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【Vol.3】映像撮影技術の集大成。制作環境に変革をもたらす「GH7」、誕生。

LUMIX GH7の開発チームが語る開発裏話。最終回となるVol.3では「AF・録音」についてお話しします。

▼前回の記事はこちらから!


GHユーザー待望の「像面位相差AF搭載」

ソフト設計:福川

かねてからのGHユーザーの皆様におかれましては、大変お待たせ致しました。GH7より、GHシリーズで初めて像面位相差AFの搭載が実現しました。

GH6に比べて、特に動画の追従性が大幅に向上し、従来のウォブリングに見られるフワフワした不安定さがなくなり、追従性と安定性が大幅に改善されています。

また、併せて静止画においても、像面位相差AFの搭載により連写性能が大幅に進化しています。GH6ではメカシャッター・電子シャッターでの連写が共に最大8コマでしたが、GH7ではメカシャッターで最大10コマ、電子シャッターでは60コマまでAF追従可能になりました。

GH7ではほぼ全てのマイクロフォーサーズレンズで像面位相差AFの制御が可能であり、レンズのファームアップによりズーム中のAF制御性能も改善されています。アップデートは順次行われていく予定です。

「認識AF」もシリーズ最高クラス

ソフト設計:新谷

GH7の開発にあたり、AFチームとしては、まずGH6比で被写体認識のAIを根本的に見直し、基本性能を大幅に向上させました。これにより、被写体を探す精度や速度が大きく向上しています。

乗り物認識の被写体追加

GH6と比較してGH7では、乗り物認識の被写体追加として、「車・バイク・列車・飛行機」の4種類を認識対象に追加しました。

これらは以前から、お客様からのご要望が多かったもので、今回のアップデートでようやく対応することができました。

また、多くのクリエイター様からのご要望に応じ、「主要部」と呼ばれる、ピントを合わせたい箇所を被写体全体から探して認識し、そこにピントを合わせる機能も導入しています。

これらの同時開発は実は非常に難しく、と言うのも、今回追加した乗り物4種は全て誤認識の傾向が違っています。

「列車」は四角い金属質なもの、例えば看板や窓が多いビルなどに引っ張られやすい傾向にあります。「飛行機」も流線型が特徴なので、空港内の作業車や、「列車」と同様に看板のようなメタリックな質感を持つ物を誤って認識する傾向にありました。

実際に開発メンバーが何度も撮影に行ってデータを集め、撮影して性能確認するという繰り返しを非常にタイトなスケジュールで進めていきましたが、なんとか誤認識を抑制するための改良ができて安心しています。

また、主要部の認識についても、例えば列車の運転席にピントを合わせるような、撮影者が意図するであろう特定の部位をカメラで認識するのは非常に難しい技術です。

こちらも開発メンバーで撮影に行ってデータを集めつつ、集めた万単位の画像に対して4種類分のアノテーションを実施し、ディープラーニングで一つずつ学習させていくことで認識の精度を高めていきました。

データを集めるための実写について、LUMIX開発の中でも異なる部署のメンバーが集まって撮影に行くような機会もあり、お互いの技術や知識を共有し合うことで非常に大きな成果を得ることができたと感じています。

32bitフロート録音を実現する「XLR2」を新開発

ハード設計:春日井

初めに、そもそも「32bitフロート録音」がどのような優位性を持つ機能かをご説明しましょう。

環境音には、静かな自然のせせらぎの音から飛行機が飛び立つ爆音まで、非常に大きな音量差があります。

これらを一緒に、綺麗に録音しようと思うとマイクやマイクアンプのダイナミックレンジに依存する訳ですが、小さすぎる音はノイズになり、大きすぎる音は歪んでしまうという、所謂「音声事故」が発生してしまうケースがあるんです。

このように、難しい環境で音声を収録する場合、録音レベル設定のダイヤルを調整しながら適切なレベルで録る必要がありますが、「ワンオペで映像と音声の両方を気にしなければならない」というのは、非常に煩わしい作業となります。

その上、「音声事故」は現場では気づきにくく、後で確認した時に音声が歪んでいるといった最悪の事態は極力避けなければいけません。

そういった課題を解決できる最新の録音方式が「32bitフロート録音」です。これにより、小さい音から大きい音まで非常に広いダイナミックレンジかつ高い分解能で録音されるようになり、録音レベルの調整を気にすることなく収録できるようになるため、クリエイターは構図や演者へのディレクションに集中することができます。

そして、このフロート録音をLUMIXでも可能とするために開発されたのが、新しいXLRマイクロホンアダプター(DMW-XLR2)になります。

「XLR2」開発の背景

DMW-XLR2

前身となる「XLR1」が発売されたのは2017年のことです。

当時、カメラに取り付ける音声用アクセサリーはPanasonicと他社様の計2社しか存在していませんでした。しかし年月が経ち、2022年にはTASCAM社から別の3社に対して音声用アクセサリーが発売されました。こういった時代の流れから、カメラに音声インターフェースを取り付けることによる、ワンオペ撮影での音声収録への注目度や広がりを感じていました。

