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ファンダムと的確な戦略がマッチする世界「K-POPはなぜ世界を熱くするのか」

田中絵里奈さん著「K-POPはなぜ世界を熱くするのか」を読んだ。

実はK-POPは完全無知の世界であるが、こんな私でもBTSがどうやらすごいらしいことは知っているし、何ならサビ程度ならば何曲か楽曲も知っているかと思う。
それほどヒットチャートにもたびたび登場し、その圧倒的な歌唱力と完成度の高いダンス、流行をも作り出す高いファッションセンスに熱い視線を注いでいる日本人は若者のみならず存在することは想像できる。

ひとまず私の得意分野である、ドラマ界隈に話を少しだけずらす。

私個人の話をすると、このコロナ禍において私の娯楽環境のフィールドは明らかにテレビから配信映像へと切り替わった。

それまで一番見ていた日本のドラマは軒並み撮影中止か延期、立ち消えになった連ドラがいくつあっただろうか。日本のキー局がゴールデンタイムと言える時間に過去ドラマしか発信しなくなった時期に、タイのBLドラマと出会うことになる。(その辺りの顛末は↓にて)

今や完全にどハマりして、今やタイ・台湾・韓国とそのフィールドを広げつつあるのだけれど、このドラマ市場における「推し俳優」の周囲を見ても、著書で語られた内容にハマるものがいくつも見受けられた。

私としては音楽もドラマも映画も国内のものが一番しっくりくるし、好んで鑑賞していたけれど、ひとたびその視線が海外(特にアジア)に向くと、ファンダムと呼ばれる人たちの「推し活」には日本では考えられない趣向のものがいくつもあり、最初は驚きの連続だった。

そのルーツと言えるのが「K-POP界隈」だったのか、と今回合点がいった。

Twitterなどをうろうろしているとファンたちが推しのアーティストを盛り上げようと、ハッシュタグのトレンド入りを呼びかけたり、動画のアクセス数を増やすため見どころや世界観を説明して何度も呟いたり、その目を見張るような努力に出会うことがある。
ドラマに関して言うと、絵が上手い人は見どころを絵にまとめたり、漫画にしたり、他言語が得意な方は様々な関連媒体に翻訳をつけて情報を提供してくれたりする。ファン様様なのだ。

こんなふうにファンが現在ファンではない人たちに向けて、推しの楽曲や出演番組(ドラマ界隈では出演ドラマや掲載雑誌)などを盛んに宣伝し応援やファンになることをお勧めする行為を「布教」と呼んだりする。

実は日本市場において歯痒いのが、この「布教」が大変しづらい状況になっているということなのだ。ファンとしては、許可されていないスクショ(動画をスマホなどで撮影したもの)を添付したくはないけれど、公式が発信しているようなネタが何もなければ具体的に紹介のしようもない。

その上、楽曲のMVや出演番組のソースが完全にブロックされている状態だと違法にアップロードされたようなものでないと目にできず、いざ興味を持ってもらっても課金(有料配信)せねばとなれば、新規ファンを開拓しづらい。

いざ大好きな海外作品を推そうとしても自分の周囲にそれを伝えるのはハードルが高い。とにかく見てもらうのが一番の近道なのだけれど「課金しないと全く見られない現状では布教できない」と嘆くファンの呟きは何度も目にする。
これまでは注目すらされていなかった類のアジアドラマ(YouTubeで全編フリー公開されているなど)が布教活動によってじわじわ人気が出るのは嬉しいことだけれど、それによってフリー映像が次々とブロックされていく現状は本末転倒なのだ。
買い取った側からしたら当然の権利なのかもしれないけれど(フリーが横行すると販売に影響が出る)、もしかしてさらなるファン獲得のチャンスがあるところを間口を狭める結果となり、新規顧客へのハードルを高くすることになってしまった。

K−POPはその辺りのバランスをうまくとっていて新曲リリースの時に重要視される「 MV、 CD、音楽番組」という柱を立て、世界のファンに拡散されつつ、CDの売上も一定数見込めるような戦略をさまざまな形で模索し続けている。

