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村上春樹小説を大胆にアレンジした話題作映画「バーニング」

話題になった韓国映画「バーニング劇場版」を見ました。

村上春樹の短編小説「納屋を焼く」をアレンジした物語とのことで、衝撃のラストは監督の手により付け足されたもののようです。

※ラストのネタバレはありませんがストーリーに触れている部分がありますので未見でまっさらな状態で作品を楽しみたいかたはこの先ご注意ください

小説家志望のジョンスは、家族の事情を理由に久しぶりに故郷に戻る。偶然幼馴染のヘミと出会い、彼女が旅に出ている間アパートにいる猫の世話を頼まれた。ヘミに淡い気持ちを抱きつつあったジョンスは快諾し、旅から戻った彼女も迎えにいく。ところが彼女は旅先で出会ったという男ベンを連れていた。
リッチな匂いを漂わせるミステリアスな男ベン。高級車を乗り回し、瀟洒なマンションに住み、時間に縛られない生活ぶりを嫌味なくまとっている。そんな彼がある日突然、ジョンスに「時々ビニールハウスを燃やしている」とこともなげに告白してくる。戸惑うジョンスに顔色ひとつ変えず静かに語るベン。ヘミとベンとの関係に嫉妬するジョンスはヘミの目を覚ましたいと願うが、そのヘミが突然姿を消した。

冒頭、久しぶりにあった幼馴染ヘミのことをジョンスは思い出せない。「昔私にブスって言ったでしょ」と責める彼女は整形したと素直に告白してくる。そして解き放ったようにイベントコンパニオンのような人前に出る仕事を楽しいと語る。

美しくスタイルもよく奔放な雰囲気のヘミに巻き込まれるように急速に密接になるジョンス。彼自身、父親の性格のせいで夢半ばで実家に帰ることを余儀なくされた。昔から父親の気性を持て余していたジョンスは冷めた気持ちで父親が起訴される場所に赴くのだけれど、ヘミのおかげでその気の進まない帰省理由にささくれていた気持ちが和む。

再会した日、ヘミはパントマイムを習っていると言い、みかんを食べるという見事な手捌きを披露した後でこう付け加える。

ここにあると思うのではなく、ないことを忘れればいいの

思えば目の前にいるヘミも、整形を施した顔は昔と印象が違い、彼女の言葉以外彼女をヘミだという思う理由はないのだけれどそのまま置き換えれば「ヘミだと思うのではなく、ヘミではないことを忘れる」ことで成立するように思えてくる。

このヘミの語ったパントマイムのコツは後々までこの物語を覆う。

ジョンスは何をしているのかよくわからない謎の男ベンを警戒しつつも、ヘミが慕う相手として受け入れざるを得ない。ベンは何の気まぐれか、ヘミを連れ歩くようになり、たびたびその場にジョンスも呼ばれるようになった。

どこにいてもVIP待遇で悠然と構える彼の余裕に自尊心を傷つけられるジョンスなのだけれど、不思議とベンには人を惹きつける魅力があり誘いの言葉も拒めない。

ついには田舎に不釣り合いなおしゃれなピクニックまでする羽目になり、先に眠ったヘミを置いて男2人の奇妙なテーブルが出来上がった。

そこで何となくジョンスは傍若無人な振る舞いで、家族離散の原因にもなった父親のことをベンに語り始めた。
それを隣にいるベンは受け取って咀嚼するように、ゆっくりと自分の罪を告白し始める。

ときどきビニールハウスを焼くんです、と。

続けてベンは雄弁にだが淡々と「なぜ」「どうやって」「どうして」を語った。

彼は焼くビニールハウスを選別する理由を、実に端的にシンプルに語るのだけれど、彼が語れば語るほど、ヘミの言っていた「あると思うのではなく、ないことを忘れる」と言うセリフが思い出される。

彼は特に理由があって選ぶのではない、ビニールハウスは存在していなかったかのようになくなるだけ。それは自分が敢えてそうしていると言うよりは、そのもの自身がそうなりたがっている、そんなふうにも聞こえる。

この世の中には警察にも関心が向けられない、そんなビニールハウスがたくさん存在している。無くなったことを気にされず、問題にもならないものが。

それはそのまま人間にも当てはまるのではないのか。

家族とも離れ、誰に構われることもなくひっそりと暮らしている人々。自分が今どんな場所にいるのか、何をしたいのか、見失っている人々。

本当ならばなくてもいいのに、執拗に求められる意義や意味。

息苦しい世の中に生きる男女が、優雅で夢のような一瞬を頼りに何とか日々を暮らす。それには罪はないのだけれど、解放することにも飽きてしまったら、何を支えに生きていけばいいのか。

ジョンスは果たしてヘミと心を通わせられていのたか。ヘミは何に渇望していたのか、そしてベンの奥底に眠る原因とは何なのか。

全ては消失し、わからない。感情を押し殺したジョンスの罪が露呈するとき、真実が闇に霧散する。

自分の状態によってはいかようにも解釈できそうな余白の多い映画。
あまり元気のない時にはオススメしません。

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