見出し画像

【Vol.2】写真家 豊田慶記氏が聞く、LUMIX S5II「深堀り」開発者インタビュー

写真家 豊田慶記氏によるLUMIX S5II開発チームとのロングインタビュー。全12回の連載を予定しています。

今回は「像面位相差AF」についてのインタビューです。

▼前回の記事はこちらから!

・聞き手:豊田慶記 
 
・開発チーム(敬称略)
開発リーダー :中村光崇
デザイン :北出克宏
外装設計 :金田憲和
AF開発:福川浩平 
AF開発:大神智洋 
画質設計:栃尾貴之 

ーー: 
多くの人が気になっているであろう像面位相差AFの採用について。 
これまでLUMIXチームは、「コントラストAFでも十分な性能を出せるし画質の面でも有利である」というアピールを繰り返していました。そういったアピールもあってか、LUMIXのファンクラブのルミトモでは「コントラストAFだけどなんか文句ある?」というTシャツが作られています。 そんな中で、像面位相差AF(以後PDAF:Phase Detection AF)を採用した理由を教えて下さい。 
 
福川&大神: 
像面位相差AF方式の要素検討は、S5II開発以前から着手していました。その上で、まずLUMIXがこれまでコントラストAFを採用していた理由の大前提として、画質を一番に考えた結果が現在のAF方式がコントラストAF+DFD(空間認識:Depth From Defocusの略)方式だった、ということが挙げられます。 
LUMIXの強みは「画質」である、ということで我々は画質を最優先にして、機種開発を行ってきました。 
 
栃尾: 
PDAFを採用してこなかった理由として、PDAFの仕組みが関係しています。PDAFでは位相差検出の為の専用の画素を撮像センサー上に配置する必要がありますが、その副作用としてこの部分は画像データとしての信号情報を持たないので画素欠損、つまり画像としては歯抜けの状態となります。この僅かな画質の劣化さえも許容できないという思想から、コントラストAF+DFD方式を採用してきました。 
 
中村&栃尾: 
我々はコントラストAFとDFDを追求してきましたが、市場からの像面位相差AF機の投入に関する要望についても真摯に受け止めており、どういったAF方式がベストなのか?については常に検討を続けていました。 
これまでにも要素技術の検討としてPDAFの研究は続けていましたが、画質に関する副作用を是としなかった経緯があります。 
新エンジンの処理機能により、画素欠損を補正し、私たちが求める画質レベルまで到達できる目途が立ったためPDAFの採用に至りました。 
 
ーー: 
ちなみにPDAFと、コントラストAFとDFD方式を比べた際に、画質面ではどれくらいの差があるものなのでしょうか? 
 
福川&大神: 
PDAFの副作用が顕著になりやすいシーンであっても、S5IIでは画像を見た際に違和感がない仕上がりになっております。 
 
ーー: 
像面位相差AFのメリット、もしくは像面位相差AFが活きるシーンを教えて下さい。 
 
福川&大神: 
PDAFが活きるシーンは動画とAFCになります。

特に動画シーンではカスタムメニューからフォーカスの速度を選択できます。コントラストAFとDFDではピント検出のためにウォブリングというピントを高速で前後させる動作が必須ですが、PDAFではこれが必要ありませんので、任意の速度でスムースにフォーカスさせることが出来ます。こうした映像表現は従来機ではMFでやらねばなりませんでしたが、S5IIではカスタム設定で選択できるフォーカスの速度の幅が広がっております。原理的にコントラストAFとDFDでは補えないと言いますか、難しい領域があるんです。例えば大ボケ状態からAF追従させるようなシーンでは位相差AFにアドバンテージがありますね。 

体感しやすいシーンで言えば、AF追従させている状態で障害物が被写体の前を横切るようなシーンでの安定性が非常に高くなっています。これはカメラが画角内の被写体とそれ以外の物体の距離関係を把握しているから出来ることです。DFDでは高速でピントをわずかに前後させ距離を把握していましたが、PDAFではフォーカスを動かさなくても位相差によって被写体の距離を掴むことが出来ますので、障害物の横切りのような距離の違うものが画面内で重なる状況に対して、AFが迷わないという特徴があります。 

また、動画シーンではピントが合った後は、通常ピントはあまり動いてほしくありません。というのもピントの動きは映像として記録されるので見栄えに影響があります。こういった動画シーンのAFにおいても、コントラストAFとDFDではピントピークを検出するために微妙にピント駆動をすることになり、特に背景がプルプルと動いているように見える場合がありますので、PDAFの方が見栄えが良くなる傾向にあります。 

全体としては被写体に対してAFを追従させるシーンでPDAFが適しているであろうと考えています。 

ーー: 
S5以降、特にGH6では動画中のAF動作で背景のプルプルはかなり抑えられていると感じますが? 
 
