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こちら、光学設計部_第五回【LUMIX S F1.8シリーズ】

皆さん、こんにちは。

LUMIXのレンズについて深掘りしていく連載、「こちら、光学設計部」です。

「こちら、光学設計部」では、私たち光学設計部がレンズ設計の解説や特徴について、カタログやwebサイトでは読めないこだわりや想いについて紹介していきます。

これからレンズを検討される方には、ぜひLUMIXのレンズの設計思想を知って頂き、既にお持ちの方は、撮影で楽しんで頂いている優れた描写の裏側にある、知られざるこだわりや思いをお楽しみください。

開発者による専門用語が飛び交うレンズ解説記事です。読めばあなたもレンズ沼の深淵を覗くことに。

第五回目は、単焦点F1.8シリーズ「LUMIX S 18mm F1.8」、「LUMIX S 24mm F1.8」「LUMIX S 35mm F1.8」「LUMIX S 50mm F1.8」「LUMIX S 85mm F1.8」の5本についてお届けします。担当は、第一回目でLUMIX S PRO 50mm F1.4を担当した鈴木です。

▼第一回はこちら


F1.8単焦点シリーズ

F1.8単焦点シリーズは、各レンズ単体としても軽量でコンパクトなサイズ感で、超広角18mmから中望遠85mmまでをカバーしており、日常的なスナップからポートレートまで気軽にお使いいただけるシリーズとなっています。

また、シリーズとしては写真・映像制作のワークフローを変えたいというコンセプトの元、後述で解説致します様々な統一仕様により、静止画撮影・動画撮影両方でメリットが多くあるシリーズとなっております。

本記事では、そのF1.8単焦点シリーズ統一仕様について、光学設計的なポイントを交えながら解説致します。

サイズの統一について

F1.8単焦点シリーズでは統一仕様が多くありますが、本シリーズで最もポイントになるのがサイズの統一です。

サイズの統一に至った背景としましては、F1.8で複数の焦点距離の企画コンセプトが上がった際に、1本1本単体はもちろんのこと、シリーズとしてお客様の得になることは何か?ということを突き詰めるため、多くの議論を重ねました。

「レンズ交換する際にフィルタ径がシリーズでバラバラだとフィルタもサイズ違いで用意しないといけないのは負担になる」

「サイズがバラバラだとカメラバッグ選びやクッションの敷居を変えるのが面倒だ」

「フォーカスリングやスイッチなどの操作系もシリーズでバラバラだとレンズ交換したときに意図しない操作により快適な撮影を損ねてしまう」

「本格的な動画撮影時においてはレンズ交換時のジンバルバランスの再調整などで撮影が間延びしてしまう」

などなど、様々な要素があげられました。

これは個別最適で設計すると、どうしても焦点距離ごとのベストなサイズやフィルタ径などが異なるためですが、その少しの差を追い求めるあまりにシリーズとして全体でみたときに損ねてしまっていることが思ったよりも多くあるということがわかりました。

そして、それであれば軽量で手に馴染むちょうどよいサイズ感で操作系、スイッチなどを統一しようというのが我々が至った結論になります。

このサイズを統一するにあたり、光学設計上で最もポイントになるのがフィルタ径と全長です。

このうち、フィルタ径は超広角である18mm/F1.8が最も大きくなります。そのため、18mm/F1.8では入射瞳位置を極力物体側になるよう光学設計しており、超広角18mmの大口径F1.8でありながらフィルタ径Φ67に収めることができています。

入射瞳位置とは、絞りより物体側の光学系で結像された絞りの像を入射瞳と呼びます。これは簡単に言うと、レンズを前玉側から覗いて見える絞りのことです。また、物空間上での主光線を光学系により屈折せずに延長して光軸と交わる位置が入射瞳位置となります。

次に全長については、定性的には焦点距離の長さでいうと望遠側の85mm/F1.8で決まりそうですが、超広角側が18mmであるため収差補正のためにレンズ必要枚数が多くなることから、フィルタ径に続き全長についても18mm/F1.8が最も長くなりました。

