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映画「砕け散るところを見せてあげる」

数ヶ月ぶりにWOWOWを契約したのだけれど、気になっていた邦画の放映が次々とあり、嬉しい悲鳴である。

そのうちの一つ「砕け散るところを見せてあげる」。2021年公開。

【ストーリー】卒業を控えた3年の濱田清澄(中川大志)は、ふとしたことから同級生全員からいじめにあっている蔵本玻璃(石川杏奈)に出会う。それから何かと玻璃のことを気にかけるようになる清澄。
ある日、水をかけられた上にトイレに閉じ込められた玻璃を見つけた清澄。そこで彼女の屈託のない可愛らしい一面を見た清澄は、何としてでも彼女を助けたい、彼女に笑ってほしい、そして彼女と一緒にいたいと願うようになる。
ただ、玻璃には絶対にバレてはならない秘密があった。


みんなが泣いた!号泣!!という映画では「はて?」と思うことが多い私なのだけれど、この映画は泣いた。本当に泣いた。ラスト、引くぐらい泣いた。

清澄はスペックからしたら、ちょっと間違えばスクールカーストの最下層にいてもおかしくなかった(と自分では思っている)けれど、友達関係がたまたまうまくいって順調に高校生活3年を乗り切ろうとしていた。
ただそんな時、一年で既にみんなから嫌われ、物を投げられる、上履きを捨てられる、机を蹴られる、など小さな鬱憤を全て背負っている少女に出会う。

何かよくわからないけれど、すごく気になってしまう清澄。彼女にとっていいことなのかわからないまま、彼女を影ながら助けようとする。そのため一年からはちょっとヤバい先輩として揶揄される始末。

ある日それがちゃんと彼女に届いていることがわかる。水をかけられた冷え切った体を縮めるように、トイレにうずくまっていた彼女を助けた時、ようやく彼女の顔を真正面から見ることができた清澄。

うざいくらいによく喋り、表情豊かに好きなものについて語る彼女に、これまでにない愛おしさを感じる清澄。

彼女は言う、身の回りの悪いことはUFOの仕業なんだ、そう父親から教わったのだと。

その日からヒーローになろう、そして彼女の頭上にある悪いことの根源であるUFOを消し去ってやろうと決意する清澄。

ただ、彼の本当の敵は、いじめをする同級生なんかではなかった。

それを知ってしまった時、清澄は本当の意味でヒーローになろうと誓う。

この物語は、幸せになりました、ちゃんちゃん。というおわり方をしない。疑問は回収されて終わっていくのだけれど、彼らが闘った末に勝ち取ったものは、幸福や解放、救いばかりではなかった。

清澄は一度は理解した。けれど運命と愛はちゃんと清澄の思いを繋いでくれた。

人が何かを背負って生きようと決める時、それは綺麗事ばかりでは終わらない。語られる真実というのは、小説のように理路整然とした、整理された澄ました文章ではなくて、もっと残酷でしぶとくて、格好悪いもの。

私自身が、映画に文章に求めるものはこういうことなのかもしれないな、とつい最近見た映画との比較でさらに思う。

救いたい、愛おしい、その強い気持ちが何かを変えようと人の胸に激しく刻まれる時、人間だけでは動かし難い作用が、この地球上のどこかに起こるような気がする。

ヒーローになろうとポージングを決める中川大志くんがすごくサマになっている、そして長い髪で顔を覆い下ばかりを向いて生きてきた孤高の少女を、石川杏奈ちゃんがとても上手く演じている。彼女が救いのヒーローに出会ったとき、目の前に希望の光が差したことが一目でわかる変容に、こちらも清澄の気持ちが理解できるほどに説得力ある可愛さが見えた。

とてもいい映画だった。人の心の中にあるドス黒いものを、UFOに見立てて表現するというのも、ラストにつながるとても重要なシーン。
人は決して人のことを蔑ろにしてはならない、それは友達でも恋人でも家族でも。
そういうことを強く強く思う映画だった。










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