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Netflixドラマ「地面師たち」

SNSでも話題になっているNetflixのオリジナルドラマ「地面師たち」

2017年に起こった積水ハウスの地面師詐欺事件。被害額55億、被害者が日本でも名の知れた大手ハウスメーカーだったことで大きな話題となった実際の事件をベースに書かれた同名小説が原作。

メガホンを取ったのは「モテキ」などで知られる大根仁監督。地面師グループを演じるのは、豊川悦司、ピエール瀧、北村一輝、小池栄子、染谷将太、そして綾野剛。詐欺事件を追う刑事役として、リリー・フランキーと池田エライザ。そしてターゲットとなる大手不動産会社の部長として山本耕史。
さすがネトフリのオリジナルドラマ、出演者も豪華。お金かかってます。
巷では、リーダー役であるハリソン山中を演じた豊川悦司が色々ヤバい!とか、自身も地面師に騙され家族と生きる希望を失ったのちにハリソンにスカウトされる辻本拓海役の綾野剛のカメレオンぶりが凄まじい!だのと評価されているのが目につく。
60分前後で全7話。まぁ1日で一気見できるボリューム。

話はまず、地面師詐欺がどういうものかお手並みが披露される。
最初のターゲットになるのは10億の土地。新進気鋭の不動産会社が買主として名乗りをあげ、数々の難局を乗り越え詐欺は成功する。相手は一週間ほどし、所有権移転の登記が却下されることで初めて、詐欺であったことを知るのだ。その頃にはもう、売買契約の際に支払われた資金は海外を巡りマネーロンダリングされている、というカラクリ。ここでグループの役割がはっきりと示され、次の大物へと話は移っていく。


交渉役:辻本拓海(綾野剛)

まず際立っているのは、綾野剛演じる辻本拓海の不気味な「静けさ」。
物語中盤で彼の身に何が起こったのかがわかってくるのだが、拓海はとにかく我慢強くて物腰が柔らかい。その根っこにあるものが何なのか。
拓海自身には暗い過去があり、それにより一旦人生を手放すぐらいの虚ろな人生を歩んでいたのだが、ハリソンに出会ったことで転機が訪れる。
彼をここまで駆り立てているものは何なのか。地面師になった理由というのは最後語られるのだが、いまひとつ明瞭にはなっていないという印象。
かつての拓海はいわゆる「普通の人」。だが地面師によって人生を狂わされ、全てを失った。彼に残ったのは怒りというより無力感。言うなれば無力さぐらいしか理由が見当たらない。ハリソンと違い、辻本には生死を彷徨うエクスタシーを追い求めている節はない。実際ハリソンと出かけたハンティングでも、彼からわざと獲物を外したと評されるほどに心根はごく平凡で平凡。自身を騙した地面師を探していた、というのも理由としては弱いし説得力に欠ける。地面師として常に冷静、メンバーにも一定の心遣いを見せる彼の心の底までは最後まで見えなかった。
その上解せないのが他人になりすましてホストクラブに潜入する際に偽装した顔の火傷跡。火事には人一倍過酷な過去を持つ彼がなぜ、そんなことをしたのか(メンバーの一人に頼んで変装をした)。ホストとしては働きたくないという単純な理由かもしれないが、今もわからない。
何度見ても、業務を遂行する冷徹さが際立っていて、もしかして自分を、自分の周囲を地獄に突き落とした方法を、今度は自分とは比べ物にならないほど巨大な相手に対して行うことで何かを取り戻したかったのかもしれない。自分が仕掛けた罠で一喜一憂する組織の悲喜交々を観察することで、人間らしさを取り戻そうとした、とか。

後日談
これを書いて公開してから、YouTubeで俳優のアフタートークを拝見。

ここで語られていた、綾野剛さんが考えた拓海像を聞いてからもう一度思い返すと、拓海が顔に火傷跡をつけた理由は「書き換えたかった」からではないかという思いになった。
拓海は火には特別な記憶と思いがあるのだけれど、決してそこから離れようとはしていない。そう考えると、外出して(自宅火災という)難を逃れたという現実はあるのだが、その顔に火傷跡を刻むことで自分がその場にいたことにしたかったのかも知れない。そうしたら家族を救い出すことももしかしてできたかもという期待を込めたのかもと思った。

キーマンであるホスト:楓

チャラいホスト楓が最大の詐欺事件に欠かせない人物として登場。
演じるのは吉村界人。
いやぁチャラい、とにかくチャラい。しかも太客に対する裏の顔が酷すぎる。これに入れ上げているのが、本物の土地の所有者である寺の尼ということなのだけれど・・・騙されるかなぁ(笑)というのが正直なところ。

