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Lunatic tears _ASTERISK 1

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Lunatic tears _ASTERISK 第1巻「静寂に奏でるアリア」
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2023年12月の記事一覧

LTRA3-7「Broken Gears」

 ヴァイスヴォルフが、トラッカーを仕掛けられていた。完全に予想外の出来事だが、アリシアに伝える時間は無い。詩応は
「救急車が来るまで、アタシがつく!」
と言い、銃を持ったまま周囲を見回す。アルスが銃を持てない以上、今ヴァイスヴォルフを直接護れるのは彼女だけだ。
 詩応の視界に怪しい影は無い、但し今の瞬間は。ボーイッシュな少女は警戒を緩めない。
 白昼堂々、しかも割と近距離からの犯行。近くにグルがい

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LTRA3-6「Will In Abyss」

 ツヴァイベルク。アルスはその名前を思い出す。何度か耳にしたことが有ったからだ。
 「20年前、後に血の旅団を結成する過激派の連中を、片っ端から追放したことでも知られている。異名はムッシュ・エピュラシオン。ミスター粛清と云う意味だ」
とアルスは言う。彼が生まれる2年前から、その異名は変わっていない。
「今度は、クローンと云う反乱分子を粛清しようとした?」
「アデル失脚の報復として。そうとしか思えな

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LTRA3-5「Pride Of Mother」

 アルスから見せられた写真と同じ顔のドイツ人が、2人の目の前にいる。その片方は、テネイベールと同じ瞳の持ち主。2人の名前を知らないヴァイスヴォルフが、破壊の女神の名を口にしたのも或る意味では仕方ない。
 2人のことは、事件の動画で見ただけだ。
 腕時計に触れながら澪の1歩前に出た流雫は、しかし少し様子が違うことに気付く。ポーカーフェイス然としていても拭えないハズの戦意は、微塵も感じられない。
 「

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LTRA3-4「Unexpected Consensus」

 小さめの声で繰り広げられたフランス語のラリーは、店内の雑踏に容易く掻き消される。しかし、流雫とアルスにとっては好都合だった。
「前聖女の……」
と流雫は言う。アデルに関しては夜中、アルスから一通り教わっていた。
 「資質を理由とした失脚は前代未聞だ。本人にとっても最大の汚点だろう。だが、総司祭の過干渉がそうさせた。アデルもその意味では被害者だ」
一度は聖女に選ばれたのだから、やはりその点は評価さ

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