私は国内アーティストでは、今は活動停止中のAAAから個人活動に移ったNissyのファンだけれど、彼はコロナ禍においてMVを積極的にYouTubeにフル尺でUPする戦略を取っている。しかも新曲発売日にMVをUPする時間を前もってインスタやTwitterで拡散し、カウントダウンをファンみんなで楽しめるよう設計されていた。
そして、当日存分に新曲を楽しんだ後で、最後に別バージョンの動画を公開する日時を告知して終わる。
ファンはさらなる楽しみを提示され、来る「その日」を待ち侘びながら、公開済の動画を見てワクワク感を募らせる。それまでは再生回数を伸ばそうと自ら何度も聴き、布教活動も怠らない(もちろん純粋に聴きたいという感情があるのも忘れてはならない)。

まさしくファンとともに作り上げていく未来を、期待を持って進んでいける美しい流れだ。ファン冥利に尽きる。

もともとMVは世界観をしっかり作り込んで制作してきた彼のこと、常々もっと評価されていいのではと思っていたところ、とはファンならではの欲目だろうか。これからファンとしてできることは何か。本を読んだ直後だけに考えてしまう。

本の話に戻ると、今や世界レベルとなった韓国の音楽業界だけれど、その裏に巣食う問題点についてもしっかり言及していた。
自分たちの夢でもあり、希望でもあり、活力でもあるアイドルたち。彼らをただの偶像にしてしまうのか、分別ある応援で末長く活動してもらうのか、そのバランスをうまく取れるような戦略であってほしいとこの先も願う。

本の内容について最後に一つ。
今回はK-POP市場について細かく解説している箇所が多く(詳細は本にて確認していただきたいけれど)随所にQRコードが印刷してあって、読み込めば今まさに説明してくれたYouTube画像へと飛べる仕掛けがいくつもあった。
これは本というアナログな世界と動画配信という世界をうまく結びつけていて、紙の書籍の活路としては有効な方法のように思える。

楽曲や映像などと連動し、「読む行為」に「見る、聴く行為」をプラスし同時進行させる。新しいものと古いものが連携し、全く違う魅力を放つ可能性を感じた。

エンタメは変化していく時代に翻弄されていくけれど、私にできることと言えば好きなアーティストに関して今後も注視し、応援していく気持ちが彼らのプラスに作用するよう考えて行動するのみである。

さて、そんな訳もあってここからはそろそろ、自身の推し活にこの場を割きたいと思う。

我らがNissyのMV、良かったら見て欲しい。世界観が緻密に練り上げられていて、ファンとしては伏線やこれまでのMVからのヒントなどを解読する楽しみがある。もちろん初見の人も楽しめる映画のようなストーリー性を持った作品だ。MV本編↓

DANCE Ver↓。これを見れば真似したダンス動画をUPできる。

このMVでは彼の高いパフォーマンス力を堪能できる。伸びやかな歌声と人を魅了するダンスは必見。

今回本著を読んで、BTSのパフォーマンス動画もいくつか検索してみた。案の定、すぐに何曲も引っ掛かりこういうアクセスの良さはファン獲得にどれだけの効果をもたらすのか、体感することができた。

さすが、同じ楽曲でも様々なバージョンが用意されていて、いわゆるMVと呼べるものから、メンバー全員のフォーメーションまでもしっかり確認できる動画、MVより多少ラフな雰囲気のもの、などなど一曲で何度もオイシイ仕掛けがされているのは、本当「福利厚生が良い」と言わざるを得ない。

コアなファンは新曲(新アルバム)発表まで様々な動画で楽しませてもらい、いざCD本体は言うと今度はその付録(トレカやポスター、他にも趣向を凝らしたものがあるらしい)目当てで購入する。たとえ聴く環境がなかったとしても、戦利品として手元におきたいと願うからだ。
今ではCDやDVDに限らずスマホなどに直接差して楽しめるものにデータを保存して届けたりする流れも出ているらしい。

一年半くらい前にこの本を読んだとて「ふうん」程度で終わっていたらしいこの内容を、このタイミングで読めたことに感謝する。K-POPが好きな人も、J-POPがもっと世界で評価されてほしいと願う人にもぜひ読んでいただきたい。




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