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鴨川で「スパイダー」を歌う

「スピーキングを効率よく伸ばす方法はありますか?」

英語の指導をしてると、よくこんな質問をいただきます。

これはかなり難しい質問で、正直いうと回答に困ってしまいます。というのも、以前ノートに書いたように、スピーキングは運動能力に近いため、学習者個人の感性が如実に反映されるためです。

でも、だからといって、「人それぞれだからなんとも言えません」なんて無責任なことを言うのも違うなと思っています。

なので、私なりに真剣に考えた上で、個人的に一番良さそうな方法を共有しておこうと思います。

「発話の気持ちよさ」を意識する

早速、結論から述べると「発話の気持ちよさ」を積み上げていくことが、スピーキングを伸ばす上で重要なファクターになると考えています。

「自分の英語って結構いけてるじゃん!」とある種のナルシシズムに近い自画自賛できる表現を増やしていくというイメージです。限りなくネイティブっぽく発音できるフレーズと言ってもいいかもしれません。

スピーキングという能力の根本は、話者自身の「自信」から湧き出ます。

自信があれば声量が大きくなり音にメリハリがつき、聞き手にとって聞きやすい音を再現することができるようになります。

一方で、

「自分の英語は下手だ」
「発音が苦手だ」

と、思っているとその自信のなさは言語に反映され、聞き手からは「は?何が言いたいのかわからないんだけど!」と一蹴されてしまうことに。そして、更に自信を失うという負のスパイラルに陥ってしまうことも。

英語を話すことに抵抗感があると、その分だけチャレンジの量は減ってしまいます。

「気持ちいい」というポジティブな感情は、そのまま自信につながります。自信があると自然とアウトプット量が増え、一見ハードルが高く見える状況でも英語を使おうという気持ちが湧いてきます。

自信があれば経験が増え、経験が増えれば自信が湧いてくる。このループを作っていくことが大切です。

たった1つのフレーズでも、ネイティブっぽく発音できるようになることで発音の再現性にポジティブな影響を与えます。

一つでも得意な表現があれば、他のフレーズ等もより高いレベルで発音できるようレベルが引き上がります。

音楽ができるようになる構造から見てみる

スピーキングを「ジャズ」と置き換えてみると、イメージが湧きやすいかもしれません。

発音が綺麗なことは「チューニングがあっている」や「リズムがあっている」という状態。

再現できるフレーズがあるというのは「コード進行を理解している」という状態のようなものです。

これらの基礎が身についた段階で、めちゃくちゃ緊張しながらジャズのセッションに参加してみる。簡単なコード進行しかできないので表現は限定的ですが、周りの上手いプレイヤーはそれをうまくカバーしてくれる。結果としてお客さんからは拍手をもらえることができた。

何とか上手くいったけれど、自分の中では「もっと上手くなりたい」という気持ちが芽生えて、自分の課題点を振り返る。「次はこれができるようになるぞ!」と目的意識を持って練習に取り組む。

どうでしょうか?

多くの人にとって現実味のない空想的な話ですが、少しはイメージが掴めたと思います。

・話を展開する力=コード進行
・発音(を含めた基礎)=チューニング
・会話への対応力(柔軟性)=指の運動・経験

こんな感じで、スピーキングと音楽との関係性を表すことができるかもしれません。

英語のスピーキング練習というと、いきなり「よく使うフレーズ集」を暗記することから始める人がいますが、これはチューニングがあっていない状態でギターを曲を弾こうとしているようなものです。

だから基礎を飛ばして「とにかく英語を真似して〜〜〜」という考えには反対です。真似するってセンスが必要なんです。(いきなり「耳コピで弾いてみて」なんて言われたらキツイですよね)

だから基礎は大切。特に言語習得の臨界期(12歳くらいまで)を過ぎてから学習する時には、感覚ではなく頭で理論からしっかりと基礎を身につけていく。

だけど基礎だけでは応用が身に付かない。だから、基礎を身につけながら実践をこなしていく、このプロセスが最も効率よくスキルを伸ばすことができると考えました。

「定型表現」と「自由表現」の組み合わせ

スピーキングは、

① 定型表現
② 自由表現

の2つを組み合わせてコミュニケーションを展開していきます。

そして多くの場合、②自由表現で苦戦すると思います。

自由表現と聞くといかにも範囲が広そうに思いますが、結局は「事実の描写」ができればほとんど全ての内容をカバーできます。

つまり「〜は・・・である」のような文章を積み上げていけば、主張も日常生活で使うフレーズも網羅できてしまいます。

そして「描写」を紐解いてみると、「主語群+動詞+(あれば)目的語群/補語郡」のかたまりです。

つまり名詞のかたまりをつくって、それを動詞と紐づけてあげれば文章は完成します。

英語の名詞句は、特に日本語と語順が異なるので(特に関係代名詞とかがあると)その部分が苦手な人が多いと思います。だから、ネイティブがどんな表現を使って名詞のまとまりを作っているのか、この観点から表現をインプットしてみるとイメージがつかみやすくなります。

プレーンな文章で上記が再現できるようになってくれば、後は、

・比較
・仮定
・関係詞
・受動態
・時制を変えてみる

といった少し難易度の高い表現を反復して練習し、表現を定着させていけば着実に使えるフレーズは増えていくはずです。

継続は力なり

突然ですが、私はめちゃくちゃ音痴です。

大学時代、友人とカラオケに行って最新の採点機械で測定したところ十八番の「小さな恋の歌(MONGOL800)」で50点台という記録を叩き出しました。友人からすると、平均的な人であれば70点台は出るようで「初めてみた点数」だったようです。

こんな音痴な私ですが、歌を歌うことは好きです。夜の鴨川を歩いている時に、人がいないことを確認してスピッツの「スパイダー」を熱唱することもあります。

何が言いたいのかというと「好き」という感情を持つことは、継続することに直結するということです。

言語学習は生涯学習と言われています。つまり、一生完璧という状態にはならないスキルで、常に学習する姿勢が求められるということです。

色々と書きましたが、スピーキングを効率的に伸ばす最も重要な要素の根本は、英語を好きになるということである。ということを伝えたかったのです。

義務として英語をやり始めると、どうしても効率を考えてしまいます。

受験のようなインプット中心の学習であれば、それでも一定の効果があります。しかし、スピーキングのような知識と自己が融合されてアウトプットする要素は、自分の性格や特性を映し出す鏡です。

効率的にすぐに出てくる模範的な「答え」ではない。失敗でもいいから自分でチャレンジした「過程」を通して、自分らしさは形作られていく。

どうか安直な答えばかりに気を取られないで。コミュニケーションは、作業ではなく、本来はもっと楽しいもののはずです。

今回書いたことは、学術的な理論に裏付けられているわけではなく、私の個人的な感覚を言語化したものです。その点を考慮して読んでいただけると幸いです。


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