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【小説】日本の仔:第60話

 翌朝、目が覚めるとテントの外がかなり明るくなっていた。これはもしかすると...
 テントの外に出ると昨日まで降っていた雪が止んでいて、朝日が強烈に射し込んでいた。
 降ったばかりの雪に朝日が当たって、キラキラ光ってる。
 本当は今、とてつもなく寒いんだろうけど、外骨格のヒーターのおかげで、全く寒さを感じない。
 日本を出発してから久し振りにお天道様を拝めた気がする。これは何かの前触れなのか?
 夜の間は眠らなくてもいい時子さんが警戒をしてくれていたはずだけど、近くに見当たらない。
 どこにいるんだろう?

 散歩がてら昨日入った温泉に向かうと、時子さんが温泉の方から戻ってきた。
「おはようございます」
「おはようございます」
「どこに行ってたんですか?」
「はい。ちょっと温泉に」
「え、入ったんですか?」
「はい。昨日、皆さんが嬉しそうにしてらしたので」
 そっかー、うー、もう少し早く起きてれば...

「それはムリですよ。瑞希さんが起きた時から分かってましたから」
「時子さんまで心が読めるように...」
「いえ、何となく分かりました」
「そ、そうですか。それで、温泉はどうでした?」
「そうですねぇ、どう表現したらいいのか、ちょっと不思議な感じでした。ここは私自身の意識がある場所なので、自分でこの身体を包み込むような感じがして」
 そうか、この辺は時子さんの本体の一部なんだっけ。

「ところで、瑞希さんはなぜ時子が好きなんですか?」
 剛直球来た!
 どう答えたら正解なんだ?!

「えーと、最初は単純にかわいいと思った訳ですが、色々な知識や格闘術など、尊敬できるところが沢山あって、ますます好きになってしまいました...」
 一応、素直な気持ちを伝えたつもりだけど。

「なるほど、でもこの身体は機械で、精神はあなたが今立っている、この地球なんですよ?」
「え?それが時子さんを好きになることと何か関係あるんですか?」
「恋愛感情は同じ生物種同士で芽生えるものなのでは?」
「僕にはよく分からないけど、時子さんを好きという気持ちは嘘ではないですよ」
「それは今までの振る舞いから信憑性が98.57%となっているので、疑ってはいません」
 何か細かく分析されてる...

「時子さんを形作ってる部品も、僕を形作ってるこの身体も、元は時子さん自身である地球な訳で、そういう意味ではルーツは皆一緒ってことではないでしょうか?」
「なるほど、そんな風に考えたことはなかったので新鮮です。私も瑞希さんのことは好きですよ。息子のようなイメージですが」
 一瞬目の前が薔薇色に成り掛けて、すぐモノクロになった感じがした。
 まあ、時子さんの本体は46億年前から存在している筈だから、僕が年下に見られるのはしょうがないけど、やっぱりショックだなぁ。

 二人でテントを張った場所に戻ると、皆起きていて、昨日ラスベガスで分けてもらった食材(肉と野菜と調味料)で茉莉が朝食を作っていた。

「子どもの頃から食事を作らされていたから、朝飯前よ。ホントに朝飯の前だけど...」
 日本にいた時は合成肉しか食べたことなかったけど、本物の肉がこんなに固いものだとは思わなかった...
 でも、これが本物なんだね。
 これはこれで癖になりそうな味だ。

 朝食を終えて、シャイアン・マウンテン空軍基地に侵入するためのブリーフィングが始まった。
 まずは徳徳ドローンを単独で接近させ、地形や設備、兵器などを確認する。
 敵は光学迷彩対策として、超音波による索敵を行っているだろうから、超音波センサを常にオンで飛行。
 できれば気付かれずに基地内に侵入したいとこだけど、侵入できるのは正面のトンネルだけだから、さすがに難しいだろう...
 基地内部の構造は、建設時の図面を手に入れていたから、大凡のところは分かっていたものの、何せ80年前の図面だったから、構造が変わっていても不思議はない。
 アリアさんの話によると、トンネルの入口にはセキュリティはなく、1.6km先の基地内部への入口に厚さ1mの扉が2重に設置されているらしい。
 この構造により核攻撃にも耐えることができるのだ。
 運良くここまで探知されずに来たとしても、この扉を開けるとなると必ず探知されてしまうはず。
 とは言え、時子さんクラスのAIがいれば、基地内の監視システムを騙すことは難しくはないそうだ。
 誰かさんのように扉を切り捨てようもんなら、速攻でマイクロソフトブラックホールの餌食になるだろう。
 因みにマイクロソフトブラックホールは、常温核融合炉で陽子の電荷を一時的に失くすしくみを応用して、超小型の中性子星を作り出し、更に圧縮する事で生成されるらしい。
 射出されるときは安定しているけど、何か固体にぶつかると衝撃でブラックホールになって周りの物を吸い込んで消滅するらしい。
 元々は究極のゴミ箱として使う予定だったらしいけど、世にも恐ろしい兵器に転用されてしまった。
 こいつを撃ち込まれることだけは避けないと。

 ここを突破すれば基地の中に入れるから、その後は果歩の思念波探知で双子を探し出せばいいはずだけど、当然基地内にも防衛設備があるだろう。
 できれば武蔵と茉莉の通常兵器で方を付けたいところだけど、いざとなったらソマチットの力を借りることになるかもしれない。
 こうして大雑把だけどシャイアン・マウンテン空軍基地侵入のプランが立ち、出発することになった。

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