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模擬授業と面接

話を元に戻そう。

とんでもない都会に来たなぁとビビりまくっている田舎の青年は、
初めて入った高層の庁舎にさらにビビっていた。

1階の広いホールにはグランドピアノが置かれており、
まさに演奏されているのである。

こんな役所見たことない。

役所といえばもっとごちゃごちゃしていてこんなに綺麗ではない。
という印象しかなかったので、
地元の役所と比べたら民宿と高級ホテルばりの違いを感じるのであった。


時間よりも早く到着したが、
受験者は全部で3名であった。
おそらく他の2人も補欠合格者であろう。
地元の補助員の試験の時と違って2人とも若かった。

内容としては、
模擬授業と個人面接であった。

模擬授業は他の受験者の前で行うことになっていた。
予めどんな場面をやってください。
みたいな指示はなく、
その場で面接官に指示をされてやることになっていた。

「どの学年でもどの場面でもいいのでご自分で設定して、3分間その場で模擬授業をしてください。」

と指示された。
他の受験者が見ている前でである。

順番を決めることになったが、
どうしてだか忘れたが私が1番初めにやることになった。


考える時間はあまりなく、
すぐに「始めてください」と指示が出た。


正直に言うと、「こんな急に言われて何もできねぇよ。」というのが本心であったが、しょうがないのでやるしかない。
仕方がないので、この間まで一緒に生活していた1年生を思い出し、
考えていた始業式の次の日のクラス開きを演技することにした。

ただし、1年生を想定してやると難しいので、
2年生か3年生を想定しつつ、目の前はこの間まで一緒に生活していた子供たちがいると思いつつ演じる。

「先生は普段は優しいですが、怒ると怖いです。」
「どういう時に雷が落ちるかというと…。」
みたいなクラス開きの初めを補助員時代の2組の先生を真似して演じてみた。
ぐだぐだになったがなんとかやり終えたことを覚えている。

そもそも模擬授業などしたことがなかった。
教員採用試験を受ける人は大抵模擬授業の練習をしているもので、
中には何度も何度も繰り返し練習したり先輩の先生や専門学校、大学のゼミや授業などで見せあっているものであるが、
私は一度も人前でやったことがなく練習もしたことのない程の体たらくである。

ちなみにだいぶ先の話になるが、
主幹教諭試験の時も、副校長試験の時も、面接の練習は両試験合わせて1度しかしたことがなかった。
その唯一の1度とは、悉皆(「しっかい」と読みます。必ず出なきゃいけないもの。先生にならなければ生涯一度も聞かずに過ごすと思われますが…。)で、副校長試験前にとある学校で自校と他校の管理職相手に面接の練習をさせられた時だけである。その面接練習でも、1度も校内で練習どころか自分でも練習していなかったが、とりあえず乗り切れるだろうと思っていた。しかし、面接の練習をしている途中で、面接練習の相手の他校の校長に「笑うな‼︎」と怒られたことは未だに覚えている。確か、どう考えても正解のない質問に対して「困ったな」と思った時に、つい、「ふひひ」みたいになった時のことであった。余談だが主幹教諭試験でも副校長試験でも校長試験でも大抵答えられないような質問ばかりされるものである。
それに対して、どのように対応できるのか、その対応力を見るものだと考えられる。
例えば、
「学力テストの結果を上げるためにどういう対策を取りますか?」
「その対策がうまくいかなかったらどうしますか?」
「本当にできるんですか?」
「結果が上がらない場合どのように責任を取りますか?」
「その対策に反対する教員が出た場合どのように対応しますか?」
「その対応がパワハラだと訴えられたらどうしますか?」
などと、矢継ぎ早に質問が繰り返されるものである。

そして、面接でよくある質問は、
「クラス替えをしてもらいたいと保護者が言ってきた。」
「あの担任を替えてほしい。」
「うちの子供があの子供にいじめられて学校に行きたくないと言っているから行かせない。」
というものである。

大抵、主幹教諭や副校長試験や校長試験の管理職試験の前は死ぬほど校長室で校長、副校長相手に面接の練習をさせられるものであったが、自分はうまく逃げていた。


話を元に戻すが、
私が終わった後2人目の人の模擬授業が始まったが、
これまた私の模擬授業をそのまま真似たのがあからさまにわかるものであった。
3人目は模擬授業の体をなしていないものであったと思う。

その2人が合格して採用されたのかどうかはわからないし、
そもそも定員が何名だったのか、
3人とも受かるものなのか、
それとも1人だけ受かるものなのか、
それは未だに知らないが、
そういう模擬授業があった。

個人面接では、
何故先生になろうと思ったか。
どんな先生になろうと思っているか。
など、簡単に2、3質問があったように思える。

午前中に試験が終わった。

慌ただしいのだが合否は午後にケータイに連絡があり、
仮に合格だった場合はそのまま赴任校へあいさつに行ってくれということだった。

午前中に試験があり、午後には合否が連絡され、合格だった場合は赴任先の学校に行ってくれ。

本当に慌ただしいのである。
今考えてみればわかることだが、
急に先生が1人必要になったので慌てて誰かいないかと探していたのである。

田舎者の私にまで連絡をよこすわけだから、
よっぽど人が足りなかったのかもしれない。
でなければ都内在住者か都内近郊に住む人を優先的に採用するのではないだろうか。


慌ただしいなぁと思いながら、
ゆっくりじっくり考える暇も与えられず午後の電話を待つこととなった。



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