楓はナンバーワンホストいうことだけれどあんまり説得力ないし、本人は無類のロリコン。裏でお得意さんを「ババア」呼ばわりし、彼女の外での接待を後輩ホストに任せている。ちょっとこのホストはステレオタイプっぽいかな。もう少し説得力ある人選あったような気もするけれど、ステレオタイプといえばもう一人。

不動産会社の部長:青柳

地面師のリーダーであるハリソンが仕掛けた巨額詐欺のターゲットとなる石洋ハウスの営業部長である青柳。演じるのは山本耕史。彼はとある一大プロジェクトが頓挫しその責任を取らされそうになり焦っていた。ライバルの須永には嫌味を言われて追い詰められ、買収し損ねた土地に代わる場所を早急に見つけねば出世レースから完全に遅れをとるという崖っぷちの状態。
後輩には苛烈な檄を飛ばし、時代錯誤の論理で強引に仕事を進めようとするがサラリーマンの性なのか業界の風力が強いのか、周囲の部下たちは徐々に青柳の嵐に巻き込まれていく。
彼は社長派閥の人間で、社長は社長で会長を疎ましく思いながら一発逆転の一手を欲しがっていて青柳にことさら目をかけている。この会社の勢力図と自身の出世欲に踊らされるように、ハリソンの仕掛けた罠に食いつく青柳。
実際積水ハウスの詐欺事件では似たような構図が見え隠れするものの、もっと計画はずさんで、なぜ怪しいと分からなかったのかとする向きもあるようだが、ドラマにして見せられると、会社の勢力図・出世欲・焦燥感、あらゆる状況が人の目を曇らせるものだとわかる。
もう青柳は分かりやすくオラオラな男。
思い通りの土地が見つかりいよいよという時にはエクスタシーを感じ、自分は社長秘書といい仲、巨額案件の契約が締結した際には高級クラブで打ち上げ、そしてガラス張りの東京夜景を見下ろすホテルで例の秘書と・・・とまあこういうシーンが出るたびに、これはいつの時代のドラマだ?と一瞬時間軸が歪んだように感じた。
いや、もしかして一流企業に勤める役員クラスの方々を知らないので何とも言えないけど、それにしたって・・・という感想。
あんなガラス張りの高層ホテルで男に抱かれるのに歓喜する秘書とか、いるのかな。

追い詰める女:倉持

こういうタイプの話は大抵、男臭さばかりが際立ち、男同士の争いに見応えが終始する場合が多いが、昨今の傾向を考慮したのか主要人物に女性を据える場合もある。
ただしこの地面師たちについては、グループの中になりすまし役を選定する担当として小池栄子演じる麗子がいるけれど、対等に張り合うというキャラクターではない。
そこで登場するのが池田エライザ演じる倉持。捜査二課に配属される刑事で本人はドラマを見て刑事を目指したというイマドキの若者。彼女に教育係として関わるのが、地面師側じゃないんだ、という配役が見事な辰さん役リリーフランキー。彼はハリソン山中を追い詰めた過去のある刑事で、その際は証拠不十分で起訴を見送られた、いわば因縁の仲。
EP4ではこの倉持と辰さんとの間にほんわかした会話があり、これはフラグだなと察してしまうのだけれど、彼女は若者特有の身軽さと本来の正義感、そして頭で考える前に体が動く行動派であり、なぜかハリソンには警戒されることもなく地面師たちに近づいていく。この辺りがやや不可解ではあるものの、一人奮闘する姿は頼もしい。ただ、一人だけ・・・物足りない。このドラマにおいての女性の立ち位置というのは、搾取される側に終始する場合が多く、そこは残念。
そして彼女の疑惑の原動力の一つとなる辰さんの存在、その奥さんが彼女を信頼する理由もやや弱かった。もう少し起爆剤となる何かが欲しかったかな。

エクスタシーを追い求める男:ハリソン山中

ドラマ冒頭、ハリソン山中はハンターとして海外のどこかに潜んでいた。そこで自分を喰らい、捉えようとする熊の頭を射抜いたことでこの上ないエクスタシーを覚えた。ハリソンの犯罪動機はそこ。
何よりも人々が狂い、興奮し、そして絶望する姿を渇望している。そのために綿密な計画を練り、人を使い、そして冷酷に切り捨てる。
これを思うと、よほどか辻本拓海の方が薄気味悪い。
その底知れぬ暗闇をハリソンは誰よりも鮮明に察知し、その顛末を見たいと願ったのではないだろうか。

