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【小説】日本の仔:第62話

 弾着を確認した武蔵は、何事もなかったかのようにM107を片付け始めた。
「スゴいよ武蔵!さすがだね」
「それが俺の存在意義だからね。外したら終わりだ」
 またクール武蔵になってる。
 作戦が終わるまではしょうがないか。

 無力化したSAM陣地に到着すると、敵のアンドロイドが6体ほど蹲って機能を停止していた。
 それらは、例のイーサンとエマのような人間そっくりのアンドロイドではなく、無骨で知性を感じない外観のものだった。
 AIも搭載されているようだけど、パーツを見る限りγ級かδ級程度で、時子さんのようなχ超級とは天と地程の性能差がありそうだ。
 僕も一応AI技術者の端くれなので、その辺は詳しかったりする。

 時子さんが周りにある機器を調べていたけど、他の陣地や基地に侵入できる経路は物理的にも電子的にも見付からなかったらしい。
 機器内のEPR通信モジュールから侵入できれば、リモートで敵を無力化する手段もあったかもしれないけど、そこまで敵も甘くない。
 ということは、基地にたどり着くまでこの攻撃を繰り返さなければならないということだ。

 こうして、基地までの経路にある2ヶ所のSAM陣地も同じように対処していった。あれだけの超長距離精密射撃をいとも簡単にこなす武蔵は、日本でどれだけ訓練をこなしたんだろう。
 基地まであと1km、武蔵の力があれば射撃で攻略するのは簡単な距離だが、残念ながら高い場所がなく、射線が取れなかった。
 仕方なく、超音波探知機に注意しながら雪の積もった森林を進む。
 青木ヶ原樹海ほど凹凸はないものの、森がずっと続いていて、武蔵が先頭でブービートラップに気を付けながら進んでいく。
 武蔵の眼は、物質の反射光のスペクトルから、例えば生物である植物と人工物を簡単に判断できるまでに進化していた。
 時子さんの眼も、赤外線領域の波長を感知して、サーモスキャナのように温度分布を見ることができるから、怪しい熱源があればすぐに分かるし、超音波を聞くことで、探知機の位置を特定することができた。

 ちょっと森が開けたところに出たとき、武蔵がちらっと空を見上げて、
「まずい!」
 と叫んだ。
 と同時に身体が宙に浮くのを感じ、地面が白く光り、衝撃で空高く吹き飛ばされた。
 地中で何かが爆発した?
 そのまま宙を舞いながら周囲を確認する。

「みんな無事?!」
 また武蔵が叫ぶ。
「何とか大丈夫!」
「何が起きたの?!」
「空飛んでるー!」
「今のは衛星軌道上からの攻撃です」
 僕、果歩、茉莉、時子さんと、皆無事みたいだ。

 衛星軌道上って、宇宙から攻撃されたってこと?
 眼下に例のトンネルが見え、人影も見えたけど、これは確実に見付かったな。ソマチットごめん、隠密潜入失敗だわ。
 幸い外骨格のおかげで、爆発のダメージはなさそうだけど、このまま地面に落ちるとさすがに痛そうだな。どうしよう。
 と考えている間にも落下し、地面が迫ってくる。
 すると、足に重さを感じ、何かに受け止められた感覚になった。

「皆さんを徳徳ドローン(光学迷彩モード)の上に乗せました。トンネル前の敵を制圧します」
 時子さんがドローンを操って助けてくれたらしい。
 もうばれちゃったから、思う存分攻撃しちゃおう。
 38式を構えて、アンドロイドとおぼしき人影に向ける。
 コッキングレバーを引いて、初弾をチャンバーへ導入、安全装置を「3」にセット、3点バーストモードにして、照準をちょっと低めに合わせて引き金を引く。
 連射をすると、反動で少し銃口が上がってしまうので、狙いより少し低いところを狙う。

 タタタッ!

 人影から火花が弾けた。
 よし、当たったっぽい。
 他の皆も38式で攻撃、時子さんが徳徳ドローンの高出力レーザーも使って、ほぼ瞬時に敵を制圧した。
 僕たち結構強いかも。
 他の場所から増援が来る前に、基地内に潜入しないと。

【武蔵】
 トンネル前の敵は殲滅できたな。
 皆、思ったより冷静に射撃をしてた。
 トンネル近くに徳徳ドローンを着陸させて、M107を取り出し、トンネル入口の左右に部隊を展開、一瞬だけトンネルの中を覗いて敵の有無を確認する。
 トンネルは少し曲がっているので一番奥までは見えないが、近くに敵はいないようだ。
「時子、赤外線、超音波探知!」
「クリアです」
 よし、トンネルに入ろう。
 徳徳ドローンを1機先行させながら、トンネルの端を左右に分かれて小走りで進んでいく。

 さっきの敵の攻撃は、時子曰く「神の杖」というアメリカ空軍が秘密裏に開発、配備した兵器によるもので、地球低周回軌道を飛行する衛星から金属(重いタングステンなど)の棒を射出して攻撃するというもので、宇宙条約では配備が禁止されているものらしい。
 30年近く前に秘密裏に配備されたものの、使用すれば見つかって各国から叩かれる代物なので、試験もろくにできなかったはずで、おかげで直撃させられる精度も出せなかったようだ。
 計算上はマッハ9.5という超高速で地上に激突し、半径30m程のクレーターを作り出す運動エネルギーを持つらしい。
 大掛かりな割には破壊力は大したことはないな。
 所詮30年前の骨董品ということか。でもなぜ今更そんな兵器を使って攻撃してきたんだ。

 1kmほど進んだところで、遠くに大きな扉が見えた。と同時に徳徳ドローンから被弾した音がして、火を吹いて墜ちてきた。

「チッ!向こうにもスナイパーがいる」
 600m先から光学迷彩をキャンセルして、瞬時に都合6発当ててきた。ドローンの装甲の厚さも読んでるな。あいつらか?
 トンネル内は隠れるところがないので、墜ちた徳徳ドローンの後ろに伏せて隠れる。

「皆早く後ろに!」
 なぜ俺らを撃たずにドローンを墜としたんだ?なめてるのか?
 わざわざ待ち構えていると知らせるような行為は、セオリーではあり得ない。
 恐らく、ドローンの影に隠れていることはお見通しで、ずっと狙っているはず。どうする?

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