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Iくんとの忘れられない4年間①

 春休みが明けて、高校3年生になった。私の通っていた高校は、自分で言うのもなんだが、県立の中で一、ニを争う進学校。みんな地元の国公立を中心に、中には東大・京大目指して受験勉強を頑張り始めていて、IくんとSくんから、昼休みの勉強会のお誘いをもらった。「クラスは変わったけど、昼休み一緒に勉強しようよ。」と。

 春休み中から、Iくんとの関係は少しずつ変わりはじめていたように思う。Mくんに振られた後日、Iくんと待ち合わせして、タリーズでお茶を飲みながら、2人で4時間くらい喋り通した。私服で休みの日に男の子と2人きりで出かけるのははじめてだった。Iくんには、Mくんの件の一部始終を聞いてもらい。私はIくんが結局親友からの略奪愛を完全にあきらめたことを聞いた。Iくんは地毛茶で、身長も178センチあって、顔つきも福士蒼汰似のイケメンで大人っぽかった。なので、タリーズの会計時に「おタバコ吸われますか?」と聞かれていたのが印象的だった。ずっとMくんしか見ていなかったので気づかなかったが、Iくんは、実はすごく素敵な人なのかもしれない。

 4月のとある日、昼休みの勉強会の延長で、放課後も一緒に勉強することになった。Sくんは都合により欠席のため、Iくんと私の親友Kちゃんと3人で、学校の近くのケンタへ行った。ケンタの帰り、KちゃんとIくんは同じ地下鉄の駅、私は電車の駅を使うので、私は2人にバイバイするはずだった。しかし、Iくんは言った。「俺も今日電車なんだ。」と。

 Iくんと電車の駅までの道を歩く。20分ほどの道のりだ。まだ日が沈むのが早く、夕空が青とオレンジのグラデーションを織りなしていた。Iくんとの距離がやけに近い。

「俺はLunaさんを可愛いと思うよ。」

「俺はLunaさんのそういうとこ好きだよ。」

 何の会話をしていたか思い出せないが、こんなことを言われて私は動揺していた。ありがとう、しか返せなかった。ついこのあいだまで私はMくんが好きだったのに、Iくんにドキドキしてしまっている。というか、Iくんは突然どうしたの?!?!その晩、親友Kちゃんに一部始終を話して、相談した。「ねぇ、もしかしてIくんって、私のこと好きなのかな…」投げかけたその言葉にばに、Kちゃんは答えた。今頃気づいたの、と。

 高2の担任の先生は家庭科の女の先生で、仲良しだった。よく被服準備室に遊びに行って雑談していた。私はIくんのことも先生に相談することにした。実はIくんには持病がある。私がもし告白を断ったらその病気が悪化してしまうのではないか?これから受験生なのに、Iくんと恋愛なんてしていていいのか?先生は私の悩みをひとしきり聞いた後、「ちゃんと本人同士で話し合いなさい。」と言った。そしてそのあと被服準備室に、Iくんが現れたのだった。

 先生は、調理室を貸してくれた。Iくんと私は調理室でふたりきりになった。

「あ、あの。俺、Lunaさんが好きなんだ。まさか調理室で言うことになるとは思わなかった」

「あ、う、うん、ありがとう、私もまさか調理室とは思わなかった」

「だよね。場所変えようか…」

 私たちは調理室を出て、外で話し合うことにした。学校の裏の公園のベンチに座りながら、2時間くらい話していただろうか。Iくんは、Iくんの言葉で一生懸命気持ちを伝えてくれた。Mくんとの一件が終わった後、つまり、この4月から急速に私のことが気になりはじめたこと。持病のことを気にかけて私がメールや電話をしてくれたのが、すごく嬉しかったということ。友達としてだいすきなIくんが、私のことをそんなにも想っていてくれて嬉しかった。でも、逆に、Iくんとはおじいちゃんおばあちゃんになっても大親友でいたかった。

「ごめん、Iくんの気持ち、すごくうれしい。でも私、Iくんとは一生大親友でいたいの。お付き合いすると、もしダメだったときに、友達でもいられなくなっちゃうのが嫌だよ…だから友達でいたいよ」

 そう伝えてしまってから、数日悩んだ。Iくんを振ってしまった。でもやっぱり私の中でIくんの存在はすごく大きくなっていて。中学時代の友達に相談したら「それは、もう、好きになってるよ」と。

 そっか。私、Iくんのこと、好きになったんだ。

 そして、その晩、IくんとSkypeをした。

「Iくん、あのね、私もIくんのこと好きになってきているみたい。Mくんのことから1ヶ月も経ってなくて、自分でも気持ちが整理できてないけど…それでもよかったら、おつきあいしてくれますか」

「…! もちろん。ありがとう。」

 そして、私に人生初めての彼氏ができた。そしてIくんとの恋愛がこんなに忘れられないものになるとは、この時知る由もなかった。


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