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OLの派閥争いとヤンキー漫画の華麗なる融合。映画「地獄の花園」

バカリズム脚本ということで気楽に笑って観られるかなと「地獄の花園」を鑑賞。

「架空OL日記」ではごく普通の女性銀行員の輪の中に一人、自身を普通の女性会社員として出演し、見事成立させたバカリズムが、今度は女性会社員の派閥争いと昨今映像化されて好評を得ている男子学生の縄張り争い不良漫画を融合させていた。

ごく普通の女性会社員(ここではあえてOLと呼ぶ)田中直子(永野芽郁)が勤めている株式会社三冨士は女子社員たちの派閥の勢力図が日々変わりつつあった。様々な抗争を経て、三代巨頭のトップになった朱里(菜々緒)だったが、中途入社してきた北条蘭(広瀬アリス)の台頭により、あっさりトップを譲ることとなった。
直子は蘭とひょんなことから会話をするようになり、ご飯を食べたり買い物に行ったりごく普通の同僚として距離を縮めていく。ただ蘭は次々と周辺企業のトップOLを倒していくうち、ラスボスとも言える一部上場企業トムスンから睨まれることになり、巻き添えを食った直子はある日さらわれてしまう。タイマンを申し込まれた蘭は一人、トムスンに乗り込むが・・・

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いやぁ、笑った。あまりにもバカバカしいのだけれど、陰湿になりがちなOL同士の争いというものを、殴り合えば分かり合える、というヤンキー漫画の縮図に置き換え、企業のトップOL(アタマ)との戦いの結果はその一帯の会社の上下関係をも決めてしまう、本来なら男同士のギスギスした争いをも包括してしまう不思議なスケール感のある映画だった。

普段は普通にOLとしての仕事をこなす面々は、ひとたびキレると殴り合う。その様子を遥か彼方に感じつつも、呑気に「眠いね」「ジム行ってる?」など平和な会話を交わすカタギOLの直子たち。
それらが、蓄積された互いの部署への不満、我が部署に対する愛着や領域の確保などを悶々と抱いている年嵩のOLに対し、ただ平和に何も知らないで過ごしたいと願う若き新人OLの対比に見えてきてしまう。

実際に映画では戦いと日常との緩急の対比が鮮やかで、その一つのシーンとしてバカリズム自身が登場。呑気な上司としてOLの派閥争いなどどこ吹く風でどうでもいい会話をして去っていく。これはそのまま、女子社員や部下たちに表面上は当たり障りなく接する無責任な管理職、というところか。
本作に登場する主要な男性演者は、この呑気でどうでもいい上司バカリズムと、直子がちょっといいなと思っている先輩、森崎ウィンの二人のみ。

そう、ポスターにも写る、左側の四人は女性役なのだ(女装ではなく、あくまでも女性として登場)。一番笑ったのが、トムスンを牛耳っているトップ赤城涼子役の遠藤憲一。涼子って・・・と思うけれど、ちゃんと女番長に見える、不思議。

ネタバレでも散々言われているかもだけれど、この派閥争いの結末は、報復に来たトムスンが、伝説の最強OL麗奈(小池栄子)と一緒に乗り込んできて戦いを挑むというところで、その相手となるのが実は・・・というのが隠し玉で面白い。

この争いも見事に解決され、それで終わりと思いきや、もう一つ大きな戦いが残ることになるのだけれど、それを経てからの流れと最後のシーンは個人的にはちょっと納得いかなかったかな。

終始、女だけの女のための話ではあるのだけれど、ありきたりな負け方ではなくてもうちょっと笑っちゃうようなバカバカしいものでも良かったんじゃないのかなと思った。

終盤、日本最古のOLと名高い老婆(ケンカが強い)が出てくるのだけれど、その老婆が喧嘩を伝授するのにまずはOLの仕事の基本を叩き込むところ、結構味があっていい。この映画のキモなのではないのか。

ケンカが強くなりたければ、OLの基本がなってないと、とまずは電話の取り方から特訓される。その辺りは何だか仕事というものの本質を喧嘩に絡めたうまいシーンだなと思う。

女同士が戦うシーンは何も考えずに観られて格好いいし、就業中の会社という枠の中で奮闘する女たちの姿は多方面のプレッシャーと戦う姿を投影している。

守られる存在のあざとさだけではなく、前に立って戦う、OLの別の一面を見事に喧嘩に昇華して花開かせたバカリズムはやはり、コメディではセンスと力技の人だ。

日々喧嘩に明け暮れる面々は、別次元の戦いを見せつけらせて一様にカタギに戻る。
日々黙々と仕事をこなし、支持されたことを遂行する会社員たちには別の顔があり、それぞれに戦っているのだと、そんなふうに思う。

実は最初は女のヤンキーものをとオファーされたのだと言うバカリズム。普通にスケバン同士の喧嘩だとありきたりだから、それをOLに置き換えたらどうか、という発想から生まれたようだ。
前にも言ったと思うけれど、バカリズムってどうしてこんなに普通のOLの細かな不満やバカバカしい会話、他にはない連帯感の機微なんかを知っているのだろう。想像力、では片付けられない、リアルな描写がそこにはあって毎回唸る。

仕事に疲れたり、クサクサして仕方ない、などという時には見るといいかも。ワハハと笑って、何だこりゃってつぶやいて、いい気分転換にはなります。

ただし、失恋直後にはおすすめしないかな。

それにしても広瀬アリスのコメディエンヌの可能性は計り知れない。
その脇を固めるのは、凛々しい美に説得力を与える菜々緒、器用にこなす演技力はもはやアイドルではない川栄李奈、セリフの絶妙な間を芸人らしく受け持つ大島美幸。実にバランスの良い配役は絶品。そこに一輪の花として咲く永野芽郁が独特のタッチで彩りを添える。

何も考えずに飛び込んで間違いなく楽しめる。さすがの作品。






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