そのため、18mm/F1.8では非球面レンズ3枚とEDレンズ4枚を効果的に配置し、収差を良好に補正しながらも、全長82mmというコンパクトサイズに収めることができています。

また、交換レンズを構成する部品としてサイズ影響の大きいアクチュエーター部品である絞りユニットとフォーカスモーターについても、おおよそ同じ位置に配置しています。

これは製品径をなるべく小径にするための機構的な配置工夫でもあるのですが、おおよそ同じ位置に配置することにより、重心バランスの統一に大きく寄与しています。

描写性能の統一

F1.8シリーズでは、1本1本それぞれ単体でお使いいただいてもご満足いただける描写はもちろん、シリーズ間でレンズを交換しても統一した描写をお楽しみいただけるように光学設計しております。

この統一した描写を実現するために、ベースとなる光学タイプの検討を入念に実施致しました。

光学要素だけではなく、機構・アクチュエーターなど他要素とも多くの議論を重ね、このサイズに収めることが可能な様々なレンズタイプの中から、描写性能も統一することができる前玉が正レンズであるレンズ構成にたどり着きました。

描写性能と言っても様々な要素から構成されていますので、各要素一つ一つ説明致します。

解像性能の統一

F1.8シリーズでは、超広角から中望遠までの焦点域をカバーしていますが、
中心から周辺までMTF性能を高いレベルで統一しています。

これは、当社が培ってきた非球面技術や光学設計技術を最大限活かし、光学タイプの統一や、非球面レンズ・EDレンズ・UEDレンズ・UHRレンズなど、焦点距離に応じて最適に配置することにより実現しています。

これにより、レンズを交換しても同じ解像感の写真・映像の撮影が可能となります。

F1.8シリーズ5本のカタログMTF

色味の統一

F1.8シリーズそれぞれで、レンズの枚数や材料の種類が異なりますが、レンズ材料の透過率特性やマルチコーティングの特性を調整することにより、シリーズで統一した色味となるように設計しています。

これにより、レンズを交換しても写真・映像のトーンを揃えることができます。

左から18mm(F1.8),50mm(F1.8),85mm(F1.8)

ボケ味の統一

F1.8シリーズでは、同じ光学タイプをベースとしており、また、当社が長年培ってきた非球面技術を最大限採用し、主に球面収差をコントロールすることにより、シリーズで統一したボケ味となるように設計しています。

また、非球面レンズにおいても、当社の非球面加工技術により、年輪ボケが目立たないようになっています。

これにより、シリーズどのレンズをお使いいただいても、クセのない自然なボケ味をお楽しみいただけます。

左から50mm(F1.8),85mm(F1.8)

高い逆光耐性

F1.8シリーズでは、当社がマイクロフォーサーズより培ってきたゴーストフレア抑制のノウハウを活かして、徹底的にゴーストフレアを抑制しており、逆光耐性が高いことも特徴の一つです。

