【Vol.1】写真家 豊田慶記氏が聞く、LUMIX S5II「深堀り」開発者インタビュー
写真家 豊田慶記氏によるLUMIX S5II開発チームとのロングインタビュー。全12回の連載を予定しています。
今回は「S5IIの開発コンセプト」についてのインタビューです。
ーー:
まず、S5IIの開発コンセプトについて教えて下さい。
中村:
S5の良さを活かしながら進化させる、という部分に拘って開発を進めたカメラになります。
ーー:
S5の良さというのは、具体的にどの部分でしょうか?
中村:
サイズ感です。S5ではS1の性能を凝縮することをコンセプトとしていました。というのも、LUMIX S1シリーズはスチルカメラとしての性能を全力で振り切った結果、サイズが大きくなってしまったのでターゲットとするユーザー層は限られてしまうという現実もありました。ハイエンドモデルとしてはそれでも問題なかったのですが、LUMIXについてより多くの人に興味を持って貰いたいと考え、そこでS1の魅力を凝縮し、日常的に持ち歩けるフルサイズLUMIXを目指したのがS5になります。
実際にS5は市場で一定の評価を得てユーザー層を広げることに成功したと考えております。 そこで、S5のサイズを極力維持しつつ、どこまで性能を向上させることが出来るのか?を開発の軸としつつも、性能で欲張った結果価格が高くなってしてしまうのでは本末転倒であると考え、価格でも頑張りました。
ーー:
S5IIは非常に戦略的な価格でびっくりしました。言葉は乱暴ですが、標準ズームレンズと単焦点レンズがキットになっている組み合わせは特にクレイジーです。ボディ単体で見てもフルサイズ24MP機の業界標準よりもリーズナブルになっていますね。
中村:
価格については非常に頑張っています。S5IIではより広く沢山のお客様に使っていただきたいというところも目指しておりますので、S5から順当に基本性能を進化させつつも、過度に性能やスペックを追い求めると価格が高くなってしまうため、バランスについても配慮しました。
ーー:
コスト面では、バッファの量が影響するという認識を持っています。資料ではS5に対して大きく増強されたとのことでテストしてみましたが、S5IIではRAW+JPEGで200コマ以上撮れたので、驚きました。とても嬉しいですが、コストと性能バランスに関するお話を聞いた後では「あれ?」と思うところがあります。
中村:
新エンジンの採用と合わせて、メモリ容量についても検討をしてきました。もう少し容量を減らす案も検討しましたが、得られる静止画・動画性能を見たときにS5後継機種としてふさわしい性能が出せる現仕様としています。
具体的には、S5に対して約4倍の容量になっています。S5ではRAW+JPEGで24枚程度でしたが、バッファ量の増大によって書き込みまでの時間も稼げますので、同一条件で約8倍程度は連続撮影が可能となっています。
ーー:
頑張ったという言葉で纏めてしまうには惜しい気がします。販売価格を下げるというのは購買者にとっては嬉しいことですが、会社にとっては不利益だと思いますので、承認を得るのは大変だった、ですよね?
中村:
仰る通り大変でしたね。 撮影性能やデバイスの能力に対して価格設定をするのであれば、適正価格はもっと上の価格帯になると考えています。それでもより多くの方に手にとっていただきたいとの思いから、求める性能や信頼性は維持しながら、設計的な工夫や部材の最適化などを徹底して実施しました。そういった取り組みも含めて今回の価格を実現しています。
ーー:
S5IIのサイズに関するところについて、試しにS5用のSmallRig製グリップを装着してみたところ、インターフェース側のプレートは干渉してしまいましたが、これを取り外せばピッタリ装着することが出来、フィットも良かったので非常に嬉しく感じたところです。
中村:
インターフェース側のストラップ取り付け方法が変わっていますので、その分の取り回しが少し変わっているところです。また底面のフットプリントで言えば、S5用のバッテリグリップがそのまま取り付け可能になっておりますので、アクセサリの共用についても可能な範囲でのサイズの変更に留めています。高さ方向は変わっていますので動画用のリグなどは、そのままでは装着出来ない可能性が高いです。
細かな部分で言えば、例えば、グリップ性の改善やEVFの大型化などにより、グリップ部や高さ等が少し変わっていますが、基本的なサイズ感はほぼ同等です。
ーー:
サイズを維持することはユーザーにとって嬉しい一方で開発にとっては試練かと思います。
中村:
インターフェースのお話がでましたのでそこについての話題で言えば、S5ではHDMIの端子がmicro Type Dを採用していましたが、S5IIではTypeAを選択しています。信頼性の観点からTypeAの採用を決定しましたが、これは市場からの要望が多かったところでもあります。
外側から見える端子のサイズが違うだけでなく内部のサイズもかなり違いますので、内部の配置や基盤も含めて構成を工夫して、インターフェース側のボディの厚みをほぼ同等に保っています。
ーー:
ストラップの取り付け方法が変わっていますが、理由はあるのでしょうか?
中村:
ストラップ装着方法の変更については、S5はコンパクトなボディでありますので取付部がどうしても手に当たりやすいという市場からの意見がありました。
それ以外にも動画用途では三角環の音がカチャカチャと出てしまいますし、リグ装着時には三角環を取り外しての運用となる場合もありますので、別の方式を検討してほしいというユーザー様からの要望もあり今回のS5IIからの採用となっています。
北出:
実は、開発が始まった時に板金タイプの要望をしていましたが、内部構造が難しいということで三角環でデザインを進めていました。板金タイプへの変更はデザインがほぼ固まった後のタイミングだったので驚きましたが、エンジニアが水面下で検討してくれていたようです。
金田:
ストラップの取り付け方式を変更することで内部構造にかなり影響があるので、一筋縄では今のサイズ感に収まりませんでした。実は最終のモックアップ時点でもまだ目途が立ってなくて三角環で検討していました。粘りに粘った末、本来であれば変更は許されないタイミングになってしまいましたが、「何がユーザーにとってのベストなのか?」を議論した結果、無理を言って土壇場で捩じ込むことが出来た仕様です。
北出:
「このタイミングで変更するの?」という時期だったので、我々も驚きました。 とは言え、そういった要望があった事は知っていましたし、実際の使い勝手に大きく貢献していると感じている部分のひとつです。
(続きます)
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