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1992年のジョゼフ・コーネル展カタログ

先にお話した、私がコラージュという手法に出会った記念すべき展覧会のカタログをご紹介します。

この展覧会はコーネルの日本で最初の回顧展で、私が見に行った滋賀県立近代美術館のほかに神奈川県立美術館、大原美術館、川村記念美術館を巡回しています。

出品作は1930年代最初期のコラージュから、「シャボン玉セット」「子供」「バレエ」「ホテル」「鳥小屋」など主要なテーマを網羅した箱の作品群、そして晩年再び手掛けた色鮮やかなコラージュまで、箱作品約40点、コラージュ30点、版画3点の70点余りで構成されていました。

このカタログには出品作品が網羅されているのと、コーネルの生い立ちから亡くなるまでの足跡を辿る貴重で詳細な解説が載っています(英文含め約60ページ)。

展覧会では、古い雑誌から切り抜いた鳥や蝶、バレリーナ、ガラス玉や木のボール、ワイン・グラス、素焼きのパイプ、コルク片etc……彼が取り憑かれたものたちで作られた箱の世界と、星座や少女、鳩などのイメージが散りばめられたコラージュのロマンティックな世界が、いずれも美術館の広い空間に静かに繰り広げられていました。

実際の作品を目の当たりにした時の驚きと感動は今も忘れられません。特に箱作品は箱のなかに完全なコーネルの心的な世界が出来上がっていました。郷愁のような懐かしさを覚えると同時に、何だか胸が締めつけられるような切なさを感じた記憶が今でも残っています。

あの時なぜそう感じたのか、このカタログの長い解説の中にひとつの答えがありました。


『コーネルが自分の作品のなかにつかまえたいと常々語っていたのは、

(時間でも日でも月でもなく)瞬間だった。

彼が繰り返し行ったのは、

今という瞬間の本質をつかみ、

過去のなかにそれに対応するものを見出し、

両者の対話を作り出すことだった』

サンドラ・レナード・スター「ジョゼフ・コーネル:黄金蜂ホテル」より抜粋


膨大な言葉の中から浮かび上がったこの一節を読んではっとさせられました。

私は、コーネルがとらえようとした刹那を表した作品に、過去のいずれかで見たことがある心象風景を投影していたのかもしれません(夢のなかや想像の風景も含めて)。

今回、解説文を読み返したことで、自分も創作に向かう時の思いやテーマに、もっと意識を向けてみようと改めて思いました。

この「JOSEPH CORNELL」は私にとってたいせつな指標となる一冊です。

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