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夜間飛行




北へと向かう、白い翼。
星空の下、眠る街の上。


東京から、北極経由、ヘルシンキ行き。
夢現ゆめうつつの夜間飛行をお届けします。



5月の東京、雨の夜。

夜から始まる旅は静かで好きだ。窓を染める大きな闇が、陸を離れる不安や旅への高揚を鎮めてくれて、日常は、闇夜の中でなめらかに旅へと移り変わってゆく。




濡れた窓から溢れる光はカメラを通って眼に映る。いくつものガラスの膜が、風景を静かに分解してゆく。




昼夜を隔てる境界線。
夜の終わりを追いかけて。






遠ざかる街の光、星屑のように瞬く光。
夜に沈む海は暗く、深く。のみ込まれてしまいそうなほどに。




たしかな時間も空間も失われた孤独の空で、小さな光がその存在を知らせている。止まることなく、届くこともなく。




それでも、北へ向かって進んでゆく。







青い光。

北極海。

北の果て。







窓の外には、白い夜が広がっていた。そのときいったい何時だったのか定かではないけれど、夏へ近づく極地の空は、白く、明るく、澄んだ輝きを放っていた。




緯度の存在しない北極点では、標準時間が定義されないという。場所も、時間も、無限に続いているかのような不思議な世界。

その美しい青は、地球が水の惑星であることを知らせてくれる。








しばらくして目が覚めると、空は不透明に近づいていて、眼下には陸が、森と湖が見えてくる。






夜が終わり、旅が始まる。

新しい場所、新しい1日へ。




「私は北方を指す磁針を、若い時から心の中に持っていた」

『森と湖と』 東山魁夷


「機体のしたに連なる丘陵が、夕暮の金色の光のなかで、ようやくその陰影を深めつつあった。平野は輝きはじめていた。しかも衰えを知らぬ輝きによって。この地方では、平野はいつまでも金色の光を残す。冬がすぎ去ったあと、いつまでも雪を残すのとおなじように」

『夜間飛行』 サン=テグジュペリ






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