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お盆明け|散文

朝7時。意外といつも通りの時間に目が覚めた。
今日はお盆休み明け一日目。終わりの見えないカウントアップの始まりだ。
いつもより多めに寂しさを抱えた憂鬱な体を起こして、生活を忘れている自分の家をぼうっと眺める。帰宅してから机の上に置きっぱなしになっている紙袋が目に入り、レトルトや食材を私のためにせっせと詰めてくれた実家の母の姿が脳裏に蘇った。もう一度ベッドに沈みたくなった。

我が家に帰ってきたのにホームシックになっている皮肉に気づかないほど、寂しさで具合が悪い。気を紛らわせようとスマホをひらくが、SNSの見栄や悪口以下くだらない情報で実家での穏やかな思い出が汚されていく気がして、床のクッションへ放り投げた。特別イベントがあったわけじゃない。外出するのは家族の買い物に着いていく時くらいで、あとは家でだらだら犬を構っていただけ。古いエアコンの音が静かに聞こえる、洗濯を繰り返して柔らかくなった絨毯の上で暇だなぁ〜と寝そべって母に邪魔だと蹴られていただけ。
寂しさを抱っこしているうちに出勤の時間になる。仕事行きたくね〜というより社会に出たくね〜の感情になっている精神の幼さを見る。母が持たせてくれたお弁当がひっくり返らないよう慎重にリュックの中に入れ、戸締りをし自転車に跨った。

出社時刻に追われながらもペダルを漕ぐ足は重くのろい。住宅街を凪いでいた風が段々と車や人の熱気を帯びて体にまとわりつき、ビル群のせいで空が狭くなってくる。実家で過ごした生ぬるい日々を撫でて現実逃避をしていたら、駐輪場を通り過ぎてしまった。

いつもの場所に自転車をとめ、会社まで早歩きしなければならないかスマホで時刻を確認。と、母からラインが来ていた。「忘れ物」の単語と写真。写真にうつりこむ、昨日までゴロゴロしていた絨毯を見て、スニーカーの底を地面に擦った。今日は昨日の続き。記憶に残るのは生ぬるさか、寂しさか。

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