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Lunatic tears _ASTERISK 1

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Lunatic tears _ASTERISK 第1巻「静寂に奏でるアリア」
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2023年7月の記事一覧

LTRA1-10「Pray For My Guardians」

 「私の一家を疑うの?」
と、プリィは思わず声を上げる。
「でも、今は全ての可能性を排除できないんだ」
と流雫は言う。そしてスマートフォンを取り出し、耳に当てた。
 「ルナ?」
「おはよ、父さん」
と通話相手に言った流雫は、既に起きていた父、正徳に切り出した。フランス時間は7時だが、その頃には既に起きていることを一人息子は知っていた。
 「……一つだけ教えて欲しいんだ。……今、日本にプリィが来てる

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LTRA1-9「Too Close To Notice」

 「プリィはアルスといる!」
流雫の声が届いた澪は、しかし男女を仕留めるには至らず、どう凌ぐべきか頭を悩ませている。
「流雫は?」
「戻ってる」
その答えに、澪は
「ダメ!」
と返す。
「でも澪が……!」
その声と同時に、大きな銃声が鳴る。
「澪!」
声を上げた流雫は、目の前の階段を駆け上がった。男女2人は、突然現れたシルバーヘアの少年に気を取られる。警察でないことだけは判るが……。
 「誰だ!?

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LTRA1-8「Kiss For Pray」

 「逃がす?」
と詩応は問い返す。
「追っ手がいるようだ」
と答えたアルスに、詩応は周囲を見回す。少し離れたところにいる、大学生ぐらいのカップル風の男女2人。黒いショートヘアの男と、ブラウンのセミロングの女。
 先刻レストランに入る時に見掛けたが、今流雫とプリィがトーキョーホイールに乗っている間、列に並ぶワケでもなく3人を見ている。時々スマートフォンに目を向けるのは、何者かと連絡しているからだろう

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LTRA1-7「Unity Beyond Borders」

 痛む頬を押さえながらも、何が起きているのか判らないプリィに、アルスは近寄って言った。
「だから言っただろ、ミオはルナの味方だと」
その言葉に、プリィは何も反応しない。完全に予想外だった澪のリアクションに、未だ混乱していた。そして詩応も、プリィに険しい目を向ける。
「……アンタが聖女だとしても、アタシはアンタを認めない」
叛逆とすら受け取れそうな詩応の言葉に、アルスは続いた。
「これが現実だ」
 

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LTRA1-6「Articles Not Delivered」

 「……私は、聖女アリスの身代わり」
そう言ったプリィに、澪は
「……え?」
と声を上げる。
「身代わりって……」
 「アリスは私を元に生成された。ただ、クローンは不測の事態が起きやすいもの。その時は、私がアリスになる。本来はそうだった」
「本来は?」
澪は問う。今は違う?
「でもアリスは安定期に入った。だから私の、身代わりの役目は終わった」
と答えたプリィに、詩応が問う。
「じゃあ、そのネックレ

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LTRA1-5「Pride Of Noble」

 「クローンを?」
流雫は怪訝な表情でアルスを見つめる。
「メスィドール家には男しかいなかった。だからプリィをベースにしたクローンを生成し、アリスと名付けて育てる必要が有った。それなら……」
「クローンが聖女……」
「教団としては禁断の存在が、最上級の地位に立つ。シノが聖女から釘を刺されたのも、そう云う理由なら納得がいく」
とアルスは言う。
 「……そこまでして、総司祭の地位が……」
「地位を欲し

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LTRA1-4「Unwavering Belief」

 大教会に足を運ぶ詩応。講堂の最後列の席の後ろに立っている。
 フォーマルウェアとして、青っぽいブレザーの制服を用意してきた。セーラー調の襟と、スカートの裾を正す。
 予定の時間通りに、聖女アリスが教壇に立つ。それだけで、感嘆の溜め息が会場を包む。年頃とは思えない、麗しく荘厳な雰囲気を纏っている。
 ブルーのブラウスに白ケープの装束の聖女は、用意していたタブレットを開く。
「……私は、アリス・メス

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LTRA1-3「Heresy Counterattack」

 流雫が祖国の地を踏んだ次の日、レンヌで事件が起きた。発端は、その3ヶ月前から燻っていた、太陽騎士団の内部問題だ。
 メスィドール家の当主が総司祭に就任したのは、新年を迎えたと同時だった。しかし、就任をよく思わない連中も当然ながらいる。大きな理由は、一家の名誉とプライドだ。それが、宗派同士の確執として表面化したのだ。
 西部教会の中心となるレンヌでは特に、それが激しかった。メスィドール家のルーツだ

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LTRA1-2「Strange Holygirl」

 太陽騎士団。フランス革命直後、フランスで生まれた宗教団体。創世の女神ソレイエドールを崇める。かつて、この教団が絡む事件に遭遇したことで、一通りどんな組織か、流雫と澪は知っている。
 その教典に出てくる女神のうち、唯一異端なのが破壊の女神テネイベール。悪魔に陵辱された炎の戦女神が産み落とし、最後はソレイエドールのために凄惨な死を遂げる。
 教典に描かれた絵によると、その瞳も紅と蒼のオッドアイ。流雫

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LTRA1-1「Binary Weapon」

 トリコロールが尾翼に踊る白い飛行機が、東京中央国際空港に降り立ったのは、11時のことだった。
 最後列の窓側の席に座っていた少年の、アンバーとライトブルーのオッドアイの瞳には、12時間の長旅の疲れは見えない。年に1回だけながら、日本とフランスを往復するのは、既に10回を超えた。
 トリコロールのシャツにネイビーのUVカットパーカーを羽織り、手には紅い三日月のチャームのブレスレット。最後に降りた、

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LTRA1-0「Wish Of Lovers」

Lunatic tears _ASTERISK(ルナティックティアーズ・アスタリスク)
あらすじ
 銃社会と化した2025年の日本。里帰りから帰国したフランス系日本人の流雫(るな)は、東京の空港で襲われていた少女を、迎えに来ていた恋人の澪(みお)と2人で助ける。それはフランス発の宗教団体、太陽騎士団の聖女アリスだった。
 しかし、流雫のフレンドのアルスは、今し方アリスをパリの空港で見たと流雫に告げ

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Lunatic tears _ASTERISK

●あらすじ
 銃社会と化した2025年の日本。故郷フランスから帰国した流雫(ルナ)は恋人の澪(ミオ)と再会した東京の空港で、フランス人少女の襲撃事件に遭遇し、彼女を助ける。それはフランス発の宗教、太陽騎士団の聖女アリスだった。しかし、自分を助けた流雫を拒絶するアリス。
 その夜、流雫のフレンドであるアルスは、パリの空港で聖女アリスを目撃する。
 1人しか存在し得ないハズの聖女が2人、その疑問に囚わ

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