大神: 
今回それをゼロにしようとしたのがPDAFです。コントラストAFとDFDで、PDAFと同じレベルの使い勝手を実現させるという強い想いで開発を続けていました。実際にGH6のAFはかなり良くなったという自負もありましたが、最後の一歩がどうしても届かず満足出来ない部分があったんです。 
 
ーー: 
S5でも動体撮影、例えばモータースポーツやドッグランなどでも普通に撮れるだけの性能があるとは感じている一方で、コントラストAFの仕組み的に苦手な状況にハマってしまうと、ちょっとね・・・という状況は少なからずありました。ところでS5IIにはコントラストAFとDFDは搭載されているのでしょうか? 
 
福川&大神: 
はい、GH6と同じ世代のコントラストAFとDFDをフルサイズ用にチューニングしたものが入っていますが、S5IIは基本的にPDAFで動作させており、撮影条件に応じてカメラが判断してコントラストAFとDFDが機能します。 
 
ーー: 
PDAFは位相差AFの種別ではありませんが、別途専用の位相差センサーを持つ一眼レフと比べて、撮像センサーで位相を検知するという構造上の特徴としてピンぼけの量を検出する範囲、私はこれをデフォーカス検知量と表現していますが、これが狭いというものがあります。

というのも、撮像面上で位相差を検出しますが、ピクセル間の距離をそれほど大きく採れないからです。 

ところがS5IIで撮影を楽しんでみたところ、デフォーカス検知量が狭いと感じさせる挙動があまりなく、一眼レフに近い感じで撮影できました。これは像面位相差AFの初号機としてはとても凄いことだと思っていますが、どのように解決しているのでしょうか? 
 
福川&大神: 
ピント付近の精度を優先するモードと、大ボケ時のデフォーカス検知量を優先するモードを、最適に使い分ける制御を入れております。 
 
ーー: 
シビアな使用感を言えば、暗所などのAFが難しい条件ではまだ最新ライバル機と肩を並べるところには達していないという感触ではありますが、それでも初号機とは思えないハイレベルな完成度だったので、想像を良い意味で裏切られたのが嬉しい驚きでした。 

ところでAF速度についてはレンズ側のAFモーターやピント用の光学系のサイズによって左右されると思いますが、S5からの純粋なAFの速度に改善はありますか? 
 
福川&大神: 
AFSのピント駆動速度についてはS5と同等です。動画中のAFについては、S5IIでは迷わずに合焦できますので、より早く合焦する傾向にあります。 
 
ーー: 
S5IIでフルエリア等でAFCさせた際に表示されるAF枠表示の更新頻度が低いことが気になりました。これはAF枠表示の更新頻度が低いだけであって、内部的にはちゃんとAF追従出来ているのでしょうか? 
 
大神: 
内部的には表示レートよりも高速で動作していますので、実際には追従出来ています。また、現在ファームアップ対応を目指して検討を進めています。 
 
ーー: 
個人的な意見になりますが、AFC撮影時にAFが駆動するとLV表示のFPSが下がってしまうことが気になりました。S5IIはハイエンド機では無いとは言え、動体撮影をアピールするモデルであれば、こういった表示レートの低下は気になります。 
 
大神: 
現在、ファームアップ対応を目指して検討を進めています。 
 
ーー: 
小さなモノに対する検出力はどうなっていますか? 
 
福川&大神: 
S5IIでは画面内を779点という測距点に分割していますが、その1点に相当するサイズであれば検出出来るという実力になっています。分割数がS5の225点から大きく増えており、1点あたりの面積も小さくなっていますので、小さなモノに対する検出力は進化しています。 
 
ーー: 
ズームレンズではズーム操作中のAFについては対応するのでしょうか? 
 
中村: 
今後対応するレンズファームの更新を順次行います。詳細につきましてはお知らせがある予定です。 
 
ーー: 
パナソニック以外のレンズを装着した際のAFはどのようになるのでしょうか? 
 
福川&大神: 
Lマウントのレンズであれば、問題なくAF動作します。 

(続きます)

▼次回の記事はこちらから!(2023年3月9日より公開) 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?