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なりたいものになれる時代

前職の友人と約5年振りに会った。お互い童顔だ。
自分たちで言うのもなんだが、もうすぐ30歳に見られることは互いにあまりない。初っ端の会話はそれだった。
でも、そのほとんど何も変わらない見た目からは悟ることができないくらい、お互い社会に揉まれながら、結婚したりと取り巻く環境や人生が変わっていた。

ゆっくりとした時が流れるアンティーク調の店内には似つかわしくないスピードで、これまで会っていなかった時間に起きた出来事の重要な部分をキャッチアップする。

出逢いは社会人1年目の全社員合同研修で偶然同じ班だったことだ。出会ったばかりの時に戻ったような、たわいもない恋愛話、趣味の話、直近の仕事の話で盛り上がる。

中盤に差し掛かり、「最近何か新しく始めたこととかある?」そう問うてみた。
というのも最近私は、新たに勉強してみたい事があり、オンラインスクールに通い始めたのだ。だから他の人が何に興味があり、仕事や家事以外の時間をどのように過ごしているかにとても関心がある。

私さ、プリ帳(プリントシールを貼る手帳)とかデコるの昔すごい得意でさ、プリクラの落書きも得意なんだけど、この特技どこにも活かせない、ってずっと思ってたんだよねー。」と言う。いわれてみれば、その子は写真を撮って、それに文字を加えたり色合いを調整し、可愛らしい画像を作成し、それをSNSなどに投稿していたことを思い出した。とてもこだわりのある子だから、結婚式の準備も引き出物袋まで別で発注をしたという。

その準備をしている中で、カリグラフィーに興味を持ち、最近始めたそうだ。
小さい頃から書道を習っていた彼女は「これなら私、得意かもしれないし、出来る自信がある。まあでも、結婚式に活かすには間に合わなかったんだけどね。」そう笑いながら言う。

カリグラフィーとは英語でおしゃれに文字を書いていく作業だが、筆で書く時の強弱の付け方が書道のそれと似ているという。
「まだ初めて二ヶ月くらいだから」と言って見せてくれたイラスト付きのカリグラフィーは、とても洗練されてセンスがあり、絵やデザインの才能が一切ない私からしたら、とても始めたばかりとは思えなかった。

しかもそのカリグラフィーは手書きではなくて、今やタブレット式の端末で製作ができるらしく、端末を操作するペンの筆圧の強さや傾け方で、カリグラフィーの作品をデジタルでも製作できるということらしい。
確かに、今は漫画家さんでもPCで絵を描く時代だから、なるほどそういうものがあるのかと新たな発見になった。
手書きのカリグラフィーを始めようとすると、ペンやインク、用紙やペン先などさまざまな道具が必要になり、かつ細かさが要求される一方、デジタルのものはタブレットひとつで始められる気軽さがあり、そちらの方が彼女の性格的には向いていると思ったようだ。

私がオンラインスクールで学んでいるものの中の一つにライティングがある。昔から日記や読書感想文などを書くことが好きだった。

前職で営業をしていた際に、(数字アレルギーなのにも関わらず、金融機関に就職してしまい)先輩からは「ルミエールさんほんとに●●大学卒業してるの?」と笑いながらバカにされることもあるくらい、数字アレルギーを患っている。

そんな私が唯一褒められた瞬間は、研修の一貫で取引先に見学に行かせていただき、そのお礼文を書いた際であった。みんなが必ず、上長に確認してもらってから提出することになっていた。「ルミエールさんってこんなにうまく文章書けるんだね。とてもよくまとまってるよ。」と言われてとても嬉しかったことを覚えている。お客さま用の説明用の資料を作った際も、例の先輩に「ルミエールさんってこんなまともな資料作れるんだ。びっくりしたよ、いいじゃん。」そう言われた。

だからと言って、例えば小説家になれるほどの才能があるかと言われたら皆無だし、それに中途で全く異なる業界にシフトチェンジをしようとなると、非常に難しいことは社会人を経験された方であれば、お分かりになるであろう。
だから私も、「ライター」になりたいという微かな夢をずっと胸の奥にしまい込んでいた。「今から夢を追いかけるにはもう遅いよ」そう自分を納得させた方が楽だった。

でも今は、こうしてnoteが普及していたり、SNSの発達のおかげで、誰しもがライターを名乗れる時代になった。今年に入ってからオンラインスクールでもライティングを学べる機会を得て、とてもワクワクしている。

友人との話の続きになるが、「今って、自分次第で何でも始められる時代になったよね。他の人と比べたらちょっぴり得意だけど、これって活かせはしないよねと思ってた特技でもそれを始める敷居が低くなったよね。」そう話し合った。

ライターは特別な人に与えられた才能、幼少期から本をごまんと読んで、いかにも優等生みたいな人がなる職業だ。中高の頃、読書感想文で賞をとるのは決まって同じ、あの子。あの子みたいな子が目指すことを許される職業だ。ずっとそう思いながら社会人生活を続けてきた。そんな「ライター」に今、自分は30歳を目前にして挑戦しようとしている。その心持ちは、社会人一年目の時の自分よりも若く、晴れやかな気分になっている。

「私はイラストを練習しておくから、ルミエールもライター頑張ってお互いいつか一緒に何かできたら素敵だよね!」そう言い合いながら別れた後、顔からつい笑みが溢れてしまった。

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