これにより、余計なゴーストフレアによる影響を極力抑えた撮影が可能となります。

ブリージングの抑制

F1.8シリーズでは、各群のパワーを最適に配置することにより、ブリージングを抑制しております。

ブリージングとは、ピント送り時に発生する画角の変化のことで、例えば距離が異なる被写体それぞれにピントを合わせた際に、画角が変化してしまう現象のことです。

F1.8シリーズはどのレンズをご使用いただいてもブリージングが小さく、品位の高い動画撮影が可能となります。

機能の統一

F1.8シリーズでは、サイズや操作系、スイッチ位置など外観的な仕様を統一していますが、その他にも様々な統一要素があります。

中にはカタログスペックに現れないような細かなこだわりもありますので、各要素一つ一つ説明致します。

サイズ・操作系・重心位置の統一
~撮影機材をコンパクトに~

F1.8シリーズでは、製品サイズ、フォーカスリング位置、スイッチ位置を統一しており、レンズを交換しても慣れ親しんだ操作感で撮影をお楽しみいただけます。

また、フィルタ・カメラバッグ・リグ・フォローフォーカスなどの周辺機器が共通して使用可能となるため、撮影機材をコンパクトに揃えることができます。

さらに、重心位置も揃えていますので、ジンバルやドローンでの撮影時のバランス調整が最小限で完了するという使い勝手の良さもあります。

高速・高精度・静音AF
~軽快なAF~

F1.8シリーズでは、リニアモーターを採用しており、一般的に普及価格帯レンズで使用されるようなステッピングモーターと比べて、高速・高精度・静音性に優れています。

これはS5IIより搭載の像面位相差AFと合わせてご使用いただくことで、より一層快適なオートフォーカス性能により、撮影をお楽しみいただけます。

また、静音性に関しては、動画撮影時においてフォーカス音が収録されにくく、品位の高い動画撮影が可能となります。

MF操作性
~撮影に応じたMFリング設定~

これはSレンズ共通となりますが、カメラ本体メニューからフォーカスリングのノンリニア/リニアの切替えが可能となっています。

ノンリニア設定は主に静止画向けで、フォーカスリングを回転させる速度に応じてピント送り量が変化します。

これはリングを速く回せば、遅く回した場合と比べて一気にピントを送ることが可能なため、静止画撮影における軽快なピント合わせに最適です。

リニア設定は主に動画撮影、または、深度の浅い静止画撮影向けで、フォーカスリングを回転させる速度に影響なく、メカニカルのようなダイレクト感のある操作性が可能となります。

これは動画撮影時、特にフォローフォーカスでの滑らかなピント送りが容易になり、また、静止画撮影時でも、F1.8シリーズなどの大口径レンズや近接撮影時など、被写界深度が浅い領域での細かなピント合わせが容易になります。

さらに回転角度(リング回転量に対するピント送り量)を調節できるので、被写界深度の浅さに応じて、お好みのピント送り量を設定して快適な撮影をお楽しみいただけます。

なお、本機能はハーフマクロ対応の「LUMIX S 14-28mm F4-5.6 MACRO」「LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S.」、「LUMIX S 70-300mm F4.5-5.6 MACRO O.I.S.」や、マクロレンズ「LUMIX S 100mm F2.8 MACRO」など浅い被写界深度のマクロ撮影時においても非常に相性が良いので、まだ本機能をお試しいただいていない方は是非お試しいただければと思います。

動画撮影時の離散的な露出変化の低減
~品位の高い動画撮影~

こちらもSレンズ共通となりますが、絞り駆動のマイクロステップ制御により、非常に細かい分解能で絞り径を制御しています。

これにより、動画撮影時における画面の離散的な露出変化(パカツキ)を低減し、例えば暗い室内から明るい場所に移動した際の急激な明るさの変化において、露出変化が滑らかな品位の高い動画撮影が可能となります。

最後に

余談となりますが、F1.8シリーズは光学設計リーダー、機構設計リーダー、アクチュエーター設計リーダーが5本のレンズで同じ者が共通して担当しており、入念に情報共有しながら、スペック上現れないようなフォーカスリングのトルク感や諸収差の細かい部分についても統一しています。

これはF値こそ違えどF1.8シリーズと同じサイズで圧倒的な小型軽量を実現したLUMIX S 100mm F2.8 MACRO(2024年2月発売)も同様の布陣で開発しており、こちらの記事でそのこだわりが記載されていますので、是非ご一読いただけましたら嬉しく思います。

以上が、F1.8単焦点シリーズについての解説となります。

本シリーズを既にお持ちの方は、本稿で解説致しました性能や機能の中であまり馴染みのない項目がありましたら、お試しいただきまして、その中でお客様の撮影の幅が少しでも広がり、新たな撮影の楽しみに少しでも繋がれば幸いです。

また、本シリーズをお持ちでない方も、お好みの焦点距離の1本から是非お試しいただけましたら幸いです。

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