一方で、Vol.1の記事で機種リーダーの堀江が話していたようにGH7開発においては、クリエイターの皆様に改善点や要望をヒアリングする機会が多く、設計チームも積極的にヒアリングに参加したおかげで「フロート録音」へのニーズの兆しを拾い上げることができました。

フロート録音について調べていく内に「ワークフローへの貢献を目指すLUMIXにおいてこの機能は必須」と考えるようになり、設計からGH7への導入を提案しました。

しかし、カメラボディ内にフロート録音の機構を内蔵すると、カメラ内の様々なメカやイメージセンサーの駆動音、電子的なノイズを拾い、ノイズが重畳する恐れがあります。

せっかくフロート録音ができるようになってもノイズまみれでは意味がないので、専用のユニットとしてXLR2を開発するに至りました。

サードパーティ製の外部レコーダーでも可能だった32bitフロート録音をGH7内で映像と一緒に記録できることに拘った理由にはもう一つ、「リップシンク」があります。我々エンジニア内では「AV同期」とも呼んでいますが、つまり映像と音声をカメラ内で同期させられる、というメリットがあります。

バランスが取れた録音、映像と音声の同期をカメラに委ねることで、その後のポスプロに割けられるお客様のリソースも増えることから、結果的にクリエイティブの向上にも貢献できることを願っています。

黒子に徹する「XLR2」のデザイン

デザイナー:武松

XLR2では「黒子のデザイン」を目指し、デザインしました。

カメラアクセサリーとして被写体に向けられるものなので、できるだけ業務用機器の存在感を抑えたいと考えました。例えばロゴマークも従来の製品は刻印に艶が出るような加工をしていましたが、XLR2ではマットに仕上げています。

デザインの成り立ちとしては、音を録るボックスをカメラにマウントした時、レンズに対してマイクがケラれない角度を設計と何度も検証した結果、長方形のボックスからその角度の面をカットし、そこに端子エリアが刺さるというシンプルな造形となっています。

また、押し出し形状なので上下左右の大きさがそのまま伝わってしまう事もあり、設計チームと何度もやり取りしながら、ボックスのサイズも文字のサイズもギュッと詰めて、なんとかこのギリギリのサイズを実現しました。

XLR1からの変化点としては、表示の分かりやすさにこだわっています。例えば、XLR1では「リミットコントロール」が「ALC」と表記されていましたが、これは一般的ではないと感じていたんです。

現場には業務用機器を初めて触るアシスタントの方もいるため、誰が見ても何のスイッチかわかる必要があります。そこで、「ALC」は、リミットを意味する「LMT」に変更し、チャンネルセレクトも「SELECT」と明確に表記するようにしました。

このように、デザイン面でも機能性を高めるための工夫を行い、小型化と分かりやすさを両立させることに努めています。

「XLR2」小型化へのこだわり

機構設計:河島

デザインが武松から出てきた時、XLR1に比べてXLR2は非常にシンプルな押し出し形状のデザインとなっており驚きました。

全体構成としては、このシンプルなデザインをコンパクトにまとめるにはビスを減らすことが重要と考え、部品を一体化するような工夫をしました。

GH7のコンセプトとしても多く語られてきましたが、「ワンオペでの取り回しを良くしていく」ことをXLR2の設計としても重視し、小型サイズについても慎重に検討しています。

高さについては、マイクのケラレやレンズ境界、ファインダー使用時の操作性に影響が出ないように、前後位置を調整しXLR1の高さをキープしました。幅についてはXLR1より小さくしています。

長手方向については、XLR1から操作系が増えたり、3.5mmジャックや、マイクホルダーが追加になるなど、全長が伸びる要因が多かったですが、こちらも切り詰めてなんとかこのサイズに収めました。

最初はかなりフロントヘビーで、重心が前に偏ってしまうという問題もありましたが、ツマミやジャックの配置、内部基板の部品や固定ビスの位置などを工夫しながら、最適なレイアウトを見つけています。

一部品一部品の構成や部品分割のアイデアを頻繁に検討しながら設計を進めていき、進めるうちにだんだん小さくはなっていきましたが、小さくする度に次は操作面の配置の見直しを行う必要があります。そうした試行錯誤の繰り返しを経て、現在のサイズに収まりました。

デザインと機構設計の視点から、これ以上最適な形はもう無いと感じています。

デザインの図面自体は簡単に見えますが、この形を商品として実現するためには多くの工夫が必要で、デザインと設計の間で何度も意見を交換し、最終的に理想的な形状とレイアウトを達成することで、シンプルでソリッドなデザインと小型化を実現できました

マイクロフォーサーズ機の集大成、極まる。

商品企画:香山

GHカテゴリーは2009年にスタートし、2024年で15年目を迎えます。

このカメラは、お客様のニーズとともに進化してきました。

今日的な映像制作や映像表現を叶えたい、ワンオペのクリエイターの方々にも使ってもらえるように設計されています。

映像表現だけでなく、音声を含めた、仕事の効率化にも貢献できるカメラです。

GH6と見た目に大きな変化はありませんが、YouTube等で我々が用意したコンテンツを見ていただければ、GH7の能力を実感していただけるでしょう。

このカメラが描き出す映像クオリティを、旧来のGHシリーズからの進化を、ぜひ手に取って感じていただければと思います。

どうぞご期待ください。

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