他の面々たち

それ以外にも個性的な出演者は多数。
器用な手先を利用し、倉庫のような場所で人間との交流を避けるように黙々と仕事をする長井演じる染谷将太。ネコとゲームを愛し、淡々といい仕事をする。さすが染谷将太、役に説得力がある。

話題になったことをご本人がSNSで驚いてらっしゃった、広大な土地を所有する寺の尼僧である川井菜摘を演じた松岡依都美。役作りで覚えた読経は今でも唱えられるそう。


そして最近いろんな場所でお見かけする平原テツ。彼は捜査二課の刑事だが中盤からはお役御免と退場してしまうので本作ではそんなに存在感はないものの、最近やたら気になる役者さんである。

俳優などの露出が、突然頻繁になる時期があるけれどこの平原テツさんの露出が最近富に著しいと感じる。ちょっと見てみると元々大杉漣さんの事務所にいたらしいけれど、クローズした後はそのスタッフが引き継いだ事務所にそのまま所属しているらしい。
彼は「花咲舞が黙ってない」では、菊地凛子演じる昇仙峡の元恋人を演じていたし、NHKの「柚木さん家の四兄弟。」では主人公が教師になるきっかけになった理想の教師役として出演していた。いわゆるいい役としての出演が続き、これは事務所売り出し中?今後も楽しみ。身長もプロフィールによると180センチ、見栄えのある人気役者たちと並んでも遜色ない。

最後に、青柳のライバルである須永。松尾諭が演じているのだが、当初嫌味な男だなと思っていたが、中盤唯一、石洋ハウスの中でこの契約に異議を唱える男だ。ところがライバル視していた発言が邪魔をして、青柳からは鬱陶しがられ相手にされない。ただし、ラストまで見てみるとこの須永こそ青柳のことを買っていて、ライバルとして特別意識していたように感じた。
同僚というか仲間というか、なぜ止められなかったのか。須永はもしかして、このことをずっと引きずるかもしれない。

地面師たち、というドラマ

かなり高評価を得ている本作。見応えはあるが男くさい日曜劇場に胃もたれしている身からすると、ラストシーンはちょっとしつこいなという印象だった。対決シーンも、拓海の本音を引き出すには至っていない気がして、なんか人が次々といなくなって、残った人たちは骨抜きになって終わり、みたいな印象だった。
男くさいドラマの定番なのか、地面師グループが頼りにし要にするのが結局、母性であるというのも何とも言えない。そしてそれに見事に裏切られることとなる。
本作は実際の事件をベースにしている、というところで説得力があり、あの詐欺事件の顛末をフィクション形式とは言えど理解する気になれるドラマ、と言えるだろう。そして高揚感が何よりも脳みその報酬である、ということがよくわかる。
個人的には、最後まで腹の底が見えなかった辻本拓海がもう少し冷徹か、もしくは考えられないほどに人情的なのか、最高の裏切りが欲しかったかな。

積水ハウスの詐欺事件は、結果的に別の不動産会社が正規のルートでその土地を購入し、高層マンションを建設したらしい。その建物を見て関係者は何を思うのか。土地というものの魔力、そこに人間が勝手につけた付加価値に振り回される人々の数奇な運命を思う。

追伸

昨今の映画でも話題になったけれど、このドラマについてはインティマシーコーディネーターが参加していたと知ってホッとした。

本編には男女の絡みシーンがいくつかあるのだけれど、特に気になったのがホストの楓が自身の鬱憤を晴らすために時々ホテルに若い女を呼びつけて(怪しげな仲介を通して)脱がせて写真を撮るシーン。演じる役者さんの本当の年齢は不明だけれど、見た目には10代に見える幼い女性が下着姿にされベッドに横たわり、楓が乱暴な言葉で指示を飛ばすのだ。楓がパンツ一枚という姿の時もあった。このシーンは楓の人格を表現し、のちにこのことで地面師たちの計画に大きな進展が見られることで「必要である」と判断されたと思うのだけれど、好き同士が絡む濡れ場よりも精神的にキツそうなシーンだなと思ったのと、非常に若い女性が対象であるということで、インティマシーコーディネーターが入ってくれたのならと安心感があった。予算的にゆとりのある企画である良い面が感じられた。
ただ二面性と言われればそうかも知れないけれど、歳上の女を転がすホストが実はロリコンだということって本当にあるのだろうか・・・とは思ったけれど。


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