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【小説】天使のナリワイ〜ミントと恋2〜

連作小説「ミントと恋」。EP1「ミントと毒薬」の続編。「ミントと毒薬」は、マガジン「ミントと恋」にあります。
現在連作短編を順に発表しています。最新作が発表されると、それまでの小説は有料となりますので、早めにチェックしてください。

ユキナリの場合

「なぁ生まれ変わりって信じる?」
「何それ、前世みたいなこと?」
 オレは今からちょうどキスしようと指を引っ掛けた彼女の、整った顎のラインを見つめる。美しい曲線、無駄のない肉、それに包まれた色艶の良い唇。冷えていく心を押し殺して、オレは自分の唇をそこに重ねる。
「生まれ変わっても私、ユキナリと付き合いたい」
 軽いキスの後、もう一度とせがむみたいに女の瞳が美しく潤んだ。
 生まれ変わり、オレは信じてないんだけどさ、どうやらいるみたいなんだよ、オレには天使みたいな前世が。

 お前にもある?そういう、呪いみたいなの。
 
 そんなことを言っても女が困るだけなのは経験上嫌というほどわかっているので、オレは言いたいことを丸呑みしてまた、女とキスを交わす。

拒絶する背中 


「ユキナリ、花火大会にさ女子たち、浴衣着てくるんだってさ。いいよなぁ浴衣。俺めちゃくちゃ楽しみにしてんだよ」
 うっとりとした顔をする佐竹の彼女は、今のオレの彼女と仲がいい。そうか、数日前に誘われた花火大会のこと、すっかり忘れていた。
「お前ら、青春謳歌してんじゃねーぞ。俺にも彼女紹介しろっつーの」
 同じ部活の前田が日焼けした腕で佐竹にヘッドロックをかける。佐竹がたちまち「お前いちいち注文つけてくんだもん、まじむずい」と手足をばたつかせた。
「しょうがねぇよ。見渡しても可愛い子全っ然いなんだからよ」
 あっけらかんと口にした前田に、クラス中の女子たちの冷たい視線が集中する。そこに
「前田ぁ。てめぇ、自分のレベルわかってんのかよ」
 前田の幼なじみミクから容赦ない罵声が上がったところで、女子たちがさもおかしそうに賛同の笑い声を上げた。
「前田、謝れよぉ。俺らまで変な風に見られるだろ」
 佐竹がたしなめ、前田が不貞腐れてまたミクに憎まれ口をたたく。
「お前、そんなんだから彼氏できないんだぞ」
「はい、前田アウトー」
 ミクが親指を突き出して、べぇと舌を出す。
「お前らいっそ付き合っちゃえばいいんじゃね?いつまでも夫婦漫才やってねーで」
 佐竹のヒソヒソ声に前田が大袈裟に「やだよ、あんな小うるさいヤツ」と大声で応戦し、「それこっちのセリフだから」また睨まれる。
 そんな休み時間のふざけた空気に一切混ざってこない女の丸い背中が、今オレの席からちょうど見えている。大抵、こっそり鞄から取り出したノートに何かを熱心に書き付けているか、分厚い本を広げているかで、一緒に行動する女子も似たような類だ。
 その背中は騒ぎを鬱陶しく思っているように固く丸まり、肩口で切りそろえられた黒いストレートヘアは一切の雑音を拒絶しているようにツヤツヤ光っていた。
 佐竹が、まだ前田に「お前ら、花火大会一緒に行けばいいじゃん、どうせ一緒に行くやついないんだろ」としつこく口説いているのを流し聞きしながら、あの背中の前世ってどんなんだろ、とぼんやり考えていた。

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