

それでいて例えばヨーロッパなどのデザインのアワードを受賞できるような、
そんな空間をデザインしてください。
というのが、お客さんからの要望でした。


デザインコンセプト

直感的にインスピレーションが浮かんだのが「異空間」

これをテーマにデザインしてみようというと考えて、
その次に浮かんだのがパープルの空間
「ここは一体どこなんだみたいな」そんな空間を作りたいなと。

そして、その中で「SKIN(皮)」というのが頭の中に浮かんできて、
そのSKINが幾重にも重なったような空間を表現できないかなということを考えたんですね。


課題解決

ただこれは想像するのは簡単なのですが、
実際にそれを図面に起こしたり、
完成イメージのパースとして立ち上げるのはすごく難しい。

何よりも難しかったのがこのお店の入っている建物が築年数が不明で、
築何十年も経っているような木造建築。

なので当然に柱や梁があり、加えて天井高さもすごく低い。
梁があるが故になかなか上手に表現しきれないのです。

要は高さを出せない。
何とか出来ないかということで、
パートナーである構造設計担当の建築士に現地に来てもらい、
「例えばここの柱。これは抜けるよ。
 その代わりこっちに移動させる必要があるよ」とか、
そういった繰り返しの中で、当初のイメージの異空間をどう(実現)すればいいのかということにものすごく時間を費やしました。


照明計画

この空間って暗いんですね。
一般的にはベースとなる照明、例えばダウンライトであったり、
ペンダント照明であったりとかで空間全体の照度を保っているのですけど、
ここにはいわゆるベースとなる照明はほとんどありません。

シェフが調理するためのダウンライトであったり、
カウンター席の料理を照らすためだけのピンポイント的な
ダウンライトはあるのですが、
空間全体を照らすためのベース照明は一切ない

その代わりとして間接照明がベース照明の役割を担っています。
SKIN同士が重なっている部分に細い間接照明が埋め込まれていて、
その光が空間全体を照らしています。

なかなかやり方としては斬新だと思うのですが、
そのお陰で雰囲気も抜群と言うか、なかなか他では見ないような
光の演出がなされいるのではないかと思います。

大理石の天板

お客さんのカウンターも、このシェフが使う厨房のカウンターも
直線部分はごく一部で、ほとんどが曲線を描いています。

素材は人工大理石ではなくて、天然の大理石です。

先ずは見た目、デザインで選んだんですよね。
柄として絶対にこれが良いっていうのが、
もうこれじゃないと嫌だっていうのが見つかりました。
曲線ばかりの形状で寸分の狂いも発生しないよう、
予め工場でカットしてくる必要がありました。

柔らかめの大理石なので欠けや割れが発生し易く、
それでいて幅は約9メーターともの凄く長いです。

これを3分割して現場に運んできたのですが、
現場内で運んでいる際に誤ってどこかに当てたら割れてしまうとか、
設置箇所にセットする際は凹凸の無い真っ平らな状態で置かないと
いとも簡単にクラック(ヒビ)が入ったり、割れたりしてしまいます。
そういう事が起こらないよう、入念に状態を整えてから設置してもらいました。

プロフェッショナルの現場

カウンター上の料理だけがピンポイントでダウンライトの光が照らされるような
照明計画がなされています。

ダウンライトの取り付く位置が例えば1センチ、2センチでもずれてしまったら、
その光もカウンターの上でずれてしまう。
その為、寸分の狂いもなくダウンライトを設置する必要があり、
照明デザイナーや現場の職人の皆がプロフェッショナルで、
完璧にやるんだという責任感の中で出来上がった空間です。

クライアントの評価

いざ完成した空間を見てもらっての一言は、
「素晴らしい。想像以上。こんな空間は見たことがない。」と。

色々と苦労もしましたが、そう言ったものが一瞬で報われた思いになりました。
私としても会心の出来だと